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23年越しの探し物を見つけた話

ものすごく個人的な、取るに足らない話なんですけど、すごく嬉しかったので、それから、また記憶があやふやになってわからなくなることがないように、書いておくことにしました。

高校生の頃(もう20年以上前)、学校の行事で日帰り修学旅行?みたいなかんじで横浜へ行きました。昔の話なので正確には覚えていませんが、ざっくり言うと、5・6人くらいのグループで横浜を周遊、どこへ行くかはグループで話し合って決めて良いというかなり自由な行事でした。誰が言い出したかまったく覚えていませんが、私がいたグループは美術館へ行くことになりました。ちょうど、ものすごく前衛的な企画展を開催しているタイミングでした。そのとき観た作品一つひとつのことはあまり覚えていないのですが、全体的に、落書きみたいな絵やグロテスクな印象を受ける絵がたくさん展示されていてどん引きした、ということははっきり覚えています。同じグループのクラスメイトがどう思っていたか知りませんけど、そのとき自分は、何も面白くないな、早く美術館を出て中華街で何かおいしいもの食べたい、ランドマークタワーに行きたい、と思っていました。

高校生の頃はあまり芸術に興味はありませんでしたが、社会人になるとなぜか時々美術館に行くようになり、次第に前衛的な作品にも興味を持つようになりました。だんだん、あの時(学校の行事で横浜の美術館に行った時)の企画展では、誰のどんな作品が展示されていたんだろうということが気になって来たのですが、当時はまったく興味がなかったので、企画展の図録を買うはずがありません。チケットの半券すら残っていません。当時のことが気になり始めた時、すでに高校を卒業して6〜7年は経っていたので、記憶はあやふやです。しかし、なぜか1つの作品だけがずっと記憶に残っていて、それを頼りに時々インターネットで検索していましたが、なかなかその作品には辿り着けませんでした。

そもそも、あの時行った美術館はどこだったのかということすら記憶が曖昧でした。結構大きい美術館だった気がするから、たぶん横浜美術館かな?くらいのいいかげんな記憶です。しかも、高校生の時に行ったということは覚えているけど、何年生時の何月頃に行ったのか、ということが思い出せません。横浜美術館だろうという当たりをつけて、美術館ホームページに残っている自分が高校生だった頃の企画展の情報を調べてみても、昔の企画展は概要が文章で残っているだけで、展示された作品のリストや画像などは残っておらず、結局確信には辿り着けません。

ぼんやりと記憶に残っているあの作品は、人間の上半身を雑に描いた落書きのような絵なんですけど、タイトルも作者の名前もわかりません。

いろいろな美術館に行って、いろいろな作品を観て、長い時間が経って、ある日、もしかしてあれはバスキアの作品だったんじゃないか?と思うようになりました。作品を検索していると、王冠が描かれたものがちらほらありました。そう言えばあの絵にも王冠が描かれていたような?記憶はものすごく曖昧なのに、王冠を見つけて、どういうわけだか、作者はバスキアだと確信しました。しかし依然として作品のタイトルはわかりませんし、バスキアは多作ですし、画像検索を続けましたが、なかなか見つかりません。

バスキアの作品だろうなというところまでは辿り着いたけれども、そこから先にはなかなか進めず、長い時間が経ちました。何かもう一つくらい検索に使えそうなキーワードがあればなぁ……そんなことを思いながら作品を検索していると、「Asbestos」と書かれた作品が結構あることに気づきました。そういえば、あの絵にも「Asbestos」と書いてあったような?

そもそも記憶が曖昧なので、王冠も「Asbestos」の文字も長年検索を続けているうちに記憶が上書きされただけかもしれません。いくら世界的に有名な芸術家でも、すべての作品をインターネットで検索できるわけではありません。それでも、一縷の望みをかけて「バスキア asbestos」「バスキア アスベスト」「basquiat asbestos」等で画像検索すると、なんと!ついに!あの時の絵が出て来ました!

白い紙に、青とオレンジ色で描かれた人間の上半身のような落書き、絵の頂点には王冠、王冠の下に「Asbestos」の文字。記憶は正しかった。これだ。これを探していたんだよ……

作品名はそのまま「Asbestos」でした。「Asbestos」という名の作品はいくつかあるみたいで、そのうちの1981年から1982年にかけて描かれたものが、あのとき観た作品だったようです。

タイトルと作者がわかったので、そこからいろいろ検索してみて、あの時の企画展のことがわかりました。横浜美術館で1998年4月11日から6月21日まで開催された「芸術家との対話 イヴォン・ランベール・コレクション展」です。ネット古書店でこの企画展の図録を見つけたので、思わず購入しちゃいました。

届いた図録には、あの作品が、載っていました。

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こんなに嬉しいの何年ぶりだろう。この感覚、何と言ったらいいのでしょう。大事な物をなくして、それを23年ぶりに見つけた嬉しさ?大切な人と23年ぶりに再会できた喜び?当時はこれっぽっちも大事だと思ってなかったからちょっと違うか?でもそれくらい嬉しいですね。諦めないで探し続けて良かった。本当によかった……

図録を読むと、イヴォン・ランベール氏のコレクションはこの企画展の後美術館に収蔵される予定で、今後これだけの数の作品が海を渡って展示されることはないでしょう、みたいなことが書かれていて、まじかよ……もっとちゃんと観ておけば良かった……と思いました。でもしょうがないじゃん。あの時は興味がなかったんだよ。

それにしても、なんでこの作品のことだけ覚えていたんだろう。不思議。

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