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「ジャスミンの香る部屋づくり」第6話(全9回)

第6話

ここまでを読むと、授業は順調で先生との関係性も良かったような印象を与えてしまうかもしれませんが、もちろんまったく違います。最初の頃はとにかく行きたくなくて、どんなきっかけがあれば辞められるかばかり考えていました。

前述した通り私の英語レベルはひどいもので、なかでも単語は全く覚えられませんでした。ところが先生の授業はいつも最初に単語テストがあったのです。5〜10の英単語を先生が読み上げ、それぞれの意味を答える、という口頭のテスト。「suffer」「わかりません」「comfort」「わかりません」「maintain」「わかりません」…
いつも9割近くわからない状態でした。

これだけわからないんだから諦めてくれればいいものを、先生は授業の前には必ずこのテストを実施し、私も懲りずに「わかりません」を繰り返していました。それだけ嫌なら覚えていけばいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、そもそも出る範囲が広範囲すぎて、どこから手をつけていいのかがわからない。毎回授業前に「わかりません」をただただ繰り返し、ショボーンとしたまま授業を受けていました。

こんな状態をどれほど続けていたか、単語テストに関してはおそらく半年ぐらいわからないまま通っていました。ただ先生のことは好きになりかけていて、さらに中学から洋楽に目覚めていた私は英語を音読することに関しては割とよくできていたんじゃないかと思います。

ある土曜日の授業後、今日も全ての単語が分からず、部屋でベッドに寄りかかり落ち込んでいた光景を今でも覚えています。「自分、カッコ悪すぎる…」
それでとにかく、その苦痛から逃れるために英単語を少しずつ覚えることにしました。A4の紙をビリビリと半分に切って、さらに左から5センチぐらいを折る。左側に英単語をずらりと書き、線でつなげた右側に日本語の意味を書く。それを毎日持ち歩き、通学の電車の中で覚え始めました。覚えるべき単語があまりにも多く、単語カードではまどろっこしさを感じていた私の、独自に導き出したやり方です。持ち歩いているとボロボロになってくれるので、新しい紙に覚えてないものだけを抽出し、新たなメモを作る、といったことを繰り返していました。

もちろんすぐには効果は出なかったと思いますが、徐々に少しずつ少しずつ、答えられる単語が増えていったんだと思います。いつしか単語テストが苦痛だったことを忘れてしまうくらい、ほとんどの意味を答えられるようになっていました。

そんな苦痛の時間を過ごした応接間の6人がけの大きなテーブルを、今回ダイニング用に移動することに決めました。元々は少し広めのキッチンで食事をとれるように小さなテーブルを購入したそうですが、冬場はキッチンがかなり冷えて、すぐ使わなくなってしまったそうです。それを広くなったリビング側に持ってくることも考えましたが、それほど愛着のある家具ではないということで、応接間で使っていたクラシックなテーブルをダイニングとして使うことをご提案しました。

「お客様も生徒さんが来られることもなくなったので、処分も考えていたんだけど…。そうね、どちらかというとこちらの方が愛着があるし、それもいいかもしれないわね。でも6人がけに1人で座っていると、ちょっと寂しくないかしら。」
「それは大丈夫です。今6脚の椅子を置かれているので寂しいように感じますが、3、4脚に減らせば広々とゆったりと過ごせます。」

応接間は時々泊まりに来られる姪御さんのために、お客様用の寝室にすることを考えておられたそうで、愛着のある家具をそのまま使えるなら一石二鳥だ、ということになりました。椅子はだいぶ傷んでいたので新調することにして、ダイニングスペースの姿が見えてきました。

せっかくなので、ダイニングの上にはペンダントライトを設置することにしました。お部屋に入った時に一番遠い場所に印象的なライトが吊るされていることで、奥行きが強調されお部屋を広々と感じることができますし、視線の流れを誘導するフォーカルポイントになります。

和の空間には和紙でできたぼんぼりのようなものや北欧系のライトもよく合いますが、今回はウィリアム・モリスの壁紙に合わせてアンティークのシャンデリアを吊るすことにしました。選んだのは1960年代のイタリア製のもの。あまりゴージャスになりすぎないよう、8枚のガラスでライトを囲んだランタン風のシャンデリアです。ガラスには大小のスターがハンドカットで装飾され、昼間でも楽しめるランプです。梁にしっかりと固定し、机上面の明るさを確保するためにスポットライトも併設しました。これでダイニングの主役ができました。

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