お金持ちは、多分実感する機会が無いんだと思う。

お金持ちはお金持ちのコミュニティーに、生まれたときから属している。
生まれてから、死ぬまで、金持ちのコミュニティーの中だけで過ごす。
貧困なんて知らない。

去年の1年間を通して、そういうイメージを持った。
私の無知を知って、そういうイメージを持った。
これは偏見なのかもしれないけれど。



私が育つ場所には、お金持ちがいっぱいいた。
お父さんお母さんがお医者さんの子供、毎年家族でハワイ旅行に行く子供、大きな家に住む子供、プライベートジェット持っている子供。
いっぱいいた。
私は地元の公立の小学校に通っていたけれど、クラスの半分以上が中学受験をしていた。
給食費が払えない子供とか、虐待にあってる子供とか、自分の目が届く範囲にはいなかった。
今思うと、見えてなかっただけで、実はそういう子もいたのかもしれないけれど、私は気づいていなかった。

中学受験をした先には、もっと沢山のお金持ちがいた。
お医者さんの子供の数も増えた。社長の子供も、プライベートジェットも、小学校より増えた。
でも私は、周りがそんなのばっかりだったから、勿論、お金に困ってる友達なんて会ったことすらなかった。
みんなお金に余裕があって、教育投資を存分に受けて、ゆとりのある暮らしをしていた。

中受して入った学校は、良い子ちゃんばっかりだった。
大人の言う事を素直に聞く、素直に聞きすぎる子供ばっかりだった。
それに、厳しい学校だった。
ガムを噛みながら登校しただけで生徒指導室に呼ばれている同級生を見た時は、さすがに引いたけど。
良い子ちゃんばっかだし、非行に走る子なんて見たことがなかった。
朝早くから学校行って、帰りは車で駅まで迎えに来てもらって、家に帰ったら出された課題をずっとやって寝る。
そんな生活スタイルだから、髪を染めて、タバコを吸ってる高校生なんて、まず視界に入らない。
本当は近くにいたのかもしれないけれど、まず、関わることが無いんだ。
だから知りもしない。

色々あって、高校を辞めた私は、通信制高校に入り直した。

衝撃の連続だった。
なにもかもが、新しく、体をえぐった。

一番驚いたのは、高校生がバイトをしていることだ。
勉強が忙しすぎて、バイトするなんて頭は最初から無かった。
進学がすべての価値観だったから、バイトしている時間があるなら勉強をすべきだと思った。
びっくりしすぎて、バイトって高校生もできるんだ、って。
知識としては知っていたけど、それを反芻していた。

今考えたらあまりにも世間知らず。
悲しいくらいどうしようもない。
バイトに対するこんな考え、他人に言えるわけ無い。
友達には空気感で話し合わせて「バイトね~」って顔してたけど、内心は騒がしかった。

そこからは頭をガンっと殴られるような気持ちで色々なものを見ていた。

帰り道、のっぽの先輩がバス停でタバコ吸ってた。
慕ってる先輩が飲酒してて、友達に酒を勧めていたのを知った。
久しぶりに見たチャラめの先輩が、髪がピンクになって学校に来た。
休み明け、鼻ピアスしてる同級生がいた。

だからどうしたって、思うかもしれないけど。
今まで、身近に一回も目撃したことが無かったんだって。
もうびっくりして、この人たちは一体、どんな環境で育ったんだろうって。
ものすごく不思議に思った。

だって、本当に、見たことのない人種だったんだよ。
そして、正直怖かった。

今までガンガンで教育投資を受けた良い子ちゃんしかいないような、そんな環境で何年も生きてきたから、自分がマジョリティーだと思ってたんだけど、
私って特殊な環境にいたんだって。
初めてその時に気がつけた。

お金持ちは上位数%の話で、今の日本の平均収入は440万円で。

知識としては知っていたのに、イマイチ実感が持てなかった。
そこが初めて形になった。

転校しなきゃこんなことには気が付かなかった。

通信制でできた新しい友だちと関わっていく中でも、いっぱいえぐられた。

友達は、家にお金が無いからバイトしてって、親からお願いされてた。
他の友だちは、小学校の時、家が本当に貧しくて、コンビニのおにぎり2個が夕食だったって言ってた。
大学行くなら奨学金とらなきゃいけないって話してた。
高校卒業したら、働くって聞いた。

大学進学が当たり前の世界線で、こんなの見たこと無かった。
ドキュメンタリーは、いつまでたっても、ドキュメンタリーで、画面の先で止まっていた。

画面の先がこっちまで来た。
ああ、自分は知らなかったんだと。
自分は、知れなかったんだと。

金持ちは金持ちの中で生きていく。
貧困なんて知らない。
だって、知る機会が無い。
偏差値がすべての価値観で、偏差値を構造的に取りに行けない人たちがいることを、知らなかったし、知ろうともしなかった。

私みたいな環境で育った人は皆無知だと思った。
偏見かもしれないけれど。
でもきっとこんなのがいっぱいいて、そういう人たちが進学して、日本を作っていくんだと、そう思った。

これはある意味で不幸なことだと、強く思った。

無知だった自分を恥じた。
自分の環境の特殊さを自覚した。
謎の罪悪感を背負った。



自慢がしたかったわけじゃない。
ただただ、驚いて、世界がひっくりかえって、自分の立っている地面が揺らいだ、経験を書き残したかっただけ。
書きたいって気まぐれを起こしただけ。

嫌味に受け取られてしまうような内容かもしれない。
でも、正直に書きたかった。

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