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〈連載#4〉いまこそ見つめ直したい、チームワークのこと。

『境界線が溶けゆく時代のインナーアクティベーション』
note連載 第4弾

コロナウイルス禍は、社会のあらゆるものがつながっていることを、私たちに再認識させました。職場と家庭。対面とオンライン。企業と社会。これまで当たり前に存在していた「境界線」が溶けてゆく。その流れは、ますます加速していくのだと思います。

そんな時代に、組織をどう活性化させるか。働き方を、どうデザインしていくのか。
「企業を内側(インナー)から動かし、事業や経営を良い方向へ変化させること」をミッションとして活動してきた電通ビジネスデザインスクエア(以下BDS)のインナーアクティベーション・チームが、識者との対話を通して考えていきます。

今回のゲストは、ITソフトウエアサービスを提供するサイボウズ株式会社で、社長室フェローとして活躍する野水克也氏。自由度の高い働き方で注目を集める同社の人事制度に触れながら、「これからの企業と個人の関係」をテーマに対話しました。

サイボウズ株式会社 社長室フェロー
野水克也

大学卒業後、テレビカメラマンとディレクター、家業の建築業代表を経験した後、2000年にサイボウズ入社。広告宣伝、営業マネージャー、製品責任者、マーケティング部長を経て現職。同社の働き方の変容を間近で見てきた経験を生かし、働き方改革についてのエバンジェリストとして講演を多数実施している。
また、企業間や地域社会におけるクラウド活用の先端事例推進のため、全国を飛び回る。一般社団法人クラウド活用・地域ICT投資促進協議会 理事、内閣官房IT戦略会議 電子行政オープンデータ実務者会議 構成員を歴任。副業として、現役カメラマンとしても活動中。

リモートにすべきか否か、今はまさに葛藤の時期

江畑:コロナ禍でテレワークが推進され、世の中にあったさまざまな境界線が溶けていくような現象が起こっています。しかし、以前から働く場所や時間を自由に決められる人事制度があったサイボウズでは、コロナ禍においても大きな変化は起きていないと聞きました。サイボウズで長年にわたり、自社の働き方改革を体験してきた野水さんは、今の世の中の状況をどう見ていますか。

野水氏(以下敬称略):「境界線が溶ける」という現象は、コロナ禍で急速に進みましたが、今は止まったように感じています。当社は以前から境界線がなくなりつつある状況だったので、コロナ禍の前も後も変わりませんが、世の中を見てみると元に戻っていますよね。電車に人も戻りつつあるし、リモートで行っていた会議も、地方から東京に集まって実施することになったり。ロウソクのように一回溶けてリモートに流れたけど、また火が消えた瞬間に蝋が下に流れた形で固まっているような状態。もしかすると今からゆっくり溶けていくのかもしれませんが。

江畑:変化しきれなかったけど、これから変わるかもしれない。まさに過渡期ですね。

野水:今まさに葛藤しているのでしょうね。大きい声で現場を仕切るのが得意な人や、人間関係で売り上げを立てていたタイプの人は戻したくてしょうがないのだと思います。逆に効率が大事だし、単純に良いものや合理性が高いものは採用していきましょう、という人もいて、両者がせめぎ合っている。昔だったら、上の世代に「やっぱり対面でしょ」と言われて、押し負けていたかもしれませんが、今はコロナ禍があるからリモート推進派も戦えるタイミングですよね。

江畑:同感です。経営者も、自分の会社のリモートと対面のバランスをどうするか、悩んでいる時期だと感じています。

内閣府の調査によると、全国の就業している人のうち、約30%がテレワークを経験して、そのうち70%ほどは、この状況を維持したいと回答していました。世の中の空気としてもリモートは良いものだという風潮が高まっているようです。

野水:テレワーク経験者が約30%と聞くと思ったより少ないような気がしますが、この調査は工場勤務の人も含みますよね。今後、工場をどうしていくかについては、皆あんまり真面目に考えていない。戦争だってリモートでできてしまう時代です。工場もロボットを使って遠隔操作で動かしたり、材料を個人の家に届けてそれぞれが作業して、回収車が回る方式にしたり、考えてみれば方法はあります。

江畑:確かに、「工場は仕方ない、リモート化できないだろう」という思い込み自体を疑ってみるべきですね。変えられないから今まで通りにやるしかないと決めつけていることは、工場以外にもいろんなところに潜んでいるのかもしれません。

付加価値を生む社員をどうつくるか?

江畑:サイボウズは以前から、働く場所も時間も自分で決められる人事制度や副業の奨励などの働き方改革を進めてきましたが、そもそもなぜ取り組みを始めたのでしょうか。

野水:東日本大震災の1年ぐらい前、離職率がとても高い時期があったんです。その頃のサイボウズは、成果主義で、儲かったチームにボーナスが100万円出て、儲かってないチームは一銭ももらえないような会社でした。年間、社員の1/4近くが辞めていて、それが数年続いたときに、「これはまずいぞ」と。そこから働き方改革が始まりました。

しかし、「給料を上げます」と言ったところで、誰も残ってくれません。グローバルで競争しようと考えると、GAFAと呼ばれるような企業に給料では勝てないのです。では、どうすれば優秀な人を集められるかを考えました。

世の中にいるスキルが高くて、長時間働ける人は、大企業か外資系に行きます。その次の選択肢として、「スキルが高いけど、働き方に制約がある人」か、「スキルはそんなに高くないけど、いくらでも働きます」、という人かの二択になる。そこで僕らは、「スキルが高いけど、働き方に制約がある人」を集めることに決めました。つまり、リモートワークにしたり、週3勤務にしたりというのは、優秀な人を繋ぎとめておく戦略なんです。

江畑:震災以前から取り組まれていたんですね。企業を持続的に経営していくための手段の一つとして働き方改革を実施している。言い換えれば企業の生存戦略として働き方改革を取り組んでいるということだと思いました。

ある会社では、社員満足度調査を毎年実施して、「給料を上げてくれ」「休みを増やしてくれ」という社員からの要求にすべて応えていったそうなのですが、それを3年続けても、退職者は出ましたし、社員たちがより高い要求をするようになっただけで、満足度は改善しなかったそうです。社員の満足度を上げようと努力しているが結果に結びつかないというケースで悩んでいる経営者の方も多いと思いますが、何が足りなかったのだと思いますか。

野水:働き方改革を進めて、今までの厳しい管理体制から脱却するときに、「付加価値の高い仕事をしてもらえる会社にするには、どうすればいいか?」を同時に考える必要があるのですが、その部分をあまり考えていなかったのかもしれませんね。

「付加価値」とは、自社にとっての付加価値です。例えば当社の場合は「チームワーク」と「IT技術」ですが、「どうすれば、それを社員に身に着けさせることができるのか?」を考える。「IT技術」に関しては、先端技術に詳しくなるように最新の機器を使えるようにしているのもその一つです。そして、自由な働き方や副業OKにしてるのは「チームワーク」のためでもあります。

江畑:副業OKにしたほうがむしろ、チームワークが生まれるんですね。すこし意外な気もします。

野水:校則と同じで、緩くするからこそ、自分たちで考えて運営するようになるわけです。「どうすれば参加してくれるだろう?」「やる気になってもらうためにはどうすればいい?」と自分たちで悩んで運営していくと、チームはサークルのような集団になっていきます。報酬ではなく、理想で結ばれたサークル。理想をどこに持っていくかは、サークルの皆が決める。新しいことを生み出すときは、サークル的なマインドが大事で、何をすべきで、何がしたいのかを自分たちで決めることが重要な点だと思います。

自分の理想を持ち、他者に伝える努力をすることが大事

江畑:理想で結ばれたチームをつくるとき、まずは会社自体が理想を持つことも重要ですよね。第3回の対談では、企業が理想を描けなくなっているということが語られていました。

野水:その通りなのですが、中小企業の経営者の方に「10年後どんな会社になりたいですか?」と聞いても絶句されてしまうことがあります。「来期の売上を10%上げるためにはどうするか?」ということは考えていても、「10年後、こういう世の中を実現したい」などと真面目に考えている経営者は一握りなのではないでしょうか。

江畑:理想は経営者にこそ持って欲しいものなのに、それが答えられないということですね。私たちインナーアクティベーション・チームでもi-Visioneeringといって企業が目指す法学を言語化するお手伝いをしています。社員が自ら動く会社にするためには、まず明確にビジョンを示すことが重要だと考えているんです。

野水:しかしどうしても不景気だったり、社長交代でサラリーマン経営者になったりで、会社が理想を失ってしまうことはありますよね。会社に理想があって、その会社のために心血を注げる場合は、自分の理想はなくてもいいのかもしれませんが、それがない場合は、社員自身が理想を持たなければなりません。

自分の理想を持って、自分のチームを持った人達が、それぞれにつながって有機的に動いていくのが世の中だと思っています。だからまず理想を持つことは大前提で、次に自分の理想を他人に理解してもらう努力をすることが大事です。その努力をしなければ、理想は実現しないし、開花もしません。自分の理想に共感してくれて、「お前の理想に5%乗ってやるよ」という人たちを増やし、その5%や10%が集まって自分のチームができていくイメージです。

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なぜ理想を持たなければならないかというと、やっぱり寝食を忘れるぐらい夢中になって仕事をしているときが一番成長しますし、しんどい気持ちでやるより、ワクワクした気持ちでやるほうが絶対に成果が出ると思うんです。社員たちをその状態に持っていくために会社はそういう環境を作ってあげないといけないし、社員自身もどうすればワクワクしながら仕事ができるのか考えなければならないと思います。

江畑:仕事に幸せを感じると生産性が3割上がったり、イノベーションの創出も3倍になるという調査結果が出ています。では、そういう理想を持って前向きな働き方をする社員を増やすために、何が必要だとお考えですか。

野水二人三脚のように会社と社員を縛っていた紐を、ほどいてあげる必要があると思います。縛っておいてほしい人はそのままでいいと思いますが、縛ってほしくない人はほどいてあげる。例えば、通勤場所や働く時間、社内文化などなど。自分自身でも紐をほどく努力をしなければなりません。

会社と社員の新しい繋がり方とは?

江畑:お話を聞いていて、会社と社員の二人三脚の仕方は変わらなければいけない時期になっていると改めて感じました。

今までは「労働を提供して、給与や福利厚生といった対価をもらう」という単純な交換を行う約束関係が企業と社員の間にはあったのだとおもいます。しかし、先の話に出たように、待遇を改善したからといって、働きがいが上がるとは限りません。会社と社員、それぞれが理想を持っていて、その理想が5%でも10%でも重なるから、一緒にやる。重ならなくなったら離れて、また新しい人が仲間になっていく。そういう関係性が必要な時期になっているのだと思います。

インナーアクティベーション・チームでは、企業のビジョンと個人のビジョンを重ね合わせる補助線として、「セクション・ビジョン」をつくるサポートもしています。自分と企業は距離がありすぎて重ね合わせられないという人も、自分の所属する部署のビジョンとなら実感を持って重ね合わせられる仕組みです。

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企業側は社員を縛る相手と捉えずに、いかに自由度を与え、やりがいを増やし、その結果として生産性を上げていくかを考える必要があります。この関係性を見直すきっかけが、コロナ禍から生まれていくとしたら、とてもいい流れだと思うんです。

野水:離婚に似ていますよね。離婚率が上がることを、年配の方は問題視していますが、経済的に自立している女性が増えましたし、自分の理想を持った人たちが離婚するのは、別に構わないのではないかと。間違えたらまた再出発できるようになったのは、お互いに自立したからですよね。会社も同じなのではないかと思います。

江畑:添い遂げる以外に選択肢がないことのほうが不健康な状態ですよね。

野水:ただ、夫婦別姓など、そこに対応する社会制度ができていない状態なので、ここも会社と一緒ですよね。つまり、会社と個人の理想が重なったらつながったり、重ならなくなったら離れたりと、自由に動きたい人が出てきたのに、会社の中の制度が追いついていない状況です。

江畑:理想について一つ思ったのですが、僕は野水さんが以前「みんなが成長したいと思っているわけではない」と言っていたのが印象に残っていて、「何かを成し遂げたい、成長したい」ということに限らず、もっと理想にも多様性があってもいいのかな、と。

野水:「成し遂げたい何かを持たないといけない」という固定観念は僕の中にもある気がしますが、古い世代の考えかもしれません。若い人たちを見ていると、「どういう状態で暮らすと自分が気持ちいいか」を優先させている人のほうが多いです。例えば「1日2時間勤務で、あとは畑仕事をしたい」というのも一つの理想だし、そういう多様性がある中で、自分がどう働くと気持ちいいのか、言ってもらうことが大事だと思っています。

江畑:理想の形はいろいろあるけど、お互いに擦り合わせることが重要で、重なるところや共感するところがあるから、一緒にいられる。野水さんのお話をお伺いして、インナーアクティベーション・チームでも、会社と社員の新たな関係の結び方や、それを会社の成長につなげていく方法を考えていきたいと思いました。本日はありがとうございました。

電通ビジネスデザインスクエアのインナーアクティベーションについてのお問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。
●お問い合わせメールアドレス: inneractivation@dentsu-bds.co.jp
●電通ビジネスデザインスクエア: https://dentsu-bds.com/
<この記事を書いた人>
江畑潤
株式会社電通 | 電通ビジネスデザインスクエア

インナーアクティベーション・スペシャリスト/コピーライター
「ひとの全能力発揮」を個人テーマに活動。「クリエイティビティで組織を内側から動かす」ことを目指す『インナーアクティベーション』のチームリーダーを務める。肩書きを転々としてきた経験をいかして、自分なりの仕事のつくり方を探求中。


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