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運営している奴らが怪しすぎる!? Vtuberヒカル・ミナミは、なぜ、ラッパーにジョブチェンジしたのか?

「島島」レーベルのPR担当「Vtuberヒカル・ミナミ」、そのプロトタイプが誕生したのは2018年。2019年にバージョン・アップし、コロナ禍を中心に、一時期は精力的にVtuberとして動画配信を行っていた(最近はサボりがち)。

再生数は良くて数千、少ない時はわずか数百。全くバズっていないし、収益化にも程遠い。でも、Vtuberヒカル・ミナミは営利目的のタレント業ではなく、あくまで電子出版事業のPR大使。例えば早川書房&メディアドゥのNFT搭載電子新書のように、「出版社としての先鋭性」を証明できればOK。つまり、存在しているだけでその役割は果たしていた。

PR作戦のおかげ(?)か、2020年からスタートした電子書籍出版は好調。だったら並行してサブスク音楽配信をしてみよう。そう考えて、2021年より「島島」内に音楽事業部を設置。電子出版と並行して、サブスクリプションによる音楽配信をスタートさせた。

サブスク配信代行会社は「Distrokid」を活用。年間80ドルで、アーティストは5人まで、曲数はアルバム、EP、1曲シングル形態を問わず何曲でも、定額で配信できる。国内最大シェア「Tune Core Japan」の場合、1曲あたり年間1,551円、アルバムなら5,225円が年間登録料。大量の配信曲を持つレーベルの場合はDistrokidの方がお得。そんなわけで、Distrokidを通じてハードディスクに膨大に眠るAIFF、WAV、MP3を、2021年から少しずつ配信し始めた。

Tune Core Japanの年間利用料。1曲で勝負ができる質の高い音楽家向き?JASRACや初音ミクとも連携も可能


Distrokidの月間利用料。大量のカタログを持つ島島レーベルはUltimateコースを活用。レコチョク、LINE MUSIC、AWA等国内サービスには非対応。でもSpotifyとの連携は強い!


試験的に、サブスク音楽配信を始めてみて実感したのは、「どんなものでも配信できる」「寄せて集めれば収益化できる」「質より量」「アルゴリズムが届けてくれる」こと。売り上げはほぼ年間登録料とトントンくらい。スタートして1年くらいはそんな状況が続いた。

「どんなものでも配信できる」なら、youtubeも配信すればいいのでは? と思い至り、2年目の2022年「Vtuber Hikaru Minami」をアーティスト登録。過去のyoutube動画の2019年配信分から音声だけを抜いた音源を10本まとめ、アルバム『Talking About Manga "Dien Bien Phu" In TOKYO(2019)』として配信してみた。

結果的には全く聴かれていない。世界中で3人くらいしか聴いていない。でも、作家の肉声のアーカイブ、音声図書館と考えれば、無価値ではないだろう。ニーズがまったくないまま、Apple Music、Amazon Music、Youtube Music、Deezer、Tidal、KKBoxなど、世界の様々なアプリで現在も配信中。

Distrokidを経由して全世界22のアプリに配信中。他にも、ライセンス条文の読み上げや、ラジオドラマを配信中。でもほぼ聴かれていません

最低な再生数に懲りることなく、続いて2020年のyoutube音声をまとめたものを配信しようとしたところ、エラーが発生。Distrokidからの通達をざっくり翻訳すると…

「これは音楽じゃないから、我々のポリシーに反するから認められない。もっと良い曲を配信して!」

とのこと。結果、一度配信したアルバムは締め出されなかったものの、これ以上のyoutubeからの音声切り抜き配信はNGになった。もしかしたら、本家youtubeで配信済みの音声とぶつかったのかもしれない。違法アップロードへの警戒もあってか、音楽配信代行は音源データの重複についてはとても厳密だ。そんな経緯で、謎のアーティスト「Vtuber Hikaru Minami」はアルバム一枚限りで活動終了することに・・・。

早々と活動終了。そして伝説へ。頭の中に響くのはドアーズの「THE END」?

Distrokid年間80ドルで管理できるアーティスト・アカウントは5つまで(それ以上は都度課金)。せっかく作ったアカウントを、捨ててしまうのももったいない。そう考えて、Youtube音声配信は諦め、改めて「音楽」を配信することにした。

Vtuber Hikaru Minamiは「語り」。「語り」に「枯れたギター」が加わればブルースになるだろうし、「語り」に「HIP HOPのビート」を加えればラップになるだろう。あれ? 音楽を作ることは意外と簡単そうだ。そんなわけで、Vtuberはラッパーにジョブチェンジ!

ラッパーとしての初リリースは、2022年、3曲入りEP「TATEYOMI」。ビートは配信済みのDJまほうつかい『The Beats』の3曲目をジャック(流用)した。Ye(カニエ・ウェスト)と同じMC兼トラックメーカー、プロデューサー形態だ。

タテヨミ、WEBTOONのスタジオはどこもスタートアップらしい希望に溢れているけれど、その反面、「どこか詐欺っぽい」と感じていた。たかが漫画家(自分含む)を「クリエイターさま」と呼ぶ時点でだいぶ怪しい。そして複数人の制作体制により、一作家なら最低でも出版社振り込みの30%は得られるはずの電子出版印税が、さらに細切れにされてしまう。

「島島」は、完成データを自主制作し、「電書バト」経由で配信しているため、配信代行会社入金の80%を得ている。それと比べたら、相場の30%どころか、分業によって取り分が6%や、3%にまで縮んでしまうWEBTOONは、ビジネスになりそうにない・・・。そんなことを考えながら、自然と口から出たリリック(歌詞)がこちら。

タテヨミマンガ ダサい
タテヨミマンガ ダサい
運営している奴らが 怪しすぎる

Vtuber Hikaru Minami/TATEYOMI より

「小悪魔教師サイコ」の一件に限らず、タテヨミ、WEBTOONのスタジオの多くは、遠目に見ても怪しすぎる。資本主義は果てしない利益の増大を前提とした思想なので、WEBTOONスタジオは常にアッパーでポジティブ。でも、そこで発生する嘘や歪みは、制作費の安さ、配分率の低さとして、末端の労働者(クリエイターさま)にネガティブに跳ね返る。「運営している奴らが怪しすぎる」は、誰を指すでもなく自然と出てきた言葉。でも、結果的にリアルな警告ソングになった。リアルであることはHIP HOP的に何よりも重要な条件だ。

続くリリースは、カンボジア内戦を描く新連載『コムニスムス』の準備期間に作った「Make No Money」。クメール・ルージュがプノンペンを奪取した時、まず破壊したのは銀行だった。資本主義よりも新しい思想、共産主義(コムニスムス)は「お金」それ自体をも破壊し得るアイデア。新連載を構想する中で、クメール・ルージュ側のキャラクター目線でふと浮かんできたリリックがこちら。

お金なんか いらない
お金なんか いらない
愛だけあればいい

Vtuber Hikaru Minami/Make No Moneyより

SNSだと批判が来そうな言葉も、ラップにしてしまえばそれは「音楽」になり、結果炎上しない。そもそも誰も聴いていない。でも、「お金なんていらない」という反ビジネスのメッセージは、そのリリックとは反対に、サブスク配信で恒久的に利益を生み出し続ける。

ちなみにジャケットのドルマークの片隅に配置された少女は、『ディエンビエンフー』最大の資本主義の実践者、サイゴンの億万長者こと「ニュー」だ。

『ディエンビエンフー 完全版 TRUE END 14』より。サイゴン財界の裏番長ニューは続編『コムニスムス』でも大活躍、共産主義をぶっ壊す!

それ以降も、紙の本を出せば「Kami Da Law」フンくんのぬいぐるみを作れば「Hung King EP」、ホテルで泊まれる原画展を開催すれば「Hotel EP」、「魔改造フィギュアで逮捕」のニュースが気になって「MAKAIZOU」など、気分のまま随時EPをリリース。最新EPは「GYAKUNI」で、これは「みんな逆にって言いがち」と感じて生まれた曲。このように日々、ラッパー・Vtuber Hikaru Minamiは、定期的に感じたこと、思いついたことをサブスク配信中。現在34曲。

1年ほど、そんなことをしていたら、2023年5〜6月頃に、突如「Hung King - Shakutipat Mix」の再生数がSpotifyで急上昇。5人くらいしかいなかった月間リスナーは、一時期5000人に達した(現在は減少)。ラップ曲は北米、ヨーロッパへ届き、HIP HOPのプレイリストにも時々入るようになった。ついにVtuber Hikaru Minamiは、ラッパーとして認識された!? 少なくともアルゴリズムはそう判断したのだ。

2023年5月、完全に無風だったVtuber Hikaru Minamiを中心にしたspotifyの急上昇。Distrokidの解析より


例えば、「きくお」「青葉市子」「椎名もた」。音楽配信の理想は、真にインディペンデントで、芸能的ファン形成とは無関係にメジャーを超える再生数を叩き出す音楽家たち今の所、それには遠く及ばない島島の音楽配信の実験はしかし、予期せず発生するアルゴリズムの追い風によって、小さく恒久的な利益を生み出し始めている。

(ここで宣伝、Distrokid Referralsのクーポンを配ります。このクーポン・コードを使えばDistrokid登録料0%オフです、ぜひ使ってください)
https://distrokid.com/vip/seven/3051400

配信している全4アーティストを寄せて集めると、現在配信楽曲は600曲超、累計再生数は約100万回。ジャケもトラックも、ラップもレーベルも自分なので、制作費はほぼゼロ。かつ、自分がレーベル(音楽出版元)なので、全世界売り上げからの配分率は100%。累計売り上げは1700ドル。一年80ドル×20年分と考えると、とりあえず20年後の未来2043年まで音楽を世界にお届けするだけの資金は調達済みということになった。

つまり、ここから先は儲かるだけ?
Thugにやろう。
Make Money.

(おわり)

ところで「タテヨミマンガ ダサい」と言いながら、Renta!さんでは『ディエンビエンフー 新装版』(双葉社)タテコミ化(Renta!内でのWEBTOONの呼称)され配信スタートしています。だ、出していました、WEBTOON。すみません。

『ディエンビエンフー』が縦でも読める。映像的で読みやすい。時々フキダシの文字を大きくしたり、エディットも細かい。前言撤回、やっぱタテヨミ最高〜〜〜っ!

Renta! タテコミver.『ディエンビエンフー 新装版』(双葉社)より


WEBTOONらしい処理の一例。現在『西島大介短編集 夏の彗星』(島島)も、タテコミ化を進めています。Renta!運営さんは怪しくない、信頼できる!



そして現れた第5の刺客・・・

てか、お前誰?

お前誰?

Mステ出たからって何?

知らない人にも言われるお前は誰?

ふあゆ〜?


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