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新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、「人類共通のトラウマ案件」となりつつある?


最近、いかにもコロナ禍による不安を象徴しているなという感じの悪夢を見る。参ったなーと思っていると、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、悪夢を見る人が増えた」という記事が流れてきた。

そりゃそうだよね、と思った……

私なんかこの日の朝、武田鉄矢が実家に包丁を持って乱入、家の男勢が彼から包丁を奪い、私が彼を抱きしめながら「大変なことがたくさんあったんですってね、人という字が信じられなくなりましたか」とか必死になだめる夢を見た。

※武田鉄矢が出てきたのは、TwitterのTLで見かけた、彼が「コロナという字はいつか『君』という字になる」と黒板の前で言ってるネタ(「人という字はぁ〜」のパロディ)が頭に残っていたからだろうと思う。
夢の中の武田鉄矢は新型コロナ関連で大事な人を幾人も失った設定だった。しかし私はもともと武田鉄矢がどうしても好きになれないので、こんな状況下で「人という字が信じられなくなりましたか」なんてちょっと皮肉でつついていた。夢としては面白いけど、私も残酷だなあ…… と思った。

悪夢を見る人が増えている理由

冒頭のナショジオの記事では、人々が奇妙な悪夢を見るようになった理由のひとつについて、以下のように分析している。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)により、何億もの人々が自宅にこもっている。夢の専門家のなかには、それまでの普段の環境や日々の刺激がなくなり、「インスピレーション」が不足するせいで、潜在意識が夢のテーマを過去の記憶からより多く引き出すことを余儀なくされている、と考える人もいる。

新型コロナで奇妙な夢や悪夢を見る人が増加、理由と対処法は | ナショナルジオグラフィック日本版サイト https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/041700243/

このくだりにも「なるほど」と思った。

私は昔から象徴的で明晰かつ奇妙な一大スペクタクルの悪夢を見ることが多かった(人に言うと驚かれる。最近の日々のことを断片的に再生するような曖昧な夢しか見ないという人も多い)。このように私が象徴的な夢を見るのは、生活にストレスが多かっただけでなく、基本的にひきこもり傾向で、環境刺激や大きな新しい経験が少ない中で暮らしていたこともあるのだろう。

パンデミックは、人類共通のPTSDを引き起こしている?

ナショジオの記事では、今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、人々にPTSD(心的外傷後ストレス障害)に似た状態を引き起こしているかもしれないとも書いている。

3月から進行中のフランス、リヨン神経科学研究センターの研究によると、新型コロナウイルスのパンデミックは、夢を思い出せる回数を35%増加させ、悪い夢を通常より15%増やしているという。イタリア睡眠医学会が進める別の研究では、感染拡大のさなかに閉じこもり生活を強いられたイタリア国民の夢を分析した。回答者の多くは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状と同じような悪夢や頻繁な目覚めを経験している。

新型コロナで奇妙な夢や悪夢を見る人が増加、理由と対処法は | ナショナルジオグラフィック日本版サイト https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/041700243/

夢を思い出せる回数が上がるというのは、やはり睡眠の質の低下や高ストレスを示すのだろう。私も本当に調子がよくて熟睡したときは、悪夢を見ないし、何か夢を見ても思い出せない、気がついたら朝、ということがある。

私自身、生育歴による複雑性PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)の診断を受けていて、集中的なトラウマ治療を経て現在かなり回復している。少女のころからずっと見てきていた明晰な悪夢を見ることもかなり減っていた。むしろ「珍しく悪夢を見たからストレスがかかっているんだろうな」と思うぐらいの生活になっていた。

そこへ新型コロナウイルス感染症のパンデミックがやってきた。すると、今回のことに関する不安や恐怖を象徴しているとしか思えない乱入者、怪物、不穏な暴風などに襲われる夢を毎日のように見るようになった。

PTSDと夢、そしてEMDRの関係

人間に起こるPTSD(心的外傷後ストレス障害)は、もともと人間を含む動物に備わっている、「自分の命を守るための防御システム」の暴発のようなもの。精神的なストレスに対し、「生命の危機だよ、心身の緊張度を上げて、逃げるか戦うかするんだよ!」というアラートがオンになり、鳴りやまなくなっている状態だ。

こうしたPTSDやそれに近い状態は、精神的・社会的な危機にさらされることでも起こるが、今回世界人類を襲っているのは、文字通り生命の危機だ。ということは、いま人類が体験しているのは本来の意味での非常に高いストレス状態そのものだ。だから今後人類のなかで、今回の体験が心的外傷となり、私たちが心的外傷後ストレス障害…… PTSDを発症したとしてもそれはしごく自然な反応だといえる。

以下の部分を読み進んで、驚いた。私がEMDRというトラウマ治療の最中に起こったことととても似ているからだ。

新型コロナウイルスによる悪夢を見る人にとって参考になる話がある。いわば「夢を操る熟練の技」が苦しみを和らげるという証拠が増えているのだ。

バレット氏は、患者と夢の「脚本を作る」作業に取り組んでいる。その際、悪夢をどのように変えたいかとよく質問する。患者は、夢の新たな方向性を見つけ出すと、それを書き留めておき、寝る前にいちど思い描いてみる。こうした脚本は、例えば襲撃者を撃退するなどの現実的な解決策から、襲ってくるものをアリの大きさに縮めるなどの「夢らしい」シナリオまで多岐にわたる。

新型コロナで奇妙な夢や悪夢を見る人が増加、理由と対処法は | ナショナルジオグラフィック日本版サイト https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/041700243/

EMDRは、人がレム睡眠中に夢を見ながら記憶を処理するシステムを真似て作られたもの。レム睡眠中(≒夢を見ながら記憶を処理しているとき)、眼球の運動を見ていると左右に眼球を動かしているところから、「ある記憶を想起しながら眼球を左右に動かすことでその記憶の処理が進む」と仮定し、実験を重ねたところ、トラウマ記憶を想起しながら眼球を左右に動かすとトラウマ記憶の処理が進むことがわかった。これがEMDRがPTSDに効くしくみだ。

EMDRの最中、自分にとって脅威だった存在が、何かとるに足らない存在に変化していく現象を何度も体験した。恐ろしげで圧倒的な大きさを持っていた化け物がポンと変身してすごく小さくなったり、ペラペラのマンガ調になったり、別のものに変化したりするのだ。

夢は記憶処理のための精緻なシステムで、EMDRなどのトラウマ治療は、この記憶処理システムの進行を速める…… 個人的には、このように考えてよいだろうと思った。

その流れでいえば、悪夢をひとつのPTSDの症状、夢での記憶処理の障害と考えたうえで、「夢の脚本の書き換え」のようなアプローチをしていくことは、あながち的外れでもないのかもしれない。

トラウマ治療の過程で身につけた自己流の「脚本の書き換え」のためのイメージワークがいろいろあるので、そういったものを日々実践していこうと思う。

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