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釣り人語源考 キス

釣り人の世界でキスは「海の女王」とか「砂浜の貴婦人」などと呼ばれている。
それはもちろん、釣りにおける小気味よいアタリや連掛けなど釣味の良さ、
綺麗な白身で天ぷらなどで食べて非常に美味しい味わいの良さ、
そして何よりその美しいパールホワイトのスマートな魚体、
その3つを兼ね備えたまさに「女王」に相応しい魚であるからだ。

美しいキス

「シロギス」はスズキ亜目キス科の魚で、主に沿岸の浅い海の砂底部に生息しゴカイやヨコエビなど底生生物を捕食する。
なので一般的な釣り方は砂浜(サーフ)での投げ釣りだ。

キスは「サーフキャスティング」と呼ばれる釣りの一つのジャンルを確立している魚(はっきり言ってコレはすごいんです!)で、「サーフの女王」と言うが、もうキングです、キング。
「遠投キャスティングリール」という独特の形状の大型スピニングリールを使用し、ロングロッドで豪快に遠投。「10色投げた」とかの専門用語で飛距離を表し、日々キャスターは飛距離アップに精進する。
上手い人になれば10連や20連もの枝鉤を駆使し、多連掛けにハートを燃やす。
このキスのサーフキャスティングから、トーナメント大会やスポーツキャスティングが派生している、釣り世界で歴史のあるジャンルなのだ。

一方では堤防からのチョイ投げやボートでの天秤仕掛けなど、家族連れでお手軽に狙えたり、時には大型キスは小魚も捕食するので小型メタルジグやワームなど、ライトルアーゲームでも楽しめる。

爽快なサーフキャスティング

さて「キス」の語源はなんだろうか。
俗説では「岸に寄る」からキシが訛ってキス…と言われているが、それこそ岸に寄る魚など何千と有るので全くの誤りだ。
ここで一つの面白い「とある慣用句の成り立ち」を考察したものがあるので、参考にしたいと思う。

・・・「痩せぎす」という言葉がある。
この痩せぎすの語源には二つの説があり、「痩せた鱚」から説と「痩せてぎすぎすしたさま」から説である。
日本語では、「コロコロ」とか「スベスベ」とか状態を表す擬態語に「重語」をよく用いるのだが、その慣用句の略語から名詞になる場合…「コソコソする泥棒」→「コソ泥」とか「ゴロゴロと寝る」→「ゴロ寝」とか、「前に擬態語が来る」法則がある。
もしも「痩せてぎすぎすした」を省略するなら「ぎす痩せ」にならなければならない。
痩せぎすとは「痩せた鱚のように、色白でアバラ骨が透けて見えるほど痩せた男」というのが本当だろう。・・・


『和漢三才図会』(1712年 寺島良安)に「幾須吾きすご、大なるものを吉豆乃こずのといい。」とある。
元々キスは「きすご」と呼ばれていたようだ。
その語源は「生直きすぐ」という言葉からだと思う。
現代の意味では「一本気なさま。生真面目なさま。真面目で堅苦しい。きまじめ。」と少し悪い意味合いになっているが、古語では「飾り気のないさま。純朴なさま。」と文字通りの意味であった。

すっと真っ直ぐに伸びた魚体。
美しく輝く真珠のような白い色。
内臓も綺麗で処理も簡単、透明で血合も少ない素晴らしい白身。
これを「きすぐな魚」と呼んだ昔の人には得心がいく。
本当に素晴らしい、貴婦人にふさわしい命名だ。

純粋な白身
まさに「生直」

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