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流れるようにこちら側

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中短編を収録。 色々書いてます。君の話、オーブンの話、川底、机、どうでもいいこと。
仕事でうまくいかない人はうまくいくようになります。恋人とうまくいっていない人は気持ちをうまく伝えら…
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#現代文学

川底に捧ぐ

#夜の訪れ

 ひっきりなしにあごを動かして夕食を食べていた。夫は私の方を向いて今日の釣りの話をしてくれる。口から食べかすが飛び出さないように喋り、時々ナプキンで口端を拭く。私は夫の言葉に耳を傾け頷き、ほほえむ。でも夫は川を見て話しているように見える。何かが私たちを隔てていた。
「どうしたんだ」と彼は魚を切り刻み「具合でも悪いのか」と言う。
「そんなことないわ」私はフォークを置く。
「ちょっと小骨

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つくえ

 ごォん、といつものように鐘の音が鳴り響き、私の昼食は終わりを告げた。ゆったりとした時間は元に戻り、私は頭ががァんとなる。鉛色のフォークを皿の上に乗せ、食器を片付けるために立ち上がった。ぞろぞろとすぐに人の列ができて、その一本の長いロープに私も加わる。ひどくのろまな、だらだらとした遅い足取り。ザぁザぁとした足音。いつまで続くのだろう、と無意識にそう思っていたが、実際のところ、二分もかからずに私は片

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セイント・ベリー・ツリー

 レベッカ・ベルはオーブンに頭を突っ込んで死んでいた。オーブンからだらん、とぶら下がった足が左右に揺れている。何故こんなことになったのか、僕には良く分からない。狂ったと言えば話はそれまでだけど、じゃあ何が狂わせたかという話になる。それにイニスの目論見はこうなることじゃなかったはずだ。しかし、彼がいない今それを確かめる術は無い。
 イニス・ノストは本当に奇妙な奴だった。背は小さくずんぐりとしていて洞

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