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【特集】米国大統領選挙とweb3:マーケットとバイデン政権下の暗号資産

こんにちは、Decentierでリサーチャーをしている聖・マーくんです。

2024年6月27日(日本時間28日)、11月の米国大統領選挙に向けた第1回候補者テレビ討論会が開催されました。この討論会では、異例にも7-8月の党大会を前に、民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領が4年ぶりに暫定候補者として対決し、激論を交わしました。私もリアルタイムで視聴していましたが、第1回はトランプ前大統領に軍配が上がったようです。

米国大統領選挙(2024)の主なスケジュール
1-3月:予備選挙で各党の候補者を選出
6月27日:第1回候補者テレビ討論会
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7-8月:党大会で各党の候補者を正式に指名
9月10日:第2回候補者テレビ討論会
11月:大統領選挙

2024年の米国大統領選挙は「クリプト選挙イヤー」と呼ばれるほど、暗号資産が支持者獲得の焦点の一つとなっています。今では、ジャック・ドーシーやイーロン・マスク、サム・アルトマンといったIT業界の有識者だけではなく、ブラックロックのフィンクCEOやアーク・インベストメントのキャシー・ウッドCEOをはじめ金融関係者の間でも暗号資産、web3を支持する人が増えています。こうした中、Statistaなどのデータ分析企業によれば、米国の暗号資産ユーザー数は5000万を超えると言われており、米国大統領選挙において両陣営とも暗号資産界隈を無視できなくなっています。

そのため、今回の討論会で触れられることはありませんでしたが、11月にかけてはバイデン大統領とトランプ前大統領の両候補者が具体的な政策を打ち出す中で、暗号資産に言及する場面も増えてくることが予想されます。それによって暗号資産の相場も短期的に左右され、選挙結果が暗号資産とweb3業界の次の4年間の方向性を決定づける重要な要素となるでしょう。

本稿では、米国大統領選挙と暗号資産、web3の動向について、決戦の日まで数回にわたって解説していきます。

米国大統領選挙と半減期

米国大統領は任期が通常4年間となっており、実はこれまでビットコインの半減期と同じ年に米国大統領選挙は行われてきました。半減期は、約4年ごとにビットコインの新規発行量が減少し、需給のタイト化によって価格上昇を引き起こすイベントとして注目されています。米国大統領選挙も政策の見直しや国民の意思の反映により株価が上昇するアノマリーとして知られています。

米国大統領選挙(半減期)の年の各指数の騰落率、YahooFinance等より2024/6/28時点

表1は米国大統領選挙(半減期)の年の日米主要株価指数およびビットコインの騰落率を示したものです。これを見ると、確かに米国株を中心に株価は大きく上昇し、ビットコインもそれ以上に高騰していることがわかります。2024年も年初から堅調に推移し、6月末までにいずれの指数も史上最高値を更新しています。

直近、エヌビディア株の高騰などAIブームに関連した過熱感も出ていますが、2024年の後半には米国の利下げ開始が期待されており、いよいよ米国大統領選挙も本格化します。そのため、今回も株価のアノマリーが再現され、ビットコインもその動きを追随して上昇する可能性は十分に考えられます。

米国の政権ごとの各指数の騰落率、YahooFinance等より2024/6/28時点

表2は米国の政権ごとに各指数の騰落率を示したものです。素晴らしいことに、2013年以降はどの政権においても全ての指数が右肩上がりに伸び続けています。中でもS&P500とナスダックの上昇率に注目すると、トランプ共和党(2017-20年)が最も上昇率が大きい結果になっています。バイデン民主党(2021-24年)は、任期満了まで約半年の猶予が残されていますが、現状では金融市場にとって最もパフォーマンスの低い政権となっています。

トランプ前大統領の政策や振る舞いについては称賛・批判の様々な声がありますが、「トランプラリー」という言葉が生まれたように、株価を押し上げてきた事実があります。一方、バイデン大統領は、新型コロナウイルス以降で難しい舵取りを迫られた面はありますが、その結果を残したとは言えない状況です。もちろん双方を株価だけで評価することはできませんが、金融関係者および企業の立場で見れば、今回の米国大統領選挙の投票を左右する要素にはなるでしょう。

また、バイデン民主党(2021-2024年)ではビットコインの上昇率が100%程度にとどまっている点も注目です。オバマ民主党(2013-16年)とトランプ共和党(2017-20年)の時と比べて暗号資産市場の規模が拡大し、伸びしろが徐々に小さくなっているとはいえ、バイデン大統領の政策で株価と同様に上昇率が抑えられている可能性があります。以下では、その検証も兼ねて、バイデン政権下の暗号資産関連動向について振り返ります。

バイデン政権下の暗号資産関連政策

バイデン大統領は2021年1月に就任してから暗号資産規制の整備を積極的に進める姿勢を示してきました。

インフラ法案の署名

2021年11月、総額1.2兆ドル規模の包括的なインフラ投資計画を盛り込んだ法案に署名しました。その中で10,000ドル以上の暗号資産取引を行うブローカーに対して、その取引を税の執行・徴収を管轄する内国歳入庁(IRS)に報告する義務を課しました。この「ブローカー」の定義については、暗号資産取引所だけではなくマイニング業者やブロックチェーン開発企業も含まれる可能性があり、暗号資産の業界関係者から修正を求める反発の声が上がりました。しかし、修正案は認められず、本ルールは財務省とIRSが正式に決定し、2026年から暗号資産関連事業者に適用される予定です。

デジタル資産に関する大統領令

2022年3月、デジタル資産(暗号資産を含む)に関する包括的な規制と政策のアプローチを求める大統領令に署名しました。この大統領令は、デジタル資産に関する政策の調整を各連邦機関に指示し、消費者保護や金融安定、国家安全保障、環境影響などを考慮することを求めるものです。具体的にはデジタル資産のシステムリスクやマネーロンダリング等の犯罪防止、マイニングによる環境リスクなどの対策・評価が含まれています。その中で、連邦準備制度理事会(FRB)に対しては中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入可能性について研究を進めるよう指示しています。2023年1月にはこれらの内容をまとめた包括的なロードマップを策定し、各連邦機関がそれに沿った調査・報告を進めています。

マイニング課税の提案

2023年3月、暗号資産のマイニングに対する課税を初めて提案しました。この提案は、2024年度の予算案の一環として発表され、マイニングに使用される電力に対して最大30%の税を段階的に課す内容でした。マイニングによるエネルギー消費を抑制することで、環境への負荷や、公共インフラサービスへの影響を軽減することを目的としています。これについては業界関係者のみならず一部の議員からも暗号資産業界の発展を阻害する可能性あるとの批判があり、実現には至りませんでした。しかし、バイデン大統領は2024年に入って同様の提案を行い、2025年度の予算案の中で協議を続けています。

SECとCFTC

バイデン民主党政権下の証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)はコインベースやバイナンスなど数多くの暗号資産関連企業に対して取り締まりを強化しました。これにより未登録違反等の罰金を課せられる企業が続出し、一部は事業の撤退まで追い込まれました。一方、SECが暗号資産を証券として規制しようとするのに対し、CFTCは暗号資産をコモディティとして定義しており、どちらが暗号資産の監督権限を持つのかが曖昧になっています。そのため、業界関係者からは証券とコモディティの判断基準を明確化するルールが求められており、その流れで暗号資産支持派の議員はCFTCの権限明確化を盛り込んだ法案を提案しました。しかし、バイデン大統領は現行ルールに則ったSECを中心とする規制方針を崩さず、SECの暗号資産会計ルールを覆す決議案に対しては拒否権を発動する事例も見られました。

このようにバイデン大統領は米国における暗号資産規制を広範囲にわたって整備する指針を示してきました。それによって政府が暗号資産の不正取引や脱税を捕捉しやすい体制は強化されたと言えるかもしれません。一方で、暗号資産関連企業が事業を展開するための合理的な規制は示せておらず、業界関係者にとって納得感の得られない取り締まりが続いています。それにより暗号資産の相場がなかなか上向きづらい面もあるでしょう。

そんな中、トランプ前大統領は、暗号資産による政治献金や米国におけるマイニングの推進など暗号資産支持派を取り込もうとする発言・行動を繰り返しています。今後、暗号資産についてどのような具体的な政策が掲げられるかはまだわかりませんが、暗号資産規制の不透明さを問題に掲げ、その原因をバイデン大統領に追求する可能性があります。

さて、米国大統領選挙は冒頭で紹介した第1回候補者テレビ討論会をもってスタートしたばかりです。バイデン大統領のあまりに頼りない姿を見て、一部では民主党が候補者から下ろす可能性も指摘されており、11月にかけてドラマティックな展開が起こることが予想されます。その動向を注視しながら、次回以降は選挙における注目州の動向や各政党のシナリオ分析などについて解説したいと思います。

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