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【備忘録】どうしてイラスト生成AIはここまで荒れる話題になってしまったのか?

※はじめに
・画像生成AIは善!とか、悪!とかの二元論についての話はしないので、そういうのをお求めの方はブラウザバックをお願いします。
・AIの肯定も否定もしないので、仲間を探したい方もブラウザバックを。
・この記事は自分の考えを整理する、いわばメモ的な意味合いが強いです。得るものが何も無いかもしれませんが、予めご了承ください。





OK?


ご存知かと思いますが、今日において画像生成AIは非常にセンシティブ(敏感)な話題となっています。SNSを見れば日々論争が飛び交っていて、一度触れようものならば「お前はどっち派なんだ。中立とかいう曖昧な態度は許さねえぞ」と指を差される状態です。

本来なら革新的な技術のはずなのに、どうしてこうなったのか?
ぜ~んぶひっくるめて一言で表すなら「第一印象が最悪だった」って話なんですが、これだと漠然とし過ぎな感じも。

なのでこの記事では、画像生成AIが登場した時から抱える諸問題とよく見られるトラブルをなるべく客観的に整理し、そのあとで今後の展望について自分なりの予測を立てたいと思います。
少し長くなりますが、お時間のある方はどうぞお付き合いください。


●そもそも何が問題だったのか?

①イラスト業界で浸透していた風潮

今のようになってしまった理由の一つとして、まずは「イラスト業界における絵柄の価値」が要点として挙げられます。
今日のイラスト業界において、絵柄の持つ価値は非常に大きいです。様々な画風が登場している現代において、絵柄はその人にとっての個性であると同時に、活動する上での生命線とも言えます。
これまで作品そのものについては著作権によって保護されており、極端に類似する画風での制作や無断転載、また著作権侵害に該当する行為を避ける役割を果たしてきました。
その上で、「既に活躍しているクリエイターと同じ絵柄はなるべく避ける」「絵柄は侵してはならない不可侵の領域」という暗黙のルールが、クリエイターとユーザーの双方に浸透していたと感じています。

そこに登場してきたのが画像生成AIです。
AIは膨大なデータを基に学習を行い、そのモデルを使って新たな画像を生成するのですが、この「新たな画像を生成する」という特徴が、この問題のミソの部分です。

そもそも著作権は権利を侵害しているかどうかを判断する際に、著作物との「類似性」と「依拠性」が求められます。
ここで押さえておきたいのが、イラストのタッチや画風が似ているだけでは著作権侵害には該当し辛い点です。絵柄まで法律で保護してしまうと、この世で厚塗りやアニメ塗りは特定の個人や企業しか使えないことになってしまい、健全な文化の発展を妨げてしまうからです。
そのため、なるべく同じような絵柄は避けるという緩やかなルールが人々の間で自然に形成され、二次創作文化も含め、業界は程々にうまく回ってきました。
言い方が悪いですが、絵柄はお気持ちで守られてきたような格好です。

それに対して画像生成AIは、絵柄を保持しながら全く別のイラストを生成できます。構図や背景も変えることができるので、特定のクリエイターの絵柄を、「類似性」と「依拠性」を回避しながらそっくり使えるようになった形になります。これにより、「絵柄」という曖昧に保たれてきたクリエイターの権利を守るものは無いに等しくなりました。
AIで出力したものならすべて著作権侵害に該当しないというわけではありません。i2iによる直接的な出力なら著作権侵害に当たる確率は高いですし、通常の出力でも極端に元のイラストに似てしまえば、これも著作権侵害に当たります。

AIは誰でも手軽に始めることができるので、既存のクリエイターと比べても圧倒的に母数が多く、しかも短時間で生成できるので、従来のイラスト向けサービスは一時期無法地帯になりました。PixivはAIイラストで溢れかえり、FANBOXやFantiaがやりたい放題にされたのは記憶に新しいです(FANBOXとFantiaは現在AIを全面禁止)

以上をまとめると、「善意で保たれ続けた『絵柄は特定のクリエイターだけのもの』という風潮が、AIという部外者によってぶっ壊された」って感じです。

②既存のイラスト業界に対する配慮の無さ

画像生成AIの何が問題化かというと、一言でいうと「場違い」です。
他の業界で例えると、「フルマラソンにスポーツバイクで参加」「登山家が挑戦している中、エベレストをヘリで登頂」「将棋大会にAIを持ち込んで参加」するのと同じです。
別にこれらの機械自体が悪いわけじゃないんです。ただ場違いなだけなんです。

業界というのは、全員が平等な条件にあることで健全に発展してきました。各種スポーツや将棋などの盤上ゲームも、人間同士で競いあうことで成立しており、機械を使うことはご法度でした。試験でカンニングしたらNGなのも同様です。

そんな業界にある日突然機械を引っ提げて自分勝手に振る舞われたら、そりゃあキレられて当然なわけです。
手描きを大前提として発展してきた業界に機械を持ち込んでも、それは平等とは言えません。そこで「AIは時代の流れ」「AIを使えないやつは時代遅れ」など、さも自分が正義のような自己中心的主張をされたとしても、業界の人間からすれば(何言ってんだこいつ)としかなりません。AIを使ったところで、手描きのイラストレーターと同じ舞台には立てないんです。
生成AIについて絵描きに対して「技術の進歩だから~」と言うのは、格ゲーの大会にチートを用いて優勝して「技術の進歩だから~」と言うのと同じようなものです。

現実世界なら歯牙にもかけられず門前払いされるところですが、SNSの特徴である「人と対面せずに主張が可能」と「発信の容易さ」、そして「似たような主張をする者が集まりやすいエコーチェンバー現象」により、このような主張がまかり通ってしまったと言えるでしょう。

また、サービスを提供した企業側にも問題があります。
AIであることを免罪符にし、イラスト業界に対するリスクマネジメントを怠り、既存の業界を尊重しないどころか一企業の所有物のように扱う態度は、傍から見れば文化の略奪といっても過言ではなく、反発を受けて当然と言えます。

NovelAIの学習に使ったデータの大元として、画像投稿サイト「Danbooru」に無断転載された画像が使われていると指摘され、これも論争を呼びました。当の企業は「依頼があれば削除はするけど、大々的に対応はしない」と知らぬ存ぜぬを通しており(※1)、この態度も反感を買っています。

イラスト業界は作品の無断使用や無断転載に敏感です。
特にAI企業が自社のAIモデルを訓練するという名目で、インターネット上のデータを所有者の許可を得ずに取得する行為(AIスクレイピング)は、業界に対する企業の態度としては悪手中の悪手であると言えるでしょう。法律云々以前の話です。
本来であればサービスを公表する前に、モデルの学習に賛同してくれるイラストレーターを探し、その絵を基にモデルを作成してから発表するというステップを踏むべきでした。目先のインパクトよりも、イラスト業界と共存する姿勢を優先して見せていれば、また違った世界線もあったのではないかとつくづく思います。

なお、画像生成AIに関連した一連の集団訴訟も、この問題に拍車をかけています。
Stability AIを対象にアメリカのアーティストたちが集団訴訟を起こしましたが、3件のうち2件が棄却されました(※2)。
ただこれは、米国著作権局に自身の作品を登録していなかったのが棄却された主な理由ですが、AI推進派からすれば「棄却された」という事実だけが一人歩きし、ケンカの種になろうことは容易に想像できます。
絵画コンテストでAIイラストが1位を取った事例(※2.5)も同様です。これこそ場違いを象徴するものと言えます。

以上をまとめると、「人様のシマ荒らしといて詫びの一つもねえんじゃ、そんなん筋が通るわけねえよなぁ?」って感じです。

③「持たざる者」から突然「持つ者」になってしまった

「虎の威を借る狐」という言葉があります。
「力のない者が、強い者の権威を頼みにしていばることのたとえ」(※3)という意味です。

「ダニングクルーガー効果」という仮説があります。
経験の浅い人は自分を過大評価する傾向にあります。そこから挫折を通して自分の無知を認識し、謙虚になった後で徐々に上達していくというものです。
挫折した際の苦しみを知るからこそ、同じ苦労を乗り越えたであろう同業他者や、自分の作品を見てくれる人に対しても謙虚に振る舞うことができるというわけですね。健全な文化の発展には必要なステップと言えます。

画像生成AI。
要領を掴めば最初からレベル999になれます。もしも自分を過大評価している状態で最強の道具を手に入れてしまったらどうなるかは、お察しの通りです。
この現象がトラブルに拍車をかけています。

仮初めの自信は高圧的な態度を助長します。
Twitter(X)では「AIを使わないやつは時代遅れ」とか「AI使いこそが上位で、手描きは下」など、自分を上げて他人を下げるケースも見られました。

挫折という健全なステップを踏まずに便利な道具が使えるようになってしまった上、これまでイラストを描いたことのない人が使うことで、誤った自信を更に肥大化させる格好となりました。
これも対立を激化させる要因となってしまっています。

まとめると、「村の子どもたち全員にいきなりエクスカリバーを渡したらそりゃそうなるわ」って感じです。

④画像生成AIを取り巻く論争がTwitter(X)の仕組みとマッチした(悪い意味で)

人はセンシティブな話題につい反応してしまいます。
今年に入ってからはその傾向が顕著で、元旦に起きた能登半島沖地震では真偽不明の救助ツイート(ポスト)が条件反射的に拡散されたほか、羽田空港の事故発生当初、まだ原因が不明にもかかわらずにあれが悪いこれが悪いと断言する、根も葉もない主張が爆発的に拡散されました。

Twitter(X)ではこういう荒れやすい話題は格好の的で、「こう言ってるやつがいた、だからAIは悪!」みたいに喧伝することで、文章のインパクトから簡単に反応してしまいやすい環境にあります。
発言者本人が普段どういう呟きをしているか、反応する前に確認してますか?

事実関係に関わらず、センシティブな話は反応を得やすいです。最近なら「イーロン・マスクが薬物常用か~」といった話もそうです。
現在のTwitter(X)ではインプレッションで収入を得ることができるので、収入目的として、意図的な悪意をもって扇動を起こす者がいる可能性も十分考えられます。青い認証バッジは隠せるので、一目でわかりにくいのも問題です。
なのでTwitter(X)を使う際は、センシティブな話題かつ強い口調のツイート(ポスト)を見つけても、一旦冷静になって考える必要があります。

現状では画像生成AIもセンシティブな話題で、非常に反応が集まりやすいです。
特定のトラブルをピックアップし、人目につきやすいように単純な善と悪の対立構造を作りあげ、強い口調で大々的に喧伝すれば、瞬く間に憎悪は拡散されます。例えそれが善意によるものかどうか、またそれが事実か否かなんて関係ないんです。自分の承認欲求が満たされさえすれば良い人もいるので。

もちろんこれが全ての原因というわけではありませんが、イラスト業界の間では「画像生成AI=クリエイターの敵」という明快な図式が完成してしまいました。人々を煽ればインプレッションが稼げる上に自分の承認欲求を満たすことができ、賛同を得ることで自身の正義感も補強される。そしてまた承認欲求を満たすために自ら扇動の種を探し~…という負のサイクルが、現在のTwitter(X)の環境下では最早推奨されているまであります。
対立は深まるばかりで、解決の糸口なんて見つかるはずが無いんです。

以上をまとめると、「センシティブな話題はリポストする前に一呼吸置こうね。あとイーロンはさっさとインプレ数で収益あげる仕組みを廃止しようね」って感じです。


以上、問題点をざっくりとまとめてみました。
「絵柄の価値の増加」に「企業による業界への対応」、「全体的なAIユーザーの傾向」に「Twitter(X)の仕組み」。
これら全ての要因が最大限最悪の方向に噛み合った結果が現在だと思ってます。起こるべくして起きた対立。
こんなに救いの無い話ある?って感じです。どうしようもない。

ただ、状況を悲観していても何も始まりません。
これらを踏まえたうえで、自分なりの今後の展望をいくつか述べてみます。

●今後はどうなっていく?

①AI導入の加速化

Adobeのillustratorや、KDDIがCMに画像生成AIを利用しているように、大手企業でも画像生成AIを積極的に導入する動きが見られている。今書いているnoteでも見出し画像用として既に導入されており、法規制でもされない限りこの流れは加速していくと考えられる。

②イラストレーターという職業の不安定化

今回のように短期間で環境が劇的に変わる例が起きた以上、イラストレーターという職業はより不安定な立場に置かれる。先述のように、今後企業間で画像生成AIを使う動きが主流にならないとは言い切れず、手間のわりに収入も安定せず、将来も不安定という魅力の無い職業になる恐れも。事実、中国では画像生成AIによりイラストレーターが失業した例がある(※4)。

③画像生成AIによるマネタイズ運動の加速

画像生成AIを基にしたマネタイズも積極的に行われると推測。昨年12月にはAIイラスト投稿サイト「pAInter」がマネタイズ機能の提供を開始している(※5)。

④トラブルの増加

画像生成AIで手軽に儲かるようになれば、従来の絵描きを迫害するような風潮が更に増える恐れがある。既に対立構造が固まっている以上、この流れは否応にも起きる。

⑤絵描き文化の衰退

手間で時間もかかる手描きより、短時間で手軽に高品質な画像生成AIを使う人が増えるのは当然の流れになる。描き手が減ることで、絵を描くという手法は衰退していくと予想。
ただし、画像生成AIの人口が増えると相対的に手描きの価値が高まり、将来的にはイラストレーターが刀匠のように職人化したり、また唯一性を重視してアナログイラストの価値が上がったりする可能性も考えられる。

一言でまとめると、碌なことにならない。

●私たちはどうするべきなのか?


ぶっちゃけわかりません。
自分のちっぽけな頭では想像もつかないです。
対立構造が出来てしまった以上は根本的な解決は望めないでしょうし、業界としては手描きとAIのユーザーの棲み分けを図るぐらいしか手が無いようにも思えます。
望みがあるのは法規制ですが、肝心の国がAIを積極的に推進する動きなので期待薄ですし…

業界全体が今度どうなるかはわかりません。
ただ、個人レベルでできる行動はあります。以下では絵を描く人を軸にした、今からでもできることを並べていきます。

●個人として出来ること

①自衛する

○イラストを投稿する前に「Glaze」(※6)や「Nightshade」(※7)を使用し、AIに使われるリスクを避ける。
特にGlazeは即DL可能なので、今すぐ使える。手間~とか面倒~とか言わず、AIに使われたくないなら自ら行動すべき。
プロフ欄にAI学習禁止って書いて満足しているようじゃ、どうぞ盗んでくださいと言っているようなもの。お気持ちで守られる時代は終わった。

○画像生成AIそのものから距離を取る。「(AIの話題を)見ない」「(AIに)触れない」「(AIについて)話さない」の三原則。
先述した通り、画像生成AIの話題は非常にセンシティブで、メンタルに強い影響を及ぼす。そういった話題から距離を取ることは臆病でも無いし全然悪いことでもないので、自分を大事にすること。
一旦SNSそのものから離れるのもあり。とにかく、自身のメンタルを大切に。
ちなみに自分も最近はこの三原則を徹底している。Twitter(X)ならミュート機能も活用しよう。

②業界の動向については目を通しておく

自衛しようとは言ったものの、もしイラストに関連する業界や企業が何かしらの声明を発表したり、署名活動を始めた際はスルーしないこと。賛同するか否かは個人の自由だが、選挙と同様で一人一人の活動が重要になる。ただ無理にSNSで公言する必要は無い。無言でもいいので目を通しておき、必要なときは行動すること。

③とにかく絵を描き続ける

画像生成AIの登場は、何のために絵を描き始めたのか振り返る契機とも言える。その目的がAIによって代替されないのであれば、今後も継続して絵を描いていこう。
絵を描き続ければ、いつかはあなたの作品を気に入るファンが現れる。例え少人数だとしても、ファンの為に絵を描くことはモチベーション維持に繋がる上、どこかで挫折しても心の支えになって立ち直りやすい。人とのコミュニケーションの暖かみは忘れずにいたい。
また、とにかく社会人として真摯に対応すること。コメントを貰えたら初めのうちは一つ一つ丁寧に返事するとか、Skebなら締切は必ず守るとか、イラストの投稿が遅れるならファンに対して事前に連絡しておくとか。見てくれているユーザーへの感謝を忘れないように。

こんなところでしょうか。
正直なところ、全部自分に対しての戒めを込めて書きました。つい目先の利益に捕らわれがちですが、もっと大事なことがあるのを忘れないようにしたいです。


以上になります。
読みづらい所があったら申し訳ないです!しがない一般人なので、ご容赦いただけると助かります…(;´∀`)

これを書いている時点でも、Wacomが画像生成AIを広告に利用した疑いで炎上しています。当分この対立構造は続くと思うので、どうぞ皆さん自衛してください。

また、私個人にできることとして、これから絵を描き始める完全初心者~中級者の間の人たちに役立つような話を、noteを通じて展開していく予定です。
自分もまだまだ未熟者ですが、もし良ければフォローなりなんなりで今後も見て頂けると幸いです🙇

長文にお付き合いいただきありがとうございました!
ではまた、別の記事で…₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾


●参考リンク
※1 「われわれはNovelAIと関係ない」──海外のイラストサイト「Danbooru」が日本語で声明 - ITmedia

※2 Stability AIらを相手取った米アーティストの集団訴訟が棄却 - PC Watch

※2.5 AI作品が絵画コンテストで優勝、アーティストから不満噴出 - CNN

※3 虎の威を借る狐(とらのいをかるきつね)とは? 意味や使い方 - コトバンク

※4 AIが中国で既にイラストレーターの仕事を奪い始めている、現場の悲鳴と実際にどのようにAIが用いられているのかをまとめたレポートが公開 -GIGAZINE

※5 AIイラスト投稿サイト「pAInter(ペインター)」、マネタイズ機能を新たに提供開始 -PR TIMES

※6 Glaze - Protecting Artists from Generative AI

※7 画像生成AIに反撃のチャンス!? AIの学習を妨害する新ツール「Nightshade」とは?-ARTnews JAPAN

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