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『ケーガン協同学習入門』2023読書記録⑥

スペンサー・ケーガン原著、佐藤敬一/関田一彦監訳『ケーガン協同学習入門』 2021年、大学図書出版

はじめてのnoteでの読書記録は、『ケーガン協同学習入門』。尊敬する先生方が言及されていたので私も読んでみた。
「大学図書出版」なんて、難しいのかなと思っていたけどぜんぜんそんなことはなく、94ページととても短い本で、使われている言葉も易しくて、「入門」というタイトルの通り。休みの日なら1日で読める。

ケーガン協同学習の特徴の1つは授業に取り入れやすいことだ。構造化された学習手順(ストラクチャー)はケーガン協同学習の4つの原理(PIES)
P 互恵的な相互依存
I  個人の責任が明白である
E 参加の平等性が確保されている
S 活動の同時性に配慮している
(p7)
に基づいているのだけど、

ケーガン・ストラクチャーを使っている時、あなたはこの原理のことは気にしなくてもいいのです。原理はどのストラクチャーにも組み込まれているからです。

p46

ということなので(!)、ストラクチャー(本書で紹介されているのは代表的な5つ)を授業に取り入れることで協同学習への第一歩を踏み出すことができる(ストラクチャーは200以上あって、ケーガンの「電話帳のように厚い」主著には100近くのストラクチャーが紹介されているという p88)。
実際「各授業に1種類のケーガン・ストラクチャーを取り入れるという小さな歩みから始めました」(p69)という学校もある。
クラス全員が「クエスション(表)・アンサー(裏)カード」を持ってお互いにクイズを出し合い、終わったらカードを交換して新しい相手を探す「クイズ・クイズ・トレード」(p26)は、文法の学習など、知識・技能の定着に私も使ってみたいなあ。

ただ、読み進めていると、この本で紹介されているようなストラクチャーでは得られない学びもあるのでは?という疑問が浮かぶ。
例えば石井順治先生の本にあるような、一人の発言、一人の音読をクラス全員が耳をすませて聞く授業もあるはずだ。
以前「学びの共同体」の研究をされている方が「4人組だと、誰かが会話に入らなくても許されるところがいいんですよねえ」と言っていたことなども思い出す。
でも「あとがきに代えて:監訳者解説」を読んでずいぶんとすっきりした。例えば、監訳者の関田一彦さんのこんな言葉が記されている。

PIESのPとI、すなわち「互恵的な相互依存」と「個人の責任」、この2つは協同学習の研究者ならば誰でも共有・強調する協同学習の成立要件です。その上で、「平等な参加」と「活動の同時性」という2つを強調するところがユニークです。

p88

ストラクチャーを用いるのは教師であり、そのストラクチャーに埋め込まれた相互交流の枠のなかでの学習活動にとどまってしまうリスクがあります。教師によって制御される「平等な参加」と「活動の同時性」という2つの要件は、彼の協同学習の特長であり、制約ともいえるでしょう。

p90

しかし、ケーガンが優先したのが人種差別や社会・経済的格差を乗り越えた「成績格差の改善」(p89)であり、「毎日、授業ごとに『公平な参加』や生徒主導の協同学習を組み込んだ指導案を作るのは多くの教師にとって至難」(p90)であるという監訳者の言葉を読むと、ケーガンがこの4つの原理に基づいたストラクチャーを提案するのも納得がいく。
それにしても、この監訳者の距離感がすごい。よくあるような、「この手法が最高!」「これならうまくいく!」みたいなのとは、真逆の態度だ。「あとがきに代えて:監訳者解説」を読んで、この本への信頼感がぐっと増した。何かに心酔するということができなくて、いつも「いいとこどり」になってしまう自分にとっては特に重要な距離感だ。

このブックレットを出版するにはものすごい紆余曲折があったようだけど、いつか、ケーガンの主著が翻訳出版されるといいですね。

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