夢を叶えた五人のサムライ成功小説【川端雄平編】13

この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。

林のライブもあと一曲を残すばかりとなった。
林はマイクを握りしめ、面前に向かって話し始めた。


『皆さん、今日は感謝します。本当に有り難う御座います。俺は歌が大好きです。音楽をやり始めた切っ掛けは学生時代にバンド活動しようって友達から誘いを受けたことからでした。その頃はギターを担当してました。今でもギターにはこだわりを持っています。今日、お越しの皆さんのなかでギターが大好きで得意って方は居ますか?』

林は周囲を見渡した。
由里が大きく手を上げた。
『ここに一人居ますよ』


そう言って雄平の方を指差した。
『馬鹿かよ、由里。やめろって』

林がどすこいとばかりに強引に雄平を舞台に引っ張りあげた。


『よし、あんたに最後の一曲のギターを弾いてもらう』


雄平は正気の沙汰じゃないと断った。
『ギター、嫌いか?』
『好きだがいきなりはやめてくれ』
『あんたならやってくれそうだ』
『練習もしてないし、あんたの歌う曲すら知らないよ』 


林は柴田の方へ視線を向けてニヤリと笑った。

林はマイクを握りしめ、再び話し始めた。


『今日は私の恩師を紹介したいと思います。サマンサ・柴田さんです。皆さん、盛大な拍手をお願い致します』


店内から拍手が沸き上がる。
玉山やスタッフたちも拍手を送った。
『私はサマ・・・柴田さんのおかげで今は歌で食っていけてます。このバーを始め、全国の至る場所で歌わせてもらっています。今日はここでの50回記念です。よって紹介させて頂きました』

一礼する柴田。
林からマイクを譲り受け、挨拶を始めた。


『ただいまご紹介賜ったサマンサ・柴田と申します。林の最後の曲ですが、ギターを私の隣に居る川端雄平に弾いてもらいます』


雄平は顔面蒼白になり、身ぶり手振りで大きく否定した。
そんな雄平を見て一言を付け足した。
『彼はギターの名手です。まだプロではありませんが見事な腕前と才能があります。皆さん、今後は林同様に川端雄平のことも何卒、宜しくお願い致します』

雄平は困り果てた。
無遠慮にギターを手渡される。


『これ、マイギターじゃないし・・・』
ふてくされている雄平の耳元で柴田が呟いた。
『練習しておけといった曲は弾けるだろう』
『えっ?』
『林のラストソングは、練習するように言っておいた曲だ』


雄平は参ったなと言わんばかりの表情で、柴田に一礼して親指を突き上げた。

心のなかで雄平はまた、柴田に対して尊敬の気持ちと感謝の思いを伝えた。


今この瞬間、雄平は柴田のすべてを信頼し、胸に込み上げる温かいものを堪えて演奏に入った。
緊張感が全身を駆け抜ける。
やるしかない。
このチャンスをものにしてみせる。


そして林の単独ライブのラストを飾る曲が店内に流れ出した。
外にはいつのまにか、小雪がぱらついていた。

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