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大人の「現代文」67……『こころ』読みの基本軸について

人はどんなときに絶望的な苦悩をするのか?


 前回までの、下一・二をまとめると

「先生」は「全日本人の代表である青年」に、人はどんな『卑怯』な振る舞いをしたとき、その行為の後、死にたくなるほどの、自分は世界の中にひとりぼっち感覚に煩悶するのか」という「暗い倫理的な教訓」を開示する宣言をしているということです。

これを、もっとシンプルにします。

 「人は、他者との関係において、どんな卑怯な振る舞いをしたとき、その罰として、絶対的な孤独になってしまうのか」ということです。これが先生が青年に与える「教訓」の具体的中身です。

もっとシンプルに言えば

 人間がしてはならない卑怯な行為とは何か、ということです。これは我々が日常生活でときおり耳にする「そんなことをしたら人としてだめでしょ」といフレーズの別表現ですよね。
 
 こういう風にまとめると、生徒の目つきがかわります。生徒は、皆、何千万人のうちの一人の日本人として、「青年」と同化します。

 注意していただきたいのは、先生は単に過去の苦い個人的経験を語るのではなく、それは「思想」だと言っているということです。実際、青年にはこう語っています。

   あなたは現代の思想問題について、よく私に議論を向けたことを記憶
   しているでしょう。……私はあなたの意見を軽蔑までしなかったけれ
   ども、けっして尊敬を払い得る程度にはなれなかった。あなたの考え
   には何らの背景もなかったし、あなたは自分の過去を持つにはあまり
   若過ぎたからです。(下 二 ちくま文庫 より引用)

 「思想」は「背景」を持ち、誰にも通じる、ある一般的な原理を、はらまねばならないということです。

 

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