繁殖のルール

 繁殖モノのルール
1繁殖は無情でなければならない。
2繁殖は即座に行わなければならない
3繁殖は速やかに殖えなければならない。
4繁殖は拠点で行わなければならない。
5繁殖は人外と行わなければならない。
6以上のルールを理解した上でルールを破ることを躊躇ってはならない。

 おれは何もかも理解しているんだ。誰よりも繁殖モノを分かってる。
 繁殖について書かれた小説はあるが、抜けたことはない。
 おれは主人公と人外が繁殖してる作品でしか抜けない。おせっせじゃない。繁殖だ。頼むから繁殖してくれ。それができないなら、繁殖以外の何事もしないでくれ。
 それでも世の中はおせっせを止めない。それがもっとも尊い行為のように、作品の中で描かれる。
 おれが「#繁殖」のタグがついた作品を見つけたとき、どんな気持ちでセットしたと思ってるんだ。いそいそとベッドに登って、スマホ片手にセットして、繁殖について書かれた作品を読む。そこでおれは勃発するわけだが、だんだんしぼんでいく。
「繁殖じゃ、ないじゃないですか」
 描かれているのはおせっせだ。おせっせがおためごかしの多様性の元、繁殖の名を借りて描かれている。
「繁殖してないじゃないですか」
 集まった血液が急速にひいていく。高まった熱が冷めていく。出来の悪い試合を見せられた観客のように。エアコンのやたら冷たい風がしょぼくれたおれのインノケンティウスを撫でる。触るな。気安く触るなエアコン風情が。冷風のせいで膀胱が冷えて尿意を催す。ありえないことだった。尿意を催してしまったら、おれたちはトイレに行かなければならない。抜きたいのにトイレに行ってしまったら、おわりだ。トイレで抜くことなんてできない。そんなの可哀想だろうが。だから、そこで流れは断ち切られる。おしまいだ。おれの行いは唐突に終わってしまう。
 それでも、おれはちゃんとラーメンを食べられる。ほんとうの意味でラーメンを食べられる人は少ない。きちんと心と頭を整理して、ラーメンを食べると、ラーメンは勝手に口の中に入ってくる。おれが何をしなくても、おれがすべてを理解していれば、ラーメンは本来の姿を取り戻す。箸で麺を持ち上げて、スープをレンゲで掬う。繁殖について考える。すべてがおれのなかに入ってくる。それはとても自然な現象だ。おれは自然な現象が好きだ。もっと雨が降るように繁殖が増えればいいと思う。おせっせは世界のはじまりから存在するのに、人々は繁殖が自分達の傍らにあることを理解していない。おれの本棚とブックマークには、数少ない繁殖作品が並んでいる。おれがこつこつと集めて、保護している。彼らの有り様は美しい。まだ誰にも発見されていない美しい鉱石のようだ。おれも鉱石になりたい。鉱石になって、繁殖する。繁殖したあとラーメンを食べる。それは考えうる中で、いちばん自然なもののながれだ。それはまだ誰にも見つかっていない、秘密のルールだ。このルールを遵守すれば、安寧は保たれる。ずっと安心していられる。おれしか知らない、おれだけのルール。
 
 

 

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