「ブックライター」と「ビジネス書作家」

 ツベコベと2回にわたってブックライター問題について書いた。

https://note.com/deeeeepr/n/nb09cb8688054

 が、まだモヤモヤするのでアレコレ検索していたら、とあるブックライターの紹介文に「ブックライターだけでなくビジネス書作家としての顔も持つ」というクダリがあって、ああなるほど、と思ったのだった。

 ビジネス書作家。言ってておかしいと思わないのだろうか。例によって日本国語大辞典を引くと(ちょっと前にジャパンナレッジの個人会員になったので使わないと勿体ないのだ)、「作家」とは〈(1)詩歌、小説、絵画などの芸術作品の制作者。特に小説家。(2)財産をたくわえて立派に一家を興すこと。〉である。いまや(2)の意味で使われることはほとんどないと思うが、(1)の意味でもそう軽々には使えませんよね。なにしろ「芸術作品」だ。

 というわけで、私は以前から「作家」という言葉のインフレが気になっていた。ご多分に漏れず、私も若い頃は「作家(ニアリーイコール小説家)志望」だった(しかしその才覚はなかった)ので、この言葉には畏怖の念を抱いている。ところが昨今は、どこからどう見ても「芸術」とは見なせないようなものでも、とにかく本の著者になれば「作家」を名乗れるかのように思われていないだろうか。

 それでも、著述業一本でやっているなら百歩譲って「作家」でもよかろう。でもさ、ビジネス書の著者って、ふつう、そうじゃなくね? 経営者とか実業家とか起業家とかコンサルタントとか経営学者とか、何でもいいけど本業を持つ著者が、その本業ならではの経験や研究結果に基づくビジネスのノウハウやら戦略やら思想やら○○力やらを提供するのがビジネス書だと私は思っていた。著述業一本の「作家」にできるのかそんなことが。

 もっとも、「ビジネス書」の定義もよくわからないので、誰でも書けるといえば書けるのかもしれない。そういえば「ビジネス書作家」なる肩書きを私が初めて目にしたのは、「誰でもビジネス書の著者になれる」的な講座を主宰する人物だったっけ。

 しかし、ビジネス書の読者にとって、「ビジネス書作家」という肩書きは信頼できる権威になるんでしょうかね。そのへんが、ビジネス書を(つくることはあっても)まったく読まない私にはよくわからないんだよなぁ。

 まあ、それはそれとして、「作家」のインフレもここに極まれり、という話である。このハシタナイほどの上げ底感は、やってることは編集協力であり叩き台としての原稿作成なのにあくまでも「本を書いている」と主張したい気持ちが見え隠れする「ブックライター」とよく似ている。それが冒頭の「ああなるほど」の意味だ。

 たぶんこれは、ちょっとしたものでも制作系の仕事をすれば「クリエイター」を名乗る風潮と軌を一にするものであろう。ちなみにこのnoteも、「クリエイター」とか「作品」とか「創作」とか言いたがるのがいささか居心地悪いです。「芸術」も「作品」も「クリエイト」も、ずいぶんお安くなったものである。

 私が初めて見た「ビジネス書作家」がビジネス書講座を主宰していたのと同じように、「ビジネス書作家の顔も持つブックライター」氏は、ブックライターを養成する講座を主宰しているようだ。カネ払ってこんな不安定で実入りの少ない仕事のやり方を覚えたがる人が大勢いるのも驚きだが、「上げ底系」界隈では、そうやって安っぽい「クリエイター」が拡大再生産されるのであろう。賑やかで結構なことである。

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