夢を叶えた五人のサムライ成功小説【フライパンズ編】9

この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。

『茂太くん、君が現役で活躍していたことは、当たり前のように知っている。そしてフライパンズという中堅のお笑い芸人だったことも』


茂太はけして交わることなどない関係が、実現として目の前で起きていることに感謝して一礼した。


『光栄に御座います。これからはピン芸人として一躍スターダムに登り詰めてみせます』


豪快に笑う松木をよそにいつまでもソワソワしていて落ち着きのない茂太に叱咤激励し、今回の企画の取り組みに付いて事細かに語り始めた。

茂太はじっと耳を傾けて、精神を集中させて黙って聞いていた。


松木は話すことを全部、吐き出した今、それからは柴田との関係について話し、現在に至るまでの一部始終を話してみせた。


どの業界もきっとそうに違いない。
そして業界は違えど、柴田と松木が繋がっているように、様々の業界のトップはひとつの連携した大きな相関図のように当たり前のように存在し、当たり前のように情報交換がされていることを茂太なりに考察していた。


茂太は最後に松木に面と向かって、かつてのコンビだった弘樹のことについて、今はどうしているのか尋ねてみた。


コンビを解消して以来、タイミングを逃して少しずつ、その関係が疎遠になっていった茂太と弘樹だった。

どれだけ話し込んだふたりだろうか。
夕焼けが街を包み込む。


松木は携帯電話の着信音が鳴ったことを機に、今日はこれまでにしようと伝えて茂太に握手を求めた。


握り返す手をがっちりと掴み、最後にもう一度、叱咤激励した。


その光景はまるで父が息子に送る眼差しのように視線は温かく、心の籠った笑顔に緊張感からか萎縮してしまい、かなり背筋を縮こませては去り行く松木を静止して見送った。

カップの底に残るコーヒーを見て、茂太は気を引き締めた。


明日になったら、まゆに連絡を入れよう。
そしてもう一度、舞台に立ってピン芸人として正々堂々と今回の大役を果たして見せると強く決意を表明しよう。


茂太が店を出る頃には、もう完全に外は昼の表情から夜の表情へと変えていた。

売れない芸人の私生活は決まって質素倹約なものだ。


茂太はもう10年以上、六畳一間の部屋で不要なものに囲まれて暮らしていた。


散乱する漫画雑誌やスナック菓子の袋、敷いたままの布団、どこかで拾ってきたような電気製品類、大きな鼾をかいて眠る茂太を揺り起こすように、いつ以来だろうか・・・忘れていた存在が今度はきちんと自分自身にも分かる形でスッと目の前に現れた。


そう、オカマの霊のたっくんがそこには立っていたのだった。

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