【第4回】DeFiにおける開発者やスタートアップの関わり方
ここまで、この連載ではDeFi(分散型金融)についてその仕組みを見てきました。実際どのくらいDeFiが興味深い分野なのかということは既におわかりいただけたでしょう。
今回はDeFiにおける開発者やスタートアップ企業などの関わり方、いわゆるコミュニティと呼ばれるものが何を指しているかなどについて触れていきます。
DeFiを語る際に考えるべき重要なことの一つは運営主体です。分散ネットワークであるブロックチェーンの上に置かれたスマートコントラクトであっても、特殊な乱用ができる権限をもったスマートコントラクトを作っておいたり、そもそも何かを決めるのにたった一人で、意思決定ができてしまうようでは、コミュニティは分散されていないと言えると思います。
DeFiの分野で真に分散化を図る際には、きちんとコミュニティも分散化されている必要があります。
コミュニティとはなにか
DeFiにおけるコミュニティとは、開発者やFounder、ユーザーなどが一体となった組織を指します。組織と言っても従来の会社などのように縦方向のピラミッドがある訳ではなく、その多くで自律分散型組織であるDecentralized Autonomous Organization、通称DAO(ダオ)型のコミュニティを目指しているまたは、既にDAO型のコミュニティとなっています。
どんな参加者がいるのか、また彼らはどのようにDeFiに関わっているのか見ていきましょう。
1.創業者
創業者はDeFiプロトコルを開発することを思いついた人を指します。例えばスマートコントラクトによるトークンの交換を行うことのできるプロトコルであるUniswapを開発した、Hayden氏がその例です。彼は最初にEthereum関連のハッカソンに参加した際に、このアイデアを思いつきました。この後彼はUniswapを開発する会社を創業し、この会社で資金調達を行っています。しかしこの会社は会社自体が大きくなるよりも先に、Uniswapを世の中に浸透させる方に舵を切りました。
2.開発者
開発者はすなわち、DeFiプロトコルの改良を行ってくれるコミュニティのメンバーを指します。例えばYearnプロトコルは、元々元弁護士のAndre氏がはじめたDeFiの利益最大化を狙う自動挙動を行えるプロトコルでした。しかし途中から優秀な独立したコア開発者達がそれぞれ参画をしたことで、現状ではAndre氏に変わり開発をリードしています。
またUniswapのコードをフォークすることでスタートしたSushiSwapの0x Maxi氏もそうした一人でChef Nomiと呼ばれる匿名の創業者が立ち上げたSushiswapコミュニティに参加し、現状開発をリードしている開発者の一人です。
このようにオープンソースソフトウェアが当たり前となるDeFIプロトコルの開発の世界では、創業者がコミュニティを立ち上げ、その後より積極的に開発をリードするコア開発者が出てくることも珍しくありません。
3.ユーザー
ユーザーももちろんコミュニティの参加者としては重要です。ただDeFiプロトコルのユーザーは利用者や参加者だけではなく、多くでガバナンスに参加することのできる当事者であることも多いです。これは多くのDeFiプロトコルがガバナンストークンと呼ばれるプロトコルの意思決定を担えるトークンを配布または、過去販売などを行ったことによります。またプロトコルによってはプロトコルを使うユーザーであることで、都度ガバナンストークンがもらえる場合もあります。
ユーザーは単に受け手の利用者ではなく、コミュニティの一員になれることが大きく、いくつかのDAOではコミュニティマネージャーとして立候補などした人物が就任し、それに対してコミュニティの保有する資産から給与に近い金額が支払われている事例なども存在しています。
4.投資家
Venture Capitalistと呼ばれるプロの投資家は原則的に、金銭的リターンを考えて成長性の高いプロジェクトや企業に投資を実行しています。彼らも当然ながらコミュニティの参加者です。多くの場合Crypto VCと言われる投資家は、トークンに対して出資をしています。この際トークン発行前である場合などは、対価となるトークンがない為、この部分を約束させる契約書を法人間で締結したりします。こうした作業を行う際に、いずれかの法人としての登記が重要になることも多く、DAOを標榜している会社でも裏側に開発会社が存在していることがある場合が多いです。これは将来プロトコルがよりオープンなコミュニティになった際には、投資家もコミュニティの一員であるという形に落ち着くものです。
現在の株式市場のような上場(IPO)などの為に未上場企業に投資を行う文脈とは根本的に考え方が異なります
実際に4の投資家がどのようにコミュニティに貢献しているか見てみましょう。下記に示しているのはCompoundという以前もご紹介をしたDeFiのレンディングプロトコルです。CompoundではCOMPというガバナンストークンを発行しています。ガバナンストークンは、Compoundの行く末を決めるガバナンスに参加できるもので、このCOMPホルダーによる投票・賛成による可決を民主的に行っています。直近行われた投票の結果ですが、CompoundやUniswapなどの投資家であるアンドリーセン・ホロウィッツ(A16zと記載)が実際の投票に参加していることがおわかりいただけるでしょう。このように投資することだけがDeFiプロトコルとの関わりなのではなく、投票などを介してDeFiプロトコルの行く末を決めていくことも、コミュニティの一員に求められる大きな大義なのです。
開発元企業はDeFiプロトコルを管理しているのか
よく議論になる点として、DeFiプロトコルの開発元企業が、DeFiプロトコルに影響力を持っているのか、また将来も持ち続けるのかといった論点があります。これはコミュニティドリブンを謳う、ことDeFiのコミュニティでは当然の指摘ですが、結論から言うと必ずしもそうではないと思っています。
従来ウェブサービスなどを提供する企業は常に、法人たる企業が、サービスを作りそれを提供するという構図でした。しかしDeFiの世界では、開発者個人または法人たる企業がDeFiプロトコルを作り、そのプロトコルが、より多くの人々を巻き込んでコミュニティとなり、コミュニティによって開発がリードされていくのです。
このようにDeFiの分野では、通常の企業活動における、売上の拡大に伴う会社の規模の拡大といった手法を採用していません。こうしたDeFiならではの考え方が、コミュニティドリブンと言われる所以です。
最後に
いかがでしたでしょうか。
今回はDeFiの世界で簡単に表現されることが多い、コミュニティという言葉の本質に迫ってまいりました。このような複雑なステークホルダーが存在するDeFiならではの、コミュニティとして一枚岩になることの難しさがご理解いただけたでしょうか。
実はDeFiプロトコルは開発して公開して終了なのではなく、その後コミュニティによってより強固な開発がされていったり、ユーザーを増やすための施策が行われたりするという循環を生むことが大切で、結果としてユーザーを多く集めることができている”信頼されているプロトコル”とそうでないサービスの違いはここにあると考えます。
次回は一気に実践的な内容としてDeFiのリスクや実際にあった攻撃手法などからDeFiならではの特性を見ていきたいと思います。
是非、楽しみにお待ちください。
■本記事は、Fracton Ventures株式会社(https://fracton.ventures/)による寄稿記事となります。
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