Miles Davis「in a silent way」

タイトルに「サイレント」とつくだけあり、「ダークメイガス」「ゲットアップウィズイット」等の一連の作品とは違い、なんとなく「アンビエント」な印象も受けたが、この作品も明確にジャンル分けできる音楽ではない。

まず曲名が

1.「shhh/peaceful」
2.「in a silent way/it’s about that time」

多分曲名に意味はないとは思うが(笑)

この作品は1969年にリリースされたものだが、同年のその後「bitches blew」が発表される、なのでマイルスが本格的に「ロック化、エレキ化」される前だ。

この作品での「マイルスの狙い」は何だったのだろうか、一聴するとマイルスの中でもわかりずらい「謎」な作品の一つの様な気もするが。

それにしてもメンバーが凄い

チックコリア(ep)ジョンマクラフリン(eg)ウェインショーター(sax)ジョーザヴィヌル(organ)

これだけのメンバーを集めてただ何となく演奏してみました、なんてことはないだろう(当たり前だ)

「インアサイレンアウェイ」はマイルスではなくジョーザンビヌが持ってきた曲らしい、しかしこのレコーディングでマイルスは

…「(インアサイレントアウェイを)ジョーが書いたとおりに演奏してみると、沢山のコードが雑然と重なっていてあまり効果的とは言えなかった、そこで俺はレコーディングの時に、コードが書かれた紙を捨てさせて、全員にただメロディを演奏し、その後もそれだけを基に演奏するように指示した」

「すると誰も聴いたことがない音楽が「カインドオブブルー」でできたように、素晴らしいミュージシャンが揃っていれば、状況に応じて、そこにあるもの以上の演奏が生まれることがある。実際「インアサイレントアウェイ」は、凄く新鮮で美しい音楽ができ上がった」

…「マイルスデイヴィス自伝から引用」

この作品の前「マイルスインザスカイ」「キリマンジェロの娘」でエレキ路線を導入していた、そしてこの作品でのチックコリアのエレキピアノを聴くと
後にリリースされる「リターントゥフォーエヴァー」で完成されたサウンドの誕生前夜といった感じを受ける。

実際このアルバムは後にジャズ界に大きな影響を及ぼすことになる。

このアルバムに参加したミュージシャン達、チックコリアが「リターントゥフォーエバー」を、ジョンマクラフニンが「火の鳥」を発表し(このアルバムはかっこいいです)ウェインショーターがウェザーリポートを結成し、「フュージョンブーム」を起こす。

この「フュージョンブーム」が起こると従来のビバップやハードバップなどのアコースティックなジャズは脇に追いやられることになる。

ジャズ喫茶「いーぐる」の店主後藤さんは「悪夢のようなフュージョンブーム」といっていたが、この「フュージョンブーム」に乗ろうかどうか迷ったらしい、その後の「ハードバップリヴァイヴァル」が起こるまで中途半端にフュージョンのアルバムを取り入れて何となくやり過ごしたらしいが。

「フュージョン」という言葉は「融合」という意味だが、結局「フュージョン」というのは自分には「ジャズとロックを融合させた」ということだったと思うが、当時マイルスが当時の音楽の主流を敏感に取り入れた結果起こったものだった。
 
そして「in a silent away」は「謎」でも何でもなく新しく音楽を生み出したマイルスの中でもかなり重要なアルバムでジャズ界の中では「フュージョンブーム」のきっかけとなった作品だったのである。

そしてこの作品だけでなく「on the corner 」もそうだが、マイルスのやったことはその場の一過性のものではなく「未来を見据えたもの」であることが分かる。

エレキ化し始めたマイルスの音楽性は一聴すると理解が難しいが、実は数式の様にかなり計算されたものだった。

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