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ショートヘアに対するどうしようもない私の幻想

大学2年になる四月、髪をばっさり切った。成人式を控えて頑張って伸ばしていたけれど、もう耐えられなかった。前撮りを終えて、次の日、誰にも言わずに美容院へ駆け込んだ。

担当の美容師さんは私が高校を卒業した段階から、どうにもならないくせ毛と直毛の入り混じった髪の毛と戦いながら伸ばしてきたのを知っているから、何度も確認してくれた。本当にいいの?ここまで切ってしまったら、成人式はショートか最低でもボブで参加することになるよ。後悔しない?

躊躇いがなかったかといえば嘘になる。髪を伸ばし始めた頃だって、ショートヘアに憧れがないわけじゃなかった。私の好きになるモデルさんや女優さんは、みんな一度はショートヘアにしている。そしてみんな似合っていた。

そんな人たちに比べれば、私は丸顔で、決して細いわけではない。冬になると食欲旺盛になりすぎてしまって、二重顎を指摘されてしまうときもある。でも、もうやるしかない。切るなら今だ。その核心だけはあった。

私のショートヘアの憧れは、ユーリズミックス(Eurythmics)のアニー・レノックスが原点だ。確か中学三年生のころ、たまたまYouTubeで80sを聴きまくっていた時期、出会ってしまった。Sweet Dreams (Are Made of This)のMVに。

初めて聴いたとき、心が震えた。低めのハスキーボイスに、坊主に近いオレンジのベリーショート!かっこよかった、死んでしまいそうなほど!

世間の女子=ロングヘアのイメージに則ってわざわざ校則違反のストレートパーマをかけ、こけしのようなパッツンの前髪を作っていた私は、それが自分に似合っていない事を理解していた。クラスの巻き髪が似合うあの子みたいにはなれない、パリコレモデルのような綺麗な黒髪ストレートロングにもならない。でも、その頃の私にとってはショートヘアは「運動部の女の子がする髪型」の印象がどうしても強くて、ロングよりも似合わないと信じていた。だって顔丸いしね。

でもアニー・レノックスのショートヘアは私の固定概念を完全に破壊してくれた。濃いアイメイクに、綺麗に縁取られた真っ赤な唇。スタイルの良さが滲み出るスーツ姿、そして奇抜なオレンジのショートヘア。狭い女子観を持つ私には、少々過激で、革新的だった。

そしてついに、高校一年の夏。私は、髪をショートヘアにした。

結論から言うと、死ぬほどに合わなかった。いまだに、なぜあんなに似合わなかったのかわからないけれど、それこそ私がイメージしていた「運動部の女の子」だった。(その当時演劇部所属だったにも関わらず、やたらとソフトボール部に間違われることが多かった。)アニーには程遠い、絶望だーーー

その当時David Bowieもアニー同様崇拝していた私は、心のどこかで髪をショートにすれば、私もあんなミステリアスな、美しい人種になれる。そう信じていた。ひどい勘違いである。

あまりの絶望に、私は二度とショートヘアにしないと決めた。

しかし、私の胸にはまだ彼女がいた。アニーレノックスになりたい、ショートヘアでかっこよく自信を持って、そんな人になってみたい!

ちょうど大学一年生の終わり、私の生活は散々だった。毎日うまくいかなくて、そのストレスで甘いものを食べすぎてしまう。その冬だけで、体重が4キロ増えてしまった。勉強もうまくいかない、友達関係もめんどくさい、恋愛もなんだか、、、

伸びて痛んだ髪に、全部絡みつくようだった。自分はこんな女性になりたかったんじゃない。みんなみたいに髪伸ばして、乾かしてセットして、どれだけ時間を費やすの?そんなとき、頭によぎったのは、Sweet Dreamsのアニーだった。

切るとき、死ぬほどドキドキした。怖くて怖くて、いつでもやめられるように少しずつ切ってもらった。失敗しないように。でも、どんどん髪が短くなって、自分が隠したかった丸い顔が隠せない長さになって、そこまできたら胸がすとん、と軽くなった。

思いっきり切っちゃってください、どうせすぐ伸びちゃうから。

美容院から出るとき、私の足取りはとても軽かった。お世辞かもしれないけれど、よく似合うと言ってもらえたこと、そして何より、自分が長年望んだショートヘアになれたこと、全てが最高の気分だった。アニーと同じベリーショートではないし、オレンジでもないけれど、自分が望んだ髪型になれたことが、とても幸せだった。

その後も私はショートヘアを続けている。美容院に通わなくてはいけない回数は増えたし、ショートだと男ウケよくないよ、とか言う的外れなアドバイスも貰うけど、それで全然構わない。自分が納得する形が一番で、納得していれば、いつか必ず馴染んで行く。

今年の夏私は青緑メッシュのショートヘアでアメリカ東海岸縦断をしてきたが、この髪型のおかげでたくさんの会話の機会に恵まれた。あなたの髪型素敵ね、と面と向かって言われるのは嬉しい。

今私はうなじが刈り上げの、青色ショートヘアの髪型になっている。まだ、アニーみたいなオレンジのベリーショートはやったことがないけど、いつかやってみたい。金髪だってやってみたい。けど、私がいいたいのは、ショートが決して特別だと言うことではなくて、自分がやりたいものが、結局一番自分にとってしっくりくるだろうし、それが自分を構成する一部になるということだ。自然の髪の毛の色ももちろんいい、ロングヘアも、アレンジがきいて素敵だと私は思う。でも、私はあえてショートヘアという選択を貫きたい。

アニーありがとう。そしてもし、髪型に迷っている人がいれば、ショートという選択もありじゃないだろうか。

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