見出し画像

スクラムでよく聞く『尊敬』について考えてみた

本記事は以前公開した「スクラム実践者が知るべき97のこと」の読書会をやってみたの中で特に盛り上がったテーマのひとつである「尊敬するとはどういうことか」についてご紹介します。
勉強会開催の経緯や概略については上記の記事をご参照ください。

電通デジタル開発部の長内です。

「尊敬」という単語からみなさんは何を思い浮かべるでしょうか。
「スクラム実践者が知るべき97のこと」の本の中でこの「尊敬」に直接的、間接的に触れているタイトルが複数あり、加えてスクラムガイドから以下の内容が引用されていることからスクラムにおいて重要な要素のひとつであることが読み取れます。スクラムガイドから以下の内容が引用されていることからスクラムにおいて重要な要素のひとつであることが読み取れます。

スクラムチームが、確約(commitment)・勇気(courage)・集中(focus)・公開(openness)・ 尊敬(respect)の価値基準を取り入れ、それらを実践するとき、スクラムの柱(透明性・ 検査・適応)は現実のものとなり、あらゆる人に対する信頼が築かれる。

では「尊敬する」という行為はどういう状態を指すのでしょうか。辞書の意味通りに解釈するのであれば、他者の人格を認めること、となるのですが「私はあの人の人格を認めている」、「私はあの人から人格を認められている」と自覚する経験がある人はおそらく少数派で、尊敬する、されるという状態は非常に実感を伴いにくいものであると言えるでしょう。

画像1


私はこういった実感が伴いにくいものを感じ取る場合は一度否定してみる、例えば「他者から人格を認められていない」状態を一度思い浮かべることで、実感が伴いにくかった「他者から人格を認められている」という状態を考えます。ここで具体的に人格の否定状態について記述すると記事のテーマから逸脱するため割愛しますが、歴史や個人の経験でもそういった状態は読み取れるものと考えます。

画像2

2017年頃、他者に対するネガティブな言動や行為について言及する文書が盛り上がったことはまだ記憶に新しいのではないでしょうか。例えばNetflix CultureBrilliant Jerks in Engineeringです。Team Geekという本で紹介されるHRTという言葉、つまりHumility(謙虚)、 Respect(尊敬)、Trust(誠実)が再注目されたのもこの頃です。

さて、ここまで「尊敬」の状態や過去に言及されてきた例を触れてきたので、ここからは実際に読書会で触れられた「尊敬」についての議論を紹介します。

今回の読書会では邦訳の本であったため、「尊敬」という言葉の意味に「尊重」も含まれるのではないか、という仮説が共通の認識になりました。これはビジネスの場に限らず多くの場合において「尊敬」という言葉の重みを母語が日本語である人は感じ取ることから、我々がスクラムの現場で使うべき単語としては「尊重」の方がより受け入れられやすいのでは、という考えです。そしてこの「尊重」という単語には人以外も対象とするようなニュアンスを含みます。実際、本の中にも「他者のスキルや専門知識を尊重する」、「多様性や意見の違いも尊重する」といった文章が発見できるため、この気づきは本読書会中で最大のインパクトとなりました。

画像3

尊敬についての議論の中でひとつ興味深い発言がありました。「スクラムの文脈では尊敬と感謝はセット」というものです。この感謝に至る前段のプロセスとして、対象を認知すること、興味を持つことが必要であり、認知していないもの、興味を持てないものに対して人間は感謝という行動が取れないという発言も続きました。仮に認知しても、興味を持つという行為が高い壁として立ちはだかるため、興味を持つこともひとつのスキルなのではないか、という仮説に行き着きます。そしてこの仮説に対して人間が他者や事象、物体に興味を持つ際には多くの場合、自身にメリットがあるかどうかを無意識に判断しているのではないか、という意見が続きました。
これらを踏まえさらに議論を進めていくと、興味を持ってもらうには相手を褒めるなどして承認欲求を刺激すれば良いのでは、というリーダーシップやマネジメントの本でよく目にするコミュニケーション方法に帰結していきます。

以上が「スクラム実践者が知るべき97のこと」の読書会で行われた「尊敬」に対する議論の内容です。
読書会の中でひとつのテーマで盛り上がる、ということは珍しくないことだとは思いますが、掘り下げていくことで別のテーマの本などでよく目にする内容へ収束していく、というプロセスは答え合わせをしているようでなかなか稀有な経験だったように思います。
これはマネジメント、チームビルディングといった様々な経験を持ったエンジニアが集った読書会だからこそ発生し得た相乗効果だったのかもしれません。

<参考図書>
『スクラム実践者が知るべき97のこと』Gunther Verheyen 編、吉羽 龍太郎、原田 騎郎、永瀬 美穂 訳 / オライリージャパン / 2021


『Team Geek
――Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』Brian W. Fitzpatrick、Ben Collins-Sussman 著、角 征典 訳 / オライリージャパン / 2013


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!