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セフレ以上恋人未満

 月明かりにも満たない薄暗い部屋で、汗ばんだ肌を密着させるように私達は抱き合う。

 さっきまで綺麗に整えられていたシーツは、見る影もないほどクシャクシャに乱れていた。

 果てるように私の上に被さる彼の重みが、耳元に掛かる少し荒い吐息と混ざって妙に心地よく感じた。

 私達は恋人じゃない。ただの大学の友達。

 体で始まった関係だけれど、時間が合えばデートもするし電話だってする。

 曖昧でいい加減な関係だった。

「気持ちよかったよ」と言いながら体を起こした彼は、明日一限だから帰るねとベタついた体に脱ぎ捨ててあったロングTシャツを着た。

「うん、またね明日ね」と言う私。

「また学校で」と言う彼。

 彼の傍にいれるのならと体を許し続けてどれくらいの期間が経ったんだろう。

 桜が咲いていた頃からだから、多分一年くらい。

「私達の関係って何?」なんて聞いてしまえば、この関係は、シャボン玉くらい簡単に壊れてしまいそうで踏み出すことは出来なかった。

 このままで良いという彼と、このままじゃ嫌だと思ってしまっている私との溝は、きっとこれからも埋まることはないんだと思う。

 服を着た彼を下着だけ身につけて玄関まで見送る。

 普段は絶対にしない赤色の下着。二人で会う時だけ身につけているこの下着を褒められるたびに、嬉しい気持ちと虚しい気持ちが私をかき乱した。

「本当は興味なんてないくせに」と思ってしまう自分は大嫌いだった。

「じゃあね、また後で」と言う彼に、交錯する感情を悟られないように口角に力をいれて笑みを作る。

 軽く手を振って「あとでね」と笑う私を見ると、キーという甲高い音と共に彼は出ていった。

 セフレ以上恋人未満の二人。

 私達を正確に表す言葉は、まだこの世に存在していない。

 曖昧でいい加減で、決して結ばれることのない。

 怖がりで臆病な私が始めた、世界で一番報われない恋のお話。


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