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Separation After Darkness

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短編、掌編を載せます。 幻想小説だったり(恥ずかしい)日常の一場面を切り取ったり、そうではなかったり。 私が見ている景色、感じた情景をみなさんにも共有したくて。
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#犬

硝子は飛べないから犬にはなれない

 硝子は歩いて地面を啄む。せっかく夜が編み込まれた翼があるのに羽ばたかない。
 僕は家から帰ったあとに散歩に出かけるのだが、彼女はいつも散歩先にいる。
「なんで飛んで餌を取りに行かないの」
 と僕が言うと硝子はつん、と済まして言う。「私の翼は虫けらを啄むためにあるんじゃなイ」
 おお、なんて盛大な自尊心だ、と僕は思う。その時はそのままその場を後にした。
 次の日も彼女はそこにいた。てくてくと歩いて

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昼下がりの祖師枝さん

 祖師枝さんの死んだ飼い犬は、その体が朽ちる前に自身の半生を振り返り、最期の一瞬に、飼い主について思いを巡らせました。

 飼い主の祖師枝さんは、多趣味で、何もかもが好きでいて、飽きやすく、でも情熱的で、はたまた冷静さを欠き、慎重であるがゆえに臆病で、短気かつ明滅した意識の持ち主でした。自分ルールを持とうとして失敗し、自己投資が必要だと何か新しいことに手を出しては、それが自分にとって最上の運命だと

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