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第9回「ガチ中華」の2つの特徴~その1中国語圏各地の地方料理

人気の4ジャンルの次は「ガチ中華」の大きな2つの特徴のうちのひとつ、「これまで日本では味わえなかった中国語圏各地の地方料理」の話をしましょう。

中華料理は一般に四大料理(北京、上海、広東、四川)が知られていますが、いま都内に急増しているのは、それ以外の地方の料理で、挙げればきりがありませんが、たとえば湖南や貴州、雲南、福建、西安、新疆ウイグル、内モンゴル、東北などの郷土料理です。
 
今回は、都内で食べられるガチな地方料理をざっと紹介しましょう。
 
■四川料理
 
近年、日本で愛好家が増えている「麻辣(マーラー)」グルメの発祥地が四川省。これまで日本には存在しなかったシビれる辛さは衝撃的です。

池袋の「成都姑娘酸菜魚」の酸菜魚


酸っぱ辛い発酵魚鍋の「酸菜魚(スアンツァイユィ)」もそのひとつ。漁師が売れ残った小魚を農家で野菜の漬物(酸菜)と交換し、鍋で魚と一緒に煮込んだことから生まれたという、四川省のお隣で同じ食文化圏の重慶発祥の人気料理です。
 
第2回で紹介した料理はすべて四川料理です。

 
■東北料理
 
中国の「東北」とは、遼寧省、吉林省、黒龍江省の3省を指します。東北料理は、中国を代表する四大料理や八大料理には入らず、どちらかといえば田舎料理扱いですが、気候や風土に根差した独自の味覚も生んでいます。

西武新宿線武蔵関駅前の四川・東北料理店「翔ちゃん」の酸菜白肉鍋


ヘルシーで酸味とコクのある発酵鍋の「酸菜白肉鍋(スアンツァイバイロウグオ)」はそのひとつ。 酸菜(夏に収穫した白菜を甕で酢漬けしたもの)と薄切りの豚バラ肉や豆腐、春雨などを煮込んだものです。酸菜のコクやさわやかな酸味が肉を優しく包みます。
 
■華北・西北料理
 
華北とは北京を中心にした中国北方エリア(河北省、河南省、山東省、山西省など)で、西北地方は陝西省や甘粛省、寧夏回族自治区、青海省、新疆ウイグル自治区一帯の総称でシルクロード沿いのエリア。これに内モンゴル自治区を含めてもいいでしょう。

石神井公園の河南料理店「香満園」の刀削麺


このエリアの料理を提供する店が、都内でも増えています。特徴は羊料理とご当地麺、そして粉モノです。
 
第3回や第4回、第6回の料理がそれに当たります。

 
■湖南料理
 
湖南料理は「湘菜(シャンツァイ)」と呼ばれ、中国で最も辛い料理として知られています。代表的な味つけのひとつは、酸っぱく辛い「酸辛(スアンラー)」。発酵トウガラシの酸っぱくて辛い深みを味わえます。

 新宿の「湖南菜館」の酸辣湯

湖南の伝統スープ「酸辣湯(スアンラータン)」は、米酢やデンプン、花椒、醤油、ゴマ油などでつくった酸辣スープに、豆腐やタケノコ、キクラゲ、黄花(ホンカンゾウのつぼみ)、溶きタマゴ、パクチーなどを入れます。ほどよい酸味が食欲をそそり、疲れを癒してくれるでしょう。
 
■雲南・貴州料理
 
中国南西部に位置する雲南省と貴州省は、ともに山がちで少数民族が多く暮らす地方です。都内ではまだ数少ないですが、中国の少数民族のローカルフードを提供する店が現れています。

四谷三丁目の「食彩雲南」の気鍋鶏

 
雲南発祥のあっさり薬膳スープの「気鍋鶏(チーグオジー)」はそのひとつ。鶏肉を高麗人参や当帰(トウキ)、クコの実などの漢方と一緒に、真ん中に穴の空いた汽鍋という雲南発祥の鍋で蒸し煮してつくります。
 
■上海料理
 
上海料理は長江下流域に位置する江南地方の豊かな食材を使った醬油ベースの甘さが特徴です。トウガラシなどの刺激的な香辛料は基本使わないので、日本人の口に合うはずです。

池袋の上海料理店「大沪邨」の水晶蝦仁

 
水晶のように美しいエビ炒めの「水晶蝦仁(シュイジンシアレン)」はそのひとつ。上海を代表するエビ料理で、新鮮なむきエビを塩や砂糖、チキンパウダーで味つけし、タマゴの黄身を付け、でんぷん粉にまぶして軽く炒めたものです。
 
■香港・広東料理
 
日本の町中華のベースとなり、広く親しまれてきたのが、香港・広東料理です。

テーブルの上に所狭しと蒸籠を並べて楽しむ香港の飲茶


ここ数年、都内にカジュアルな香港フードを出す店が現れ始めています。香港の大衆食堂である茶餐廰や焼味、麺・粥専門店です。ご飯の上に甘ダレの港式チャーシューをのせたチャーシュー飯やエビワンタン麺などが気軽に味わえる、うれしい時代が到来しているのです。
 
■福建料理 
 
あまり知られていないかもしれませんが、香港・広東料理と同様に、日本人の口に合う刺激の少ないまろやかな「ガチ中華」が福建料理です。四川料理などに比べると見た目や味の強度にインパクトはないかもしれませんが、滋味あふれるスープやローカル小吃がたくさんあります。

かつて高田馬場にあった「沙県小吃」のワンタンスープ


たとえば、小ぶりなエビ入りのワンタンスープはそのひとつ。福建ではワンタンのことを「扁肉(ピェンロウ)」といい、上海のワンタンより小さなひと口サイズです。省都の福州の西隣にある三明市沙県のご当地小吃を出す飲食チェーン「沙県小吃」が都内や横浜に出店しています。
 
■台湾料理
 
多くの日本人が訪れる台湾の味は広く知られていることでしょう。海鮮を中心としたさっぱりした味つけで、中国各地の料理に比べ、油っぽさが抑えられており、夜市に見られるような屋台料理が充実しています。

かつて池袋にあった台湾屋台料理店「古都台南担担麺」の豆鼓鮮蚵

 
カキの豆鼓あんかけ炒めの「豆鼓鮮蚵(ドウチーシエンコー)」はそのひとつ。黒豆を発酵させた調味料の豆鼓(トウチ)を使ってカキにネギやショウガ、ニンニク、オイスターソースなどをからめて炒めた料理で、とろみのあるピリ辛ソースは紹興酒に合います。
 
次回から各地方料理を個別に、いくつかの主な料理も取り上げて、さらに詳しく解説します。
 

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