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第4回「ガチ中華」人気4ジャンル~③「ご当地麺」蘭州拉麺、ビャンビャン麺など

数ある「ガチ中華」の中でも、麺料理は試してみやすいジャンルではないでしょうか。

ここ数年、中国語圏各地の地方料理を出す店の増加にともない、さまざまな「ご当地麺」を出す店も現れています。

中国では長江を境に、大まかに北は小麦麺、南は米麺(米線、米粉など)が主流です。そこで前編は、北方のご当地麺を紹介しましょう。

■蘭州牛肉麺(甘粛)

蘭州拉麺の起源は清朝後半の甘粛省蘭州で、馬保子と傑三という親子が創案した牛肉麺のスープが澄んで香りが豊かと評判になり、広まったとされます。

「蘭州拉麺火焔山」(池袋)の蘭州牛肉面

蘭州拉麺にとって重要な要素は「一清、二白、三紅、四緑、五黄」といわれます。「清」とは澄んだ牛骨スープ、「白」は甘みを抑えるダイコン、「紅」はアクセントになるラー油、「緑」は香りを出す葉ニンニク、「黄」は手打ち麺を指します。

日本人に蘭州牛肉麺を知らしめた「馬子禄」(神保町)

2017年8月22日に神保町にオープンした蘭州拉麺店「馬子禄(マーズルー)」が話題となり、一時期は行列ができるほどの人気になりました。酸味の利いたクリアなスープと日本人好みのコシのあるしっかりした麺が魅力です。

この人気を見た多くの「ガチ中華」オーナーたちが相次いで、都内や関西圏で蘭州拉麺を次々とオープンさせました。その結果、おそらく都内に50軒くらいの店ができたと思われます。つまり、いま東京で最も気軽に食べられる「ガチ中華麺」は蘭州牛肉面だといえそうです。

この写真は、池袋にあるハラール認証店「蘭州拉麺火焔山」で撮影した麺職人です。この店ではカウンター越しに目の前で職人さんが麺を伸ばすダイナミックな仕事ぶりを眺めながら食事を楽しめます。

■ビャンビャン麺(西安)

ビャンビャン麺は、中国西北地方の陝西省にある古都・西安のご当地麺です。

「秦唐記」(茅場町、神保町など)の肉みそかけ(ジャージャー)ビャンビャン麺

小麦粉をこねた固まりを平たく伸ばして、しなるように音を立てて麺を旋回しながら伸ばしていくのですが、このしなる「ビャンビャン」という音が由来です。

タモリ倶楽部でも紹介された、「ビャン」という漢字が驚異の57という画数であることからも話題となりました。コシもありモチモチした麺の食感が日本人にも受け入れられ、数多くの食品メーカーから製品化もされました。

驚きの「ビャン」の漢字をパッケージにあしらったカップ麺も登場

ビャンビャン麺を日本に最初に持ち込んだのは、「秦唐記」という店のオーナーで山東省出身の小川克実さんです。

同店では、最も基本的なメニューであるこま切れの豚肉と野菜に油をさっとかける「油溌麺(ヨーポー麺)」やトマトのタマゴ炒めがけの「西紅柿麺(トマト麺)」、スープ入りの「牛肉麺(ニウロウミエン)」「ジャージャー麺」「軟骨麺」「ホルモン麺」などいろいろあります。

蘭州牛肉麺と同様、このビャンビャン麺が話題となったことで、「ガチ中華」オーナーたちも、自分の店のメニューにビャンビャン麺をどんどん取り入れるようになり、実は都内でも食べられる店はけっこうたくさんあります。

■刀削麺(山西)

刀削麺は、おそらく日本で最初に登場した「ガチ中華麺」といえるのではないでしょうか。

「刀削麺倶楽部」(池袋)の紅焼刀削麺はホットなスープが美味

というのは、早くも1990年代には都内で刀削麺を提供する中国人オーナーの店が現れていたからです。

うどんともラーメンとも違うあの独特のモチモチした食感は、くの字形をした刃物で手早く麺を削り、そのまま鍋のお湯に放り込んで茹でることから生まれます。都内で食べられる刀削麺は、スープの種類も豊富で、いろんな味を楽しめます。

■ホイミェン(河南)

古都・洛陽のある河南省にも名物の小麦麺料理があります。それが「ホイミェン(烩面)」です。

「香満園」(練馬区石神井公園)という河南省出身の女性オーナの店のホィミェン

羊肉と骨を煮込んだとろみのある白濁スープに平麺が入っています。羊肉や細切りしたコンブ、干豆腐、キクラゲなどがのっています。蘭州牛肉麺やビャンビャン麺に比べると知名度は劣りますが、最近、「ガチ中華麺」屋では提供する店が増えています。ぜひ試していただければと思います。

■莜麺栲栳栳(ヨウミエンカオラオラオ)(山西)

「中国の麺処」といわれるのが山西省です。そこには、日本人が考える麺料理の概念を超えたユニーク麺がたくさんあります。

その代表が「莜麺栲栳栳(ヨウミエンカオラオラオ)」でしょう。

都内でも稀少な山西ご当地麺を出す「山西亭」(東新宿)の莜麺栲栳栳

パッと見、蜂の巣のようで、これが麺? という感じがしますが、山西省産の莜麦(ヨウマイ=ハダカ燕麦)という小麦素材でつくった皮を円筒状に並べて蒸したものです。

トマトたっぷりのタマゴ炒めソースか山西省名物の黒酢ソースをつけていただきます。

このような珍しい麺を出す店は、東新宿にある「山西亭」をおいて他にありません。詳しくはこちらをお読みください

■ラグマン(新疆ウイグル)

中国には主要民族の漢族以外にもさまざまな(彼らが言うところの)「少数民族」が住んでいます。新疆ウイグル自治区に住むウイグル人はイスラム教徒であり、民族的には中央アジアの人たちです。

ですから、彼らが日常食としているのは、中央アジア料理であり、その代表的な麺は「ラグマン」です。

「新疆味道」(池袋)のラグマン(過油肉拌麺)

これは中央アジア全域で食べられている汁なし混ぜ麺で、中国語読みは「過油肉拌麺(グオヨウロウバンミエン)」といいます。羊肉やトマト、タマネギ、ニンニク、セロリ、ナスなどを炒め、麺を茹でたあと、軽いあんかけにしてそれらの具をのせてできあがり。麺はとてもコシがあって食べ応えがあります。

■ジャージァン麺(北京、山東)

中国の北方麺といえば、「炸醤麺(ジャージァンミエン)」が広く知られています。

「重慶小麺 味道」(池袋)の炸醤麺

いわゆる肉ミソかけ汁なし麺で、味はとてもしょっぱいです。キュウリやネギ、パクチーなども添えられています。

面白いのは、この中国の炸醤麺が20世紀初頭に韓国に伝わったのち、まったくの別物として現地化されたことです。

韓流ファンの方なら誰でも知っていると思いますが、韓国のジャジャン麺(チャジャンミョン)がそれで、中国のものとは見た目も味も全然違います。どちらも肉ミソかけ汁なし麺なのですが、中国のミソはしょっぱく、韓国のミソは黒味噌にカラメルを加えた春醤(チュンジャン)だそうで、色は黒く甘いです。

「香港飯店0410 職安通り店」(新宿)のジャジャン麺

もともと韓国の仁川の中華街で食べられていた中国の炸醤麺が、長い年月を経て、韓国人好みに味を変えたことで「国民食」になったのだそうです。それは韓国の町中華みたいなものですが、その両方が味わえる、いまの東京って面白いと思いませんか。

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