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デレラの読書録:金原ひとみ『星へ落ちる』


『星へ落ちる』
金原ひとみ,2011年,集英社文庫

金原ひとみさんの小説を『蛇にピアス』から順に読んでいるが、『星へ落ちる』は語りの視点が主人公の私から変わる初めての作品だった。

視点が私から僕に、僕にから俺に変わる。

ひとつの作品内で視点がクロスオーバーして、作品世界が立体的に立ち上がる。

『星へ落ちる』というタイトルからブラックホールを連想する。

永遠に落ち続ける黒い穴。

沼に引き寄せられる、あるいは蟻地獄。

洗面台の排水口。

食べ物を飲み込む口。

言葉を喋る口。

瞳。

性器。


物語を駆動する引力の中心は「彼」だろう。

私と僕と俺は、その周りを周遊する惑星、少しづつ落ちていく惑星。

穴を塞ぐと安心感が得られる。

排水口に栓をすれば水が溜まる。

ブラックホールが無ければ周りの惑星は落ちていかない。

ならば、穴を塞げば良いのか?

「彼」から離れれば良いのか?

しかしこの物語はそれに否と言っているように感じる。

安心感と引き換えに得られるモノ。

落ちることでしか得られないモノ。

落ちていく、落下それ自体を見つめること。

はたして、落下する「私」を、落下から防ぐことだけで救うことができるだろうか。

安心感と落下の二項対立を目の前にすると、ひとは盲目的に、また無意識に安心感の方が良くて、落下が悪いと考えるのではないだろうか。

あるいは、無意識に、登場人物に安易な救いを求めてしまうのではないだろうか。

そういう無意識を指摘され深くエグられる感覚。

落下の善悪を語らず、落下それ自体を描く物語。

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