2021年度共通テスト国語(小説)を解いてみる話

この文章について


・国語(現代文)の選択問題を解く際の思考の言語化を試みる
・共通テストに限らず文章を論理的に読むテクニックとして使える
・筆者の現役時代はセンター国語満点
・脳が終わる前に備忘録として残したい
・以下の記事から読んでいただくのがおすすめ


解いた問題

2021年度大学入学共通テスト 国語 大問1
※再試験じゃないほう



実践

本文の要約

※厳密な文意より内容理解を重視。細かいニュアンスは捨象されることは覚悟の上で,90%くらい理解することが目的。

「私」は,病気がよくなったW君から,病中の見舞の礼として上等な反物を贈りたい旨の申出を受ける。「私」にそれを辞退する手段はなく,出来上がった羽織は「私」の持ち物の中で最も貴重なものとなった。

「私」は転職することとなった。記念品としてまた上等な懐中時計を貰ったが,これはW君が自身の評判を落としてまで周りから金をかき集め,買ったものだった。W君の真心に心から感謝の念を抱く一方で,W君のいささか過剰とも思える熱意に「私」は一種困惑するような気持ちを覚える。

転職して以降,「私」はW君と会うことはなかった。W君が病に倒れ職を辞したことを聞き,見舞に訪れなければと思う「私」であったが,多忙を理由に訪問を後回しにし続けた。時間が経ち自らの境遇も変わっていくにつれ,自責の念が増す一方で,「私」がW君を訪ねることはなかった。

実のところ,「私」がW君を訪れない本当の理由は羽織と時計である。羽織と時計があることで「私」にとってはW君に借りがあるように感じられた。借りがある負い目を意識してか,W君を訪れる気持ちにならないのだった。しかも,私がさらに恐れているのはW君の妻だった。羽織や時計を貰ったにもかかわらず,無沙汰を続ける自らに対する罪の意識が「W君の妻」という形をとり,自分を責める。(※W君の妻のキャラクターは「私」が作り出したものであり,妻の発言は「私」が内心自分に対して思っていることである。)ついに私は,偶然による事態の打開を期待し,積極的にW君の下を訪れようとすることを止めるのだった。

三・四年が経ち,ふとした機会に「私」は偶然を装ってW君の店の近くに立ち寄る。W君の妻か従妹に遭遇しないものかと期待しつつ店の様子を窺うものの,店にいたのは全く見知らぬ下女であった。

解説

問1 (ア)② (イ)② (ウ)①

問2 正解:③

「くすぐる」という語句の意味だが,人の心情に対して使う場合は「そわそわさせる」とか「いい気持ちにさせる」ようなニュアンスを伴う。

①:「妻に対する,笑い出したいような気持ち」が誤り。純粋なおかしみを感じている描写はない。

②:「不安になっている」妻に黙っていたことがバレたときに怒られる可能性は否定できないが,根拠となる描写はない。

③:正解。くすぐられるという言葉のニュアンスを矛盾なく含んでいる。

④:「物足りなく思う気持ち」が誤り。「くすぐられる」にはそのような意味はない。

⑤:「自分を侮っている妻への不満」が誤り。妻へ不満を抱いている描写はない。

問3 正解:①

「感謝の念と共に,何だかやましいような気恥しいような,訳のわからぬ一種の重苦しい感情を起させるのである。」は,本文42行目「感謝の念に打たれるのであった。それと同時に,その一種の恩恵に対して,常に或る重い圧迫を感ぜざるを得なかった。」に対応していることがわかる。それぞれ対応している箇所を読めば,つまり傍線部Bは「W君からの恩恵に対する重い圧迫」と言い換えられる。

①:正解。W君は「私」の身に余るような品物を二つもくれた。(羽織に合うような袴を持っていないことから,身に余ると表現できるだろう)それはW君の真心である。「私」は感謝の念を抱くのだが,それと同時に,W君の気持ち(厚い情誼)を「重い圧迫」として受け止めている。

②:「さしたる必要を感じていなかった」が誤り。そんな記述はない。

③:「W君に向けられた批判をそのまま自分にも向けられたものと受け取っている」が誤り。そんな記述はない。

④:「W君の厚意にも自分へ向けられた哀れみを感じ取っている」が誤り。そのような気持ちは記述からは読み取れない。

⑤:「その厚意には見返りを期待する底意をも察知している」が誤り。該当する記述はない。「重い圧迫」を「俺もあげたんだから見返りくれよ」というW君からのプレッシャーと読めなくもないが,その場合「やましいような気恥しいような」と矛盾するため不適。

問4 正解:①

何に対して自分が引け目を感じているのかを読み取りたい。

①:正解。本文62行目のW君の妻の台詞(想像上だが)の内容と一致。「私」が恐れている内容が書かれている。

②:「転職後に家計も潤わず」転職後の「私」の家計に関する記述はないため,断言してしまっているこの選択肢は誤り。

③:「一生忘れてはいけないと思う」そこまでは言ってない。

④:「苦しい状況にあって頼りにもしているだろうW君」病に倒れたあとのW君の意向は記述されていない。「妻君の前では卑屈にへりくだらねばならない」そんな記述はない。

⑤:「W君が「私」を立派な人間と評価してくれた」していない。

問5 正解:⑤

①:「質素な生活を演出しようと」そんな記述はない。

②:「妻にまで虚勢を張るはめになっている」虚勢を張るとは「弱い自分を隠すために実際よりも自分を強く見せる」という意味だが,「私」の行動は該当しない。

③:「家族を犠牲にしてまで自分を厚遇してくれたW君」そんな記述はない。

④:「W君との家族の間柄がこじれてしまった」が誤り。W君の妻に責められたのは「私」が恐れた想像である。

⑤:正解。・・・なのだが,正直怪しい選択肢である。「偶然を装わなければW君と会えないとまで思っていた」とあるが,ちょっと言い過ぎな感はある。「会えない」の部分が特に。根拠にするとすれば66行目「そんなことを思うと迚も行く気にはなれなかった」だが,「行く気になれなかった」のと「会えないとまで思った」は言い換えとしてふさわしいのか疑問である。
 とはいえ①~④の選択肢は⑤と比較してどれも「明確な誤り」を指摘可能であるから,消去法として⑤を残すほかない。これが「正解の選択肢を選ぼうとしてはいけない」の具体例である。

問6 (ⅰ)正解:④

まずは【資料】における評者の意見を整理。

・「羽織と時計」の作者(以降,作者)はこれまでの作品において,ありのままを多方面から描写することで或るものを浮き彫りにしていた。それが長所であった。
・作者はもともと生活の一点だけにフォーカスして書くような「小話作家」ではない。
・ところが「羽織と時計」では「羽織と時計」にフォーカスをあてすぎる余りに小話の雰囲気が漂っている。「羽織と時計」にこだわりすぎず,これまでのリアルな描写路線でいけばもっと良い作品だった。

作者の長所:生活を多方面から描写する手法。
今回:「羽織と時計」という一点にフォーカスしたため,良さが発揮されていない。

①:「W君の描き方に予期せぬぶれが生じている」が誤り。W君の描き方が変化したような記述はない。「多くの挿話」について,挿話はエピソードのことだが,W君のエピソードは①羽織と②時計の2つしか記述がなく,「多くの」という表現に相違する。

②:「W君の悲痛な思い」が誤り。評者は登場人物の心情について何も述べていない。

③:「W君の一面だけを取り上げ美化している」が誤り。そんなことは書いていない。

④:正解。「挿話の巧みなまとまりにこだわる」のがいかにも小話らしいと評者は指摘している。

問6 (ⅱ)正解:④

①:「W君を信頼できなくなっていく『私』の動揺」が誤り。本文中にW君への信頼が揺らぐ描写はない。

②:「複雑な人間関係に耐えられず生活の破綻を招いてしまったW君」が誤り。そんな記述はない。

③:「W君の思いの純粋さを想起させる」が誤り。「羽織と時計――」という表現をきっかけに「私」の心情を吐露する用法で用いられている。

④:正解。「羽織と時計」はW君の厚意の象徴であるが,それがかえって「私」に重苦しい感情を招き,やがて疎遠になってしまったことを記述している。


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