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大人の「現代文」53……『舞姫』これでひとまず終わりにします。

忘れられないスピーチ

 
 
 いままで読んでいただいた方にはほんとうにお礼を言いたいと思います。ありがとうございました。『舞姫』とりあえずこれでおしまいにします。まだ、豊太郞最後の述懐など触れる必要があるかもしれませんが、これは研究者の方にお任せします。

 ここで一つ、私が、この作品に関して深く考えさせられた、生徒の生の声について紹介します。といっても『舞姫』論ではありません。この作品の主題に深く関わる内容と私が思ったある授業のエピソードです。

 もうかなり前のことですが、ある年の授業で「三分間スピーチ」を実施したことがあります。授業の冒頭の3分間で、自分で考えた何らかの主題について、自分なりの発表するという実践です。生徒は一瞬戸惑いの表情を浮かべますが、皆一生懸命取り組んでくれました。その中で、発表されたある女子生徒の「忘れられないスピーチ」を一つ紹介しますね。彼女は高校2年生です。

 スピーチのタイトルは「親友って何?」というものでした。簡単に紹介します。

  私は、中学時代B子とC子という二人の親友がいましたが、そのことで考え込んでしまったことについて発表します。親友とはどういう存在なのか、という内容です。何を悩んだかというと、こういうことです。
 
 中学時代、私はa君という好きな子がいました。ただ想っていただけなんです。でも、B子はなぜか、私がa君に好意を持っていることに気づいたらしく、しきりに聞きたがるのです。あなたa君好きなんでしょ?そのこと私に秘密にしないで、しゃべって!と(グイグイ)迫ってくるんです。そしてその最後のことばに、全部しゃべってくれていいでしょ!親友なんだから!と言われ(グサッと)来たんです。
 
 一方C子は、そんな態度はとりませんでした。彼女は決してa君の話題には触れません。でも私は彼女を「親友」と思っています。ちょっと変なんですが、私、とうとうC子に自分の方から直接聞いちゃったんです。私実はa君に好意を持っているんだけど、あなたはそのことに全然触れないよね。どうして?って。

 するとC子はこう答えました。あなたがa君に好意を持っていることはわかっていたよ。でもあなたはきっとそのことを話題にしたくはないんじゃないかと思っていたの。だから黙っていたの。だってあなたは私の「親友」だから。(と言われてまたグサッときたんです)
 で 私は考え込んでしまったのです。私はB子もC子も親友と思っているけど、一体どっちがホントの親友なんだろうかって。

 これが、ありのままの実感を見つめ、全く飾らない彼女の素晴らしいスピーチの内容でした。私は生徒のこころはこういうところにあるのだと、改めて頭をたたかれたような思いをしたのです。このエピソードから何十年も経ちますが、今も生徒にこれを話すと、まず99%の生徒は鋭く反応します。

   『舞姫』との関わりですか?豊太郞と相沢の親友関係、かつエリスとの関係いずれも、彼女とB子との親密な関係性に通じます。ではC子はどうなんでしょうか?これは、鷗外と現代日本人の違い、すなわち時代の相違がC子という新たなスタンダードを生み出していると「私」は理解しています。我々の心にB子とC子は併存していませんか?スピーチした彼女は曇りない目でそれを語ったのでした。



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