夢を叶えた五人のサムライ成功小説【高木京子編】3

この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。

玄関の扉がガチャリと開く。
コツコツとハイヒールの音が壁伝いに鳴り響く。


すっかり部屋着に着替えた京子は、買ったばかりの食材で啓太の好物のカレーを作った。
書斎から一歩も出ていないようだ。


京子はカレーが煮込むまでの時間、洗濯を済ませ一段落をつけた。
出来上がったカレーを吟味して、二階の書斎へと続く階段をあがった。

『あなた、食事の支度が出来たわよ』
『京子、入っていいよ』
『はい』


扉を開ける。
朝方には出来上がっていなかった原稿が山積みされている。


『あなた、作品が完成したの?』
『あぁ、そうだよ』

二人は食卓へ行き、カレーを口に頬張った。
『京子、温泉旅行だけど二泊くらいがいいね』
『あなた、ありがとう。ちょっと調べておいたの』
『いい場所は見つかったのかい?』
『えぇ』

そう言って京子は一冊の小冊子を開いて啓太に見せた。


『私、ここに行きたいわ』
どれどれと顔を小冊子に覗かせてみせる。
うん・・・と一瞬、食い入るように見つめる。


そこには気を惹かれる旅館名が印象的で、啓太は思わず口に出して言ってみた。

『ごもく旅館』

啓太は京子の顔を見て言った。
何度も反芻して言ってみた。

『ごもく旅館・・・』
『あなた、知ってるの?』
『いや、シンプルだけどインパクトある名前だね』


子供のように純粋に笑う京子の手から小冊子を取ってしばらく目を通してみた。

隣県でもあり値段も手頃で、内容をよく見ると格安といっても良かった。
それにレジャー誌ではそれなりにクローズアップもされている。


啓太も行きたい気持ちが膨らんできた。
京子に小冊子を渡して二つ返事でOKした。

来週の平日を利用して二泊三日の温泉旅行に行くことが決まった。
京子は浮かれて急に食卓を離れ、居間へと急ぐように向かった。


そしてCDプレーヤーを抱えて再度、食卓に入り、くつろぐ啓太に『これ私の得意技なの』と言ってミュージックをスタートさせると共に、『レッツゴー!ダンシング』と叫び年甲斐もなく・・・いや、歳を忘れて躍り狂った。

勢いづいた京子のパンチが京子の顔面に直撃した。
鼻血がしたたり落ちる。


その様を見て京子は我に返り、ハンカチで流れ落ちる鮮血をそっと拭った。

『あなた、ごめんなさい。私ったら』
『はは、気にするな。出会った頃を思い出したよ。うむ!それにしても今日は何度、お前と出会った頃を思い出しただろうか・・・』
京子は見てとれた。


痛みを堪えて涙目になっている夫の優しさと辛抱強さに。

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