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【最終回】インテグレーションされていく統合型金融サービス

これまでDeFi(分散型金融)について、全5回にわたってその可能性と仕組み、リスクなどについて見てきました。

全6回となる本特集の最終回である今回は、『DeFi - インテグレーションされていく統合型金融サービス』と題して、DeFiがどのような可能性をもってくるか、DeFiの実社会との統合はどのように進むのかについてお話していこうと思います。

DeFi = 統合可能な”プロトコル”

これまでの説明でDeFiは単に一つのウェブサービスなのではなく、スマートコントラクトと呼ばれる自動執行するプログラムこそが本体であるという話をしてきました。
これまでの回のおさらいとして簡単に振り返ってみましょう。DeFiについて話をする際に”分散”と一言で言うのは難しいものです。そもそも以下の観点でそれぞれ分散しているか考えておく必要があります。

1.ブロックチェーンネットワークが分散型で運用されているのか
2.プロトコルの開発が分散型チーム及びコミュニティ主導で行われているのか
3.そのプロトコルはキチンと強い管理権限を誰も持っていないような設計になっているのか

いずれにしても、キチンとしたDeFiプロトコルを目指すプロジェクトは、徐々に1,2,3いずれも分散化を達成しなくてはならず、そうして初めて真のDeFiプロトコルとして成立するのです。
DeFiを正しく理解する際に必要なこととしては、DeFiは単にブロックチェーン上の金融サービスなのではなく、分散型ネットワーク上に存在するスマートコントラクトがもたらす”機能”を指しているということです。これは水やガス、電気といった我々の生活を支えるインフラに近い存在で、ブロックチェーンにおける公共的なインフラの一つとすら考えることができます。

統合が進むDeFiプロトコル

また何度もお伝えしているように、DeFiプロトコルとは1つのコンポーネント(部品)に過ぎません。スマートコントラクトは一度に一つしか使えないものではなく、複数のスマートコントラクトを介することでより、ユーザーは多機能な動作を実行できる場合もあります。

このようにDeFiプロトコルが複雑に積み重ねられていくことを”コンポーザビリティ”と呼ばれています。このコンポーザビリティは積み木のようだという例えから”マネーレゴ”とも呼ばれたりします。

レゴを組み立てて一塊とする作業を行うプレーヤーを、DeFiアグリゲーターと呼びます。具体的には以下のようなサービスが存在し、複数のプロトコルを一度に利用できるようなソリューションを提供しています。

以下に一例として一部のDeFiアグリゲーターを列挙してみます。

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マネーレゴの利点・欠点

1.マネーレゴの利点
利点はシンプルな話です。DeFiは前回のリスクの説明でもお話しましたがまだまだユーザーが動作を行うにはその理解や動作を実行するための操作のハードルが高い代物です。こんな風に使いたい、といったニーズにピッタリと当てはまるようなプロトコルが存在しない際に、複数のプロトコルを組み合わせることでそうした試みができる可能性があります。このようなソリューションの提供がマネーレゴ化によりもたらされると、より便利にDeFiを使いたいというユーザーにとっては大きな利点になります。

2.マネーレゴの欠点
実は欠点もあります。マネーレゴ化するDeFiプロトコルではあまりに複数のプロトコルが複雑に組み合わさると当然ながら、ユーザーは実際に何を実行しているのか裏側の詳細な仕組みを知ることなく動作を実行してしまいます。例えばアービトラージ(裁量取引)を行う為にそうした仕組みが機能するとしましょう。しかし実行の際に、組み込まれているDeFiプロトコルの一つが間違えたプライスを提示して動作を実行してしまった場合、アービトラージしたはずが実際には暗号資産を失う結果につながったりする可能性があります。また最悪のケースでは意図的に悪意を持って作られた攻撃が容易なDeFIプロトコルを組み込んで、誘い出したユーザーの資金を持ち逃げしようとする可能性すらあります。

既存金融とのアクセスを果たすDeFiを活用したサービス

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出典:Compound

2021年6月下旬に発表がされたサービスがあります。Compound Treasuryという名称のサービスで、レンディングサービスでおなじみのCompoundプロトコルを構築したチームが主体となり運営されるDeFi活用形の新サービスです。
これは機関投資家が同Compound Treasuryの持つ専用銀行口座に送金をすると、既存の銀行では考えられないほどの年利4%(米ドルベース)を保証する金利を受け取れるといったサービスです。実は裏側には受け取ったドルを米ドルペッグ型ステーブルコインであるUSDCに変換し、それをFireblocksという機関投資家が用いている最新技術により秘密鍵管理を行うクリプト・カストディアンを介して、Compoundプロトコルにて貸し付けられることでDeFiの世界でしか提供できないような、高い金利を保証するといったサービスになっています。

なぜDeFiは破壊的イノベーションなのか

このような既存の金融サービサーや機関投資家と言われるプロの投資家のプレーヤーなどはDeFiに高い関心を示しているように思えます。しかし先に述べたように、DeFiをそれぞれの企業の判断で用いるのはまだまだハードルが高く、特にお客様の資産を運用しているような部門やビジネスであれば尚のこと、そうした判断はまだまだ難しいでしょう。

しかし上記のCompound TreasuryのようなDeFiと既存金融とのブリッジを行うような新サービスが登場すると、当然ながら一定資産が更にDeFiに流れてくる可能性が高まります。

特にイノベーティブなのは、こうした際に今までのFintech企業であったら考えられなようなスピード感やオープンなマインドセットで、ある種勝手に組み込まれていくことを誘発している点です。少し掘り下げて説明します。
特にDeFiと呼ばれる領域ではプロトコル化が求められるので多くで以下のような仕組みを採用しています。

・開発や改良にあたってのオープンな組織運営
・オープンソースで開発コードを公開する文化
・コミュニティと呼ばれる外部開発者を積極的に巻き込んでいく方針

こうした前提で開発を行うのは、言葉で綴るよりも相当に難しく非常に繊細なバランス感覚が創業チームには求められます。DeFiプロトコルの大手である、UniswapやMakerDAO、Compoundなどにはそれぞれが現に今日までそうしたバランス感覚を最重要視しながら、コミュニティと共にプロトコルを作ってきた過去があります。

こうした企業が上場する為のプロダクト作りを行っていくのとは異質な、よりオープンとフェアにこだわり、インフラストラクチャとしてDeFiプロトコルを作っていくのは、今までのFintechスタートアップのモノの考え方とは根本的に異なっています。

合わせてこうした創業チームの企業には一定Venture Capitalと呼ばれるプロの投資家が付くことがありますが、彼らのマインドセットもオープンな方に振れており、原則的にこうしたインフラストラクチャ化することを良しとして、企業の成長よりもプロトコルのDeFi社会における利用拡大を推進するといった特徴があります。

このようなイノベーションは通常のイノベーションの延長というよりは、既存のFintechの仕組みに風穴を開ける可能性がある”破壊的イノベーション”だと言うことができるでしょう。

最後に

DeFiがもたらす影響範囲や、DeFiが向かっていくべきイノベーションについて説明をしてきましたがいかがだったでしょうか。DeFiについてはブロックチェーン分野や暗号資産分野の1つのトレンド程度にとらえておられる方も多いのではと思います。しかしここまで連載をお読みいただいた皆様にとっては、もっと多くの可能性を持つとてもイノベイティブな分野で、ブロックチェーン上に展開される新しい金融インフラストラクチャを構築しているという全体把握もできておられるのではないでしょうか。

DeFi分野においては、KYCやAMLといった観点から国内では議論がどうしても否定的な話から入ってしまうことが多い分野でありますが、この連載でご紹介させていただいたように本当に革新的、それも破壊的なイノベーションの余地を含むんでいます。DeFiがより普及していくことにより、より摩擦のない金融サービスを提供できる余地が進むことは、国という単位を超えて我々の社会全体としてより多くのメリットを享受できる可能性が高いと思います。

この分野の進化とイノベーションは劇的に早く、このDeFiというマーケットも2020年に目立って立ち上がりましたが、1年後にはパブリックブロックチェーンの最も有用なユースケースの一つにまで成長していました。このようなマーケットですので、ぜひこの連載後もDeFiの動向について興味を持って追っていただけると幸いです。

■本記事は、Fracton Ventures株式会社(https://fracton.ventures/)による寄稿記事となります。
■本記事はDeFiサービスの利用を推奨するものではなく、あくまでテクノロジーの視点から、イノベーションが起きている現場をお伝えする情報発信の趣旨で制作しております。
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