夢を叶えた五人のサムライ成功小説【高木京子編】12
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
京子は赤面した。
『あなた、困ったわ。私、本を出したくて出したくて仕方ないの』
啓太はいきなりすぎて返答に困った。
その様子を見ていた柴田が間髪入れずに割ってはいった。
『なんなら私が協力しましょう。私は夢を叶える男ですから』
京子は嬉しかったが、それなら夫が居ると自信に満ちて返答した。
『それなら昨夜にお伝え申したように主人がおりますから』
啓太も少しカチンときて柴田に言った。
『それは失礼というもの』
『お言葉を返すようですが、本を出す際には大切なことがあります。
すべての方が読者になりうる可能性があるという点です。私の言う協力はそういう意味合いも含んでおります』
それを聞いた啓太は続けざまに言った。
『京子の出版には私が協力する』
『あなた、本当なの?嬉しいわ』
柴田はそっと静かに呟いた。
『京子さん、これが私の協力です。あなたの出版協力に渋っていた旦那様が即座に協力に応じたではありませんか』
京子はハッと気づき、柴田にお礼を伝えた。
と同時に柴田が何者かその威厳に今、ようやく圧倒された。
啓太は瞳虚ろな京子に対して、しっかりしろと言わんばかりに蛇口まで行き、冷水を顔にかけた。
『きゃっ、あなた、冷たいじゃない』
京子は冷静になり、ふたりの間にそっと体を預けた。
『まぁ、ここは旦那様、京子さんの出版に向けて力を合わせましょう』
啓太は何か分からないが、柴田の自信満々な態度を見て、首を縦に振るしかなかった。
そして啓太はやむ無く柴田の言う大長編スペクタクル小説を読むことまで引き受けた。
その後、しばらく雑談を交わし、茹で蛸状態になった三人は温泉から出た。
三人を真由美と美香が待っていた。
ふたりの手には色紙とボールペンがあった。
よく見ると色紙もボールペンも女将から貰ったものに違いない。
ボールペンには【日本が誇る癒しの露天風呂 ごもく旅館】と記されていた。
人の良い啓太は承諾しただけではなく、それから真由美と美香の長話に付き合わされた。
この日もまた啓太は疲れ果て、部屋に戻るなり、げんなりとした面持ちで布団に倒れ込むように寝入ってしまった。
京子は起こしては申し訳ないとひとり、運ばれてきた懐石料理を啓太の分まで思う存分に味わった。
そして夜も暮れた。
いつものように岸壁に打ち寄せる波の音と海の香りが、町並みとごもく旅館を見つめていた。
啓太はミイラのように口を開けたまま眠り、次の日の朝を迎えた。
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