人生に保険をかけてしまう

現在大学3年生、20歳。

卒業後の進路を考える中で、自分の性分につくづく嫌気が差してしまった。

元々私は、漫画家になりたかった。
小学校低学年の頃に「ちびまる子ちゃん」をコミックスが擦り切れるほど読み込み、ポストさくらももこは私であると本気で信じていた。
当時の私の人生設計では、20歳の今はちょうど「りぼん」あたりで漫画家デビューしている予定である。

一方で実際の私はといえば、漫画はもっぱら読む専門である。
美大にも行きたかったが、結局普通に勉強して東京の大学に進学。美術にちょっと関係のある専攻を選んだが、アーティストにはなっていない。なれなかったというのが正しいかもしれない。

漫画家を諦めた理由は単純で、保険をかけたのだ。
成長して世の中を知るにつれ、デビューまでには途方もない努力が必要であり、さらに漫画家になれたとしても成功するのは一握り、と気づき始めた。
そんな不安定な道に進むのはあまりにもリスキー。

アーティストにならなくてもいいじゃないか。漫画は趣味で良い。
でもキラキラした世界には憧れるから、とりあえず東京に出よう。アートに少しでも関連のある勉強ができれば良い。そう思って今の大学に来た。


すると、また新しい夢ができた。

研究者になってみたい。

私の専攻は少し特殊で、文系とも理系ともいえるちょっとマイナーな学問である。
だからなのか、所属する学生も教授も一癖ある人が多い。自由でオタク気質。それが良い。

幸いにも「これだ!」と思える研究テーマに出会うことができた。先行研究を理解できず苦しい思いもしたが、理解できた時の喜びや、発表で感じた手応えは忘れられない。それまでの受験勉強とは比にならない達成感があった。

教授のサポートのおかげで、その分野の研究者の方との繋がりを持つこともできた。彼らと話していると、さらに研究者への憧れが増していく。

しかし同時に、研究者の道が漫画家と同じくらい険しいものだと知った。


大学教員や研究所職員のような研究者になるには、博士まで取得するのがほぼ必須条件になる。博士後期まで出たら何年かかる?学費は?生活は?
さらに卒業したとして確実な就職先はない。運良く仕事を見つけたとしても、正社員とは限らない。

周りが学部で卒業して、働いてお金を稼いで、結婚して家庭を持って…とどんどん次のライフステージに進む中、自分は学生、非正規職員、と考えると恐ろしくなった。

その研究に命を捧げられるほどの熱意があるわけでもないのに耐えられるのだろうか。恐らく無理である。

ある程度の経済力だってつけたい。デパ地下のお惣菜を躊躇なく買えるようになりたいし、良い加減全身GUコーデも卒業したい。世間体だって社会性だって気になる。


研究者の厳しさを理解したある日。大学3年の5月下旬。
同じ研究室の友人がなんとなくで就活を始めたと聞いた。

ここ最近ずっと院進一択だったため就活のしゅの字も頭になかったが、「院落ちた時の保険として企業で内定もらっとくのも良いかもなあ…」と打算が働いた。

思えばこれが人生における2つ目の保険だった。


結果から言うと、私はそのまま就活に流されて、気付けば来月に第一志望の企業の最終面接を控えている。


これが良いのか悪いのかは分からないが、このまま内定を頂ければ、再来年の春からそこで働くことになると思う。
今私が勉強していることと何の関係もない企業だ。

人から見れば「逃げ」だと思う。実際、研究室の教授にもお世話になっている研究者の方にも驚かれた。

ただ私からすれば、その企業で働きたいという気持ちは本当なのだ。
就活をしてみて世の中への解像度は劇的に上がったし、自己理解も深めることができた。それは悪いことではないはずだ。

だからこそ迷っているのである。
私はこういう節がある。
保険をかけた先で割とやりがいを見出してしまい、方針転換をしがちなのだ。

漫画家だってそう。堅実に東京の大学行く方が良いなと思って勉強に力を入れたらぐんぐん成績が伸びて、満更でもなかった。

就活は決して楽しいものではなかったが、やりがいがあった。自己分析をしていろんな業界を知って、対策を繰り返してESやら適性検査やら面接やらに臨み、コツを掴んで選考を突破できた時の達成感はすごかった。


もし第一志望の企業の最終面接で落とされたら、たぶん立ち直れない。
それくらい企業理念とかビジネスモデルに共感しているし、社風も人柄も大好き。
社会に出たことのない若造の戯言と思われるかもしれないけど、絶対楽しいんだろうなって確信している。


でももし、私がここに就職して5年とか10年とか経ったとして、大学の同窓会が開かれたとする。
その時に、大学院に進んだ同期が研究職に就いたと聞いたら、悔しいだろうなあとも思うのだ。


夢を諦めたことがずっと引っかかって、大好きなアイドルにも複雑な感情を抱いてしまうかもしれない。(不安定な芸能界で努力しててすごいなあ、夢を追うってすごいなあって)
さらに今付き合っている彼氏も大学院に行くので、一緒にいる中でコンプを抱えてしまうかもしれない。(けっこう不安視している)


でも、仮に院に進んだとして、M2とかで今の第一志望の企業の採用ページを見たら、それはそれで複雑な気持ちになるんだろうなあとも思う。


とにかく毎日不安が募る。
そもそも内定貰えなかったら笑い話なんだけど。
今の第一志望で落ちたら潔く研究者の道を目指すかもしれない。いや絶対内定獲得するけどね。


今なんとなく考えているのは、社会人大学院という選択肢。
夜間開講の大学でもいいし、うちの大学の社会人枠でもいい(夜間とか通信とかないから後者は厳しいかもしれないが)。最悪、一旦仕事を辞めて学生に戻っても良い。

昭和の時代に生まれてみたかったなーと思うことがたまにあるんだけど、現代に生まれてよかったと思うのはこんな時だ。
生き方の多様性がかなり認められてきている。

1つの企業で正社員として長く働くことが正解じゃなくて、自分に合った働き方を選べる。引っ越しても結婚しても子供を産んでも仕事を続けられるし、辛かったらフルタイム以外の選択肢もある。副業だってできる。

そして、私の行きたい企業はこんなビジョンを掲げて事業を展開しているのだ。もう、めちゃくちゃ好き!!就活していると研究テーマなんてほぼ聞かれないんだけど、御社は興味持って聞いてくれて、わざわざその場でネットで調べてくれて、「会社入っても勉強続けなよ!てか続けられるよ!」と言ってくれた。

こうして考えると、無理に今大学院に行く必要もないのかなあと思う。
一度社会に出て、それでもどうしても研究者になりたいと思ったらその時また考えればいい気もする。


人生に保険をかけてしまう自分は本当に嫌だけど、保険をかけた先に意外な発見があったりして、それはそれで楽しかったりするのだ。

昔読んだ小説に、こんなセリフがあった。

「正解の選択肢なんて無くて、選んだ選択肢を正解にしなきゃいけない」(うろ覚え)

私はこのセリフがものすごく好きだ。
気が楽になる。
後から正解にするならいくらだってやり直しができる。


人生にパラレルワールドはないし、あれもこれもと全部盛りにできるほど長くは生きられない。どこがで妥協が必要だと思う。

限られた時間で選択肢を吟味して、死ぬ時に「なんだかんだで正解だったな」と思えればいいんじゃないかなと思う。



1年後どころか1ヶ月後もどうなっているか分からないが、気に病みすぎず、保険をかけてしまう自分を受け入れて、とりあえず明日(勤労感謝の日)は昼まで寝る。


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