2021年度共通テスト国語(評論)を解いてみる話

この文章について


・国語(現代文)の選択問題を解く際の思考の言語化を試みる
・共通テストに限らず文章を論理的に読むテクニックとして使える
・筆者の現役時代はセンター国語満点
・脳が終わる前に備忘録として残したい
・以下の記事から読んでいただくのがおすすめ


解いた問題

2021年度大学入学共通テスト 国語 大問1
※再試験じゃないほう



実践

用語説明

要約の前に,本文中に登場する意味のわからん語句を説明しておく。

歴史性を帯びた(段落2)

 歴史がある,くらいにとればよい。難しく言ってるだけ。

意味論的な危機(段落3)

 普通,意味論の意味を正確に理解している受験生はいない。意味のわからない語句と遭遇してもあきらめず,言い換えている箇所がないか探す。たとえば段落3「このような言わば意味論的な危機・・・」とあるが,「意味論的な危機」というのは「このような言わば」より前の部分の比喩(たとえ)であることに気付けるだろうか。「○○○はたとえば意味論的な危機のようなものだ。」とあれば,「意味論的な危機」がわからなくても「○○○」を読めばいい。今回の場合,「このような言わば」の前の2文を読めば,「意味論的な危機」の具体的な説明になっている。

アルケオロジー(段落6)※長くなり申し訳ない。

 アルケオロジーとは「ある対象の歴史を説明する」ための手法のこと。歴史を説明するというのは,「時間を縦軸に取り,任意の横軸についてその移り変わりを分析する」ということ。
 たとえば「日本のアイドル」の歴史を説明する場合。横軸として,「プロモーションのしかた」とか「ファンとの関係性」とか「楽曲の傾向」とか「アーティスト性」とか色々と考えられる。これら横軸が,時間と言う縦軸に沿ってどう移り変わってきたのか。歴史を説明するというのはそういうこと。
 アルケオロジーにおいては,「物」「言葉」「記号」「人間」の関係性(知の枠組み(エピステーメー):後述)を横軸として歴史の説明を試みる手法のことである。

知の枠組み(エピステーメー)(段落7)
 
 知の枠組み(エピステーメー)とは,分かりやすい言葉で「常識」と考えてよい。
 僕が歩行中に横断歩道にさしかかり,目の前の歩行者用信号機が赤く点灯していたら,僕は立ち止まる。これは僕が現代の日本の交通ルールという「常識」で物事を考えており,「信号機が赤く点灯していること」と「歩行をストップすること」に関係性を認めているからだ。すなわち,知の枠組み(常識)とは,「何かと何かを結び付けて考えるときのルール」と言い換えることもできる。僕が平安時代の常識で物事を考えていないのと同じで,知の枠組みが時代と共に変わってゆくことも理解できるだろう。
 ちなみに,知の枠組みを理解しようとして「物」「言葉」「記号」「人間」を考え出すとドツボにハマるので注意。

記号(段落8)
 記号って「?」とか「¥」とかのイメージがあると思う。間違ってはないんだけど,本文ではもう少し広い意味で使われている。
 記号とは,「ある約束に基づき,何らかの意味を持たされたもの」と解釈してほしい。たとえば「?」には「疑問」という意味が含まれているが,元々「?」という形自体には意味がなく,「?という記号で疑問という意味を表すことにしよう」という約束にみんなが従っているだけのことである。信号機の例でいえば,「赤く点灯したら止まれという意味にしよう」と約束したからそういう意味が備わっている,ということだ。
 つまり妖怪が「記号」であるというのは,その妖怪の見た目のほかに「この妖怪が現れるとき,○○という現象を引き起こすという意味がある」などと認識されていたということ。

本文の要約

※厳密な文意より内容理解を重視。細かいニュアンスは捨象されることは覚悟の上で,90%くらい理解することが目的。

「フィクションとしての妖怪」はどのように生まれたのか。

人間は,たまに知識や経験で説明のできない現象に遭遇する。説明ができない,理屈がわからないということは人間の心に不安や恐怖を発生させる。そこで「これは妖怪のせいだ!」とすることで,なんとか秩序を保つことができた。妖怪は現実に発生した不可解な現象を説明するためのものであるから,当然リアルな存在だった。フィクションとしての妖怪が生まれるためには,妖怪に対する根本的な認識が変わる必要がある。

(妖怪に対する認識の変容を分析する方法論)アルケオロジーという手法を用いて妖怪に対する認識の変容を分析する。アルケオロジーとは,知の枠組みの変容として歴史を捉える手法であり,知の枠組みとは物事に関係性を見出すルール(秩序)のことである。知の枠組みの変容とは,「物」「言葉」「記号」「人間」の関係性の変容と(本文では)定義される。

中世において,妖怪は神仏からの「言葉」を伝える「記号」の役割を果たしていた。妖怪のみならずあらゆる「物」は「記号」でもあった(※あらゆる物に意味が存在していたということ)。その「記号」は人間が操作できるものではなく,人間は「記号」の持つ意味を受け取ることしかできなかった。

時間の経過につれ,人間は「物」を「記号」ではなく「物」単体として(「物」がもつ意味を切り離して)扱うようになる。また,「記号」を読み取るだけでなく自分自身で作る(コントロール下におく)ことができるようになる。(妖怪から意味を剥ぎ取り,自分で作った意味を貼り付けることが可能に。)本来持っていた意味をはぎ取られ,人間が人工的に意味を与えた「記号」をとくに「表象」とよぶ。

意味をもつ「記号」とは異なり,「表象」はその視覚的側面が重要だ。(自由に意味を設定できるようになったから,外見でしか個性を出せない)それは現代でいう「キャラクター」だ。キャラクター化した妖怪は,完全にリアリティを失い,フィクションの存在として娯楽の題材と化していった。妖怪のキャラクター化は,人間の力があらゆる「物」に及んだ結果である。(※この辺りの記述,なんでもかんでも萌えキャラにアレンジしてしまう日本人の精神の芽生えを感じる。某名状しがたいアニメとか。)

ここまでが18世紀後半以降の都市における妖怪観。ところが近代になると別な妖怪観が生まれる。キャラクター化してリアリティから切り離された妖怪が,別な形でリアルさを取り戻すのだ。

そのきっかけは,「人間」そのものへの懐疑だ。人間は自らの内面をコントロールできないものだと認識し始めた。これまで説明できない現象は外部にしか存在しなかったが,それが自分の内面に見つかったということだ。妖怪は,説明不可能な現象を説明するために生まれた。かくして妖怪は人間の内面に存在するものとして新たな居場所を見つけ,リアルさを手に入れた。

人間の内面はよくわからん,という認識とともに,「私」という近代特有の思想が登場した。自分自身の内面を「不気味なもの」として,一方では可能性を秘めた存在として捉え,そんな「私」を投影した謎めいた存在として妖怪は扱われるようになっていった。

妖怪観の変容まとめ
①説明できない現象に意味を与える「記号」。神仏の「言葉」と同一視された。リアル。

②人間に意味をコントロールされた「表象」(キャラクター)。フィクションとしての娯楽の対象に。リアリティなくなる。

③人間の内面のコントロール不可な領域の不気味さを投影した存在。①の頃の妖怪とはまた別な形でリアリティ復活。


解説

問2 正解:①

 「民間伝承としての妖怪とは,そうした存在だったのである。」とあるので傍線部Aよりも前にその説明がなされていると判断する。段落3ではフィクションになる前の妖怪が説明されていることに着目し,選択肢を削る。

①:正解。不可解な現象に意味を与え,説明を可能にするための存在として説明に誤りはない。

②:「フィクションの領域において」が誤り。この時代の妖怪はフィクションではない。

③:「目の前の出来事から予測される未来への不安」が誤り。予測可能な出来事に妖怪は関係ない。

④:「日常的な因果関係にもとづく」が誤り。妖怪は日常的な因果関係で説明できない現象と関係がある。

⑤:「意味論的な危機を人間の心に生み出す」が誤り。むしろ妖怪は「意味論的な危機」への対策として生まれた存在。


問3 正解:②

アルケオロジーとは,(「物」「言葉」「記号」「人間」の)「関係性」の「変容」に着目する手法であることに注意。

①:「その時代の事物の客観的な秩序を復元して」が誤り。「変容」という要素がない。

②:正解。前述した説明と矛盾はない。

③:「さまざまな文化事象を「物」「言葉」「記号」「人間」という要素ごとに分類して整理し直すことで」が誤り。「物」「言葉」「記号」「人間」は文化事象の要素ではなく,人が物事を捉えるときの枠組みのことである。

④:「ある時代の~」以降が誤り。「変容」という要素がない。

⑤:「世界史的変動として描き出す」が誤り。「知の枠組みの変容」として描き出すのがアルケオロジー。

問4 正解:②

傍線部Cの説明問題。「こうした妖怪の表象化」とあるので,それ以前から探す。具体的には段落14。

①:「人間が人間を戒めるための道具になった」が誤り。そんな記述はない。

②:正解。矛盾はない。

③:「人間世界に実在するかのように感じられるようになった」が誤り。表象によって妖怪のリアリティは喪失した。

④:因果関係が逆。X「妖怪が人間の手で自由自在に作り出されるものになった」Y「人間の力が世界のあらゆる局面や物に及ぶきっかけになった」X⇒YではなくY⇒Xの順番が正しいので選択肢としては誤り。

⑤:「妖怪が(中略)人間の性質を戯画的に形象した娯楽の題材になった」が誤り。妖怪がキャラクター化したことで人間のもつ性質を付与された妖怪が生み出された可能性は否定できないが,本文の内容だけでは断言できないことから不正解。

問5 (ⅰ)正解:④

なんかもうここは,ちゃんと文章を読んでくれとしか言いようがない。どうしても解説読みたければT進とか読んでわからないところがあればコメントで教えてほしい。

問5 (ⅱ)Ⅲ 正解:③
 
①:人間によって作り出された妖怪は娯楽の対象であり,恐怖を感じさせるものではない。(ここでの恐怖というのはフィクションで感じるものではないマジモンの恐怖のこと)

②:人間によって作り出された妖怪は神霊からの言葉を伝える記号としての役割を失ったものであるから誤り。

③:正解。

④:「人を化かす」が誤り。そんな記述はない。

問5 (ⅱ)Ⅳ 正解:④
 
①②③:「私」の説明として本文中には出てきていないので誤り。

問5 (ⅲ)正解:②

ここにきて新しい文章が登場して面食らうが,長めの選択肢に対し落ち着いて誤りを探していけば大丈夫。

①:「別の僕の行動によって自分が周囲から承認されている」が誤り。そんな記述はない。

②:正解。「『私』が自分自身を制御できない不安定な存在」という記述も元の本文の内容と一致する。

③:「会いたいと思っていた」「思いをかなえてくれた」誤り。

④:「自分が分身に乗っ取られるかもしれないという不安を感じた」が誤り。そんな記述はない。

⑤:「他人にうわさされることに困惑していた」が誤り。そんな記述はない。



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