夢を叶えた五人のサムライ成功小説【川端雄平編】6

この作品は過去に書き上げた成功自己啓発ギャグ長編小説です。


手枕昌平
彼は三歳からピアノを習い、音楽を学び、小学生の頃に父親の影響を受けて、演歌を口ずさむようになった。


学生時代はそのためか、友人たちからオッサンと呼ばれていた。
現在はニートらしく、歌は下手くそだが心に響くらしい。

手枕に与えられたのは二曲。
Aメロを歌い出す。
下手だ。
とてつもなく下手だ。
音痴もいいとこだ。


だが、どうしてだろうか!
心に訴えかけてくるものがあった。

いつしか、雄平は聴くことに心奪われていた。


由里の優しさか・・・ハンカチが流れる涙をスポンジのように吸収していく。


そして由里もまた涙を流していた。
ずるずるとしたたり落ちる鼻水の音が、雄平の心を意味もなく何故か締めつけていた。

バーを経営するオーナーの玉山がそっとティッシュボックスを手に持って現れた。


にっこりと微笑んで、気のすむまで使いなさいと言って雄平と由里に一箱ずつ手渡した。
玉山と柴田は友人関係らしい。


手枕の出番が終わって二番手の登場まで二人は話し続けていた。
聞き耳を立てていた雄平には、彼らが幼なじみであることも理解した。

来店する客が増え、店内が騒々しくなる。
どうやら二番手はかなりの歌い手のようだ。


雄平は俺のが上手いに決まっているとたかをくくっていた。
『由里、風邪でもひいたのか?』
『違うの。手枕さんの歌がとても心に響いて昔の頃を思い出したの。歌はとても下手くそ。なのに不思議。聴きいってしまった』


柴田はそんな由里を見てひとり、ふんふんふんと首を縦に振り、自己満足に酔いしれていた。

突然、店内にドラの音がゴーンゴーンと二度、地響きのようにうねる。


MCの紹介とともにエロチックな衣装で登場したのは、センチュリー吉田と名乗る絶世の美女だった。


しかも巨乳で尻も張り裂けんばかりの熟れた白桃のようだった。
聞けば二人の子持ちの主婦というから驚きは尚、隠せない。

大きな胸は今にも零れ落ちそうで拾いたくて、観客の誰しもがいつしか両手を合わせ、水を掬い上げる形を一同揃って鮮やかな陣形を造り上げていた。


よく見るとシースルーでもはや全裸状態といっても過言ではなかった。

このとき、ようやく雄平は急に客たちが乱れたかを理解した。


こいつらは歌が目当てではなく、彼女の身体を見たいがために・・・。
雄平は激しい憤りに襲われた。

歌を!
音楽を!
魂!
をこいつら馬鹿にしやがって!

『柴田さん、こいつら音楽を舐めてますよ』
柴田はまたもや無言だった。
由里は『おっぱいは私のが大きいね』と闘争心を燃やしていた。


そして再びドラの音が響き、鳴り止むと同時にセンチュリー吉田が歌い始めた。

客たちから賛美の声や挑発めいた卑猥な発言や野次が遠慮なく飛ばされた。


吉田も歌がとても下手くそだった。
いや、下手なんてレベルを超越している。
まだ手枕のが上手いだろう。
これは歌ではない。
たんなる雄叫びだ。

雄平は頭を悩ませた。
『俺はこいつらとは違う。こんなふざけた連中とは違う』
完全に音楽を侮辱している!そう思った雄平に柴田が囁いた。


『どうした?今にも人を殴りそうな顔をしているな。我慢も限界か?』
『あいつら、歌を舐めすぎです』

センチュリー吉田の豊満な肉体に歓喜の叫びを送る周囲の客たちをよそに、雄平は柴田に思いのたけをぶつけていた。 


それはやがて音楽に対する思いや、ミュージシャンを目指したきっかけまで、音楽に対する情熱のすべてまでも語り出していた。

由里はどこかに行ったのか、姿が見えなくなっていた。

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