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〈連載#5 最終回〉私たちインナーアクティベーション・チームがつくりたい未来

『境界線が溶けゆく時代のインナーアクティベーション』
note連載 第5弾 最終回

コロナウイルス禍は、社会のあらゆるものがつながっていることを、私たちに再認識させました。職場と家庭。対面とオンライン。企業と社会。これまで当たり前に存在していた「境界線」が溶けてゆく。その流れは、ますます加速していくのだと思います。

そんな時代に、組織をどう活性化させるか。働き方を、どうデザインしていくのか。
「企業を内側(インナー)から動かし、事業や経営を良い方向へ変化させること」をミッションとして活動してきた電通ビジネスデザインスクエア(以下BDS)のインナーアクティベーション・チームでは、これまで4回にわたり識者と対話を重ねてきました。

今回は、インナーアクティベーション・チームのメンバーが、国見昭仁(電通ビジネスデザインスクエア エクゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター※2020年9月現在)と共に、これまでの対談を振り返る特別編。「あたらしい時代に求められるインナーアクティベーション」を考えていきます。

【今回の登壇者】
電通ビジネスデザインスクエア 
インナーアクティベーション・チーム:
高橋舞・高橋慶生・小柴尊昭・江畑潤
電通 エクゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 国見昭仁


コロナがもたらしたのは、変化というよりタイムスリップ?

江畑:コロナ禍により「あらゆるものの境界線が溶けていく」というテーマで、4回の対談を実施してきました。国見さんもコロナ禍の状況でいろいろなことを考えておられると思いますが、対談を読んでどんなことを感じましたか。

国見:「境界線が溶けていく」という対談全体のテーマに関しては、「すごくよくわかるな」と。

高橋慶生:テーマとタイトルは、第一回の小国さんとの対談で出てきた、「二項対立だったものがグラデーションになってきている」という話や、第二回で川口さんから話してもらった「社内と社外の境界線がなくなってきている」といったエピソードからヒントを得て考えました。

〈連載#1〉コロナ禍の「ワークライフ・カオス」から生まれるものとは?(ゲスト:ネクストリード株式会社 代表取締役 小国幸司)

〈連載#2〉新しい可能性は、新しい関係性から。(ゲスト:株式会社ミーミル 代表取締役社長 川口荘史)


江畑:境界線がなくなるということは、変化のスピードが上がったことを意味するのかもしれませんね。

国見変化には2種類あって、例えば、これからはデジタル推進していこう、といった「方向性の変化」と、もう一つは「スマホの普及が思ったより速かった」というような、「スピードが速まっただけの変化」

コロナ禍は後者で、変化というより、タイムスリップに近いのかもしれない。世の中的にもともと行こうとしていた方向に行っているから、完全に元に戻るということはないはず。

江畑:小国さんも「元に戻るのではなく、先に進むのである」とおっしゃっていましたね。

国見:小国さんの回では、ワークとライフの境界線が溶けていく「ワークライフ・カオス」という話も印象的でした。炊飯器のスイッチを押して、1秒後には仕事に戻るという。でもそれって実はすごく普通の話かもしれない。

今までも会社に行ってお昼に皆でわいわいランチしたり、仕事の合間にどうでもいい会話をしたりしていたその時間は、ワークなのか。家でシャワーを浴びているときにアイデアが浮かぶこともあるし、それってライフなの?という。自分自身は24時間全部が、自由と責任のバランスだと思っています。

高橋舞:BDSでは以前から、自由に過ごしつつも、仕事の責任はしっかり果たすというスタイルで、ワークとライフが混ざっていましたよね。ただ、会社と家とで、物理的に分かれすぎていたと思うんです。それがなくなって、私自身はすごく楽になりました。


人と人をつなぐ「かすがい」がますます重要に

江畑:先ほども話に出た「二項対立だったものがグラデーションになっている」という話は、改めて意識してみると、身の回りのいろいろな場所で起きていると感じます。

国見:二項対立は、結局人がつくり出しているものですよね。100%良いものや100%悪いものはほんの一部で、矛盾をはらんでいるものがほとんど。善悪両方受け入れるのがダイバーシティの基本だから、こういう二項対立は溶けていったほうがいいと思います。ただし、リアルな場でそれがどう成立するのか、という問題はあるので、働き方に多様性が出てくる中では、一緒に働く人同士をつなぐ「かすがい」が必要になってくるはずです。

先日、宇宙飛行士の山崎直子さんとお話したときに、宇宙ステーションに世界各国から人が集まる中で、どう仕事をしていくか、という話があって。聞いてみると、やっぱりそれぞれ意見も全然違って、完全に呉越同舟なんだそう。でも、意見は違うけど自分たちは仲間であるという意識が根底にあるからやっていけるということです。例えば幼少時代からの価値観や、同じ目標を持って訓練を積んでNASAに認められたといったことが、彼らの「かすがい」になっている。では、会社は何をかすがいにするのか?というと、田中さんのお話にもありましたが、やはり「ビジョン」しかないと思います

江畑:第三回の田中さんとの対談では、企業のDNAに裏付けられたビジョンを、社内全体で共有することの大切さをお話しいただきました

〈連載#3〉 未来は、企業のDNAの中にある。
(ゲスト:株式会社グリッド
代表取締役社長/株式会社吉野家ホールディングスCMO田中安人)


国見:その会社のDNAで繋がったら、社員はちゃんと動いてくれる、とありましたが、数ある業界、会社の中から自分で選んで入った会社であれば、紐解いていった先に共鳴できる部分があるはず。DNAから導かれたビジョンが「かすがい」になるだろうと思います。

そして、コロナ禍で会社や家族、自然との距離感が変わっている。だから距離を埋めるために、エンゲージメントを高める方法を考える必要が出てきました。会社と社員、社員同士、それ以外にお客様との関係も、エンゲージメントがないと離れていくし、あればこういうときでも繋がっていられるはずです。

小柴:家族との時間は増えたけど、その時間の捻出元は、会社の時間ですよね。会社のみんなとランチする時間、飲みに行く時間が減って、組織の時間が減った中でエンゲージメントをどう高めるかを考える必要はあると思います。

国見:川口さんとの対談で、「会社と個人がアライアンスを組んだほうがいい」という話もありましたよね。関係性がアライアンス的なものになっているならば、ずっとそこにいることも素晴らしいことだと思うけど、会社と社員の間のアライアンスとは何なのか?お互いの信頼関係はどうすれば築くことができるのかを考えるのが、ますます重要になっていますね。

高橋慶生:会社は「こう思っている」と社員に伝えることはするけれど「あなたはどう思う?」と社員に聞くことは少ない。企業側が働いている人の意見を吸い上げるのは、会社が大きくなるほど難しいですよね。でもそこを越えていくことが、アライアンス関係のポイントになるのではないかと思います。

江畑:第四回の野水さんとの対談で、サイボウズは東日本大震災の前からフルリモートの体制が整っていたという話を聞きました。サイボウズの働き方改革は、競合他社に引き抜かれていく人たちをつなぎとめるための生存戦略として取り組み始めたそうです。有事に慌てて何かをするのではなく、平時から先を見据えて改革を進めることが大事ですよね。

〈連載#4〉いまこそ見つめ直したい、チームワークのこと。
(サイボウズ株式会社 社長室フェロー 野水克也)

国見:野水さんの対談を読んで、経営戦略として、目的をしっかり持って働き方改革をすることが重要なんだと再認識しました。働き方改革自体が目的になってしまうと、何のためにするのかがぼやけてしまう。目的が明確だから推進されるし、効果が計れるんだなと。

江畑:今回の対談を通して、今後の経営戦略において大事にするべきものの輪郭が明らかになってきたように感じます。その中で私たちに何ができるかに向き合っていきたいですね。

会社と働く人は、どんな関係性が理想なのか?


江畑:これまでの対談を通じて、チームのメンバーが議論したことを一枚の絵にまとめました。会社と社員の間でアライアンスを組むという話がありましたが、これから必要になってくるであろう理想の関係性を、絵にしています。

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大事なのは「ビジョンマッチング」。会社と社員、それぞれが持っているビジョンが一致していることが一番。単純にお金の問題だけでなく、もっと腹の底で繋がる必要がある。そのためには、社員のほうも、自分の理想って何だろう?自分は何がしたいのか?を、考える必要があります。

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、社員側は内省する時間が増えて、自分のビジョンに向き合う機会が増えています。会社と社員それぞれが、お互いのビジョンに磨きをかけたり、もう一度照らし合わせる機会を持って、ここから新しい関係をつくっていくことが必要なのではないかと議論していました。

国見:よくわかるし、方針としてもいいと思いました。あとは、企業によっては、「あぁビジョンね」という受け止め方をされることもあると思うので、そのときのことも考えておきたいですね。

江畑:そうですね。今、ビジョン、パーパス、ミッションや、ビジョナリーカンパニー、ビジョンドリブン経営などなど、いろいろな言葉があふれています。その中で、BDSのインナーアクティベーション・チームが考えるビジョンとは何か、ということですよね。

高橋舞:ビジョンとかパーパスって流行りみたいになっていくのは嫌ですね。前に組織論の先生に聞いたのですが、マネジメントファッション理論というのがあるらしいです。マネジメントにもファッションのように流行り廃りがあるっていう。タイムスリップのようなことが平気で起こる世の中で、ファッションを追い求めてもしょうがなくて、一番大事なのはビジョンだと思ったら、そこをどう進化させるかだと思いました。

国見:インナーアクティベーション・チームのVisioneeringの定義をもっと進化させるべきタイミングかもしれませんね。「Vision」と「Engineering」を掛け合わせた造語で、「設計図」をつくっていくのがVisioneering。その設計図の中にエンゲージメントの概念がもっと入ってくるでしょう。ビジョン自体は古びないものですが、ビジョンの定義はもっと精緻化、アップデートする余地があると思っています。


高橋慶生:さっき国見さんがおっしゃっていた「あぁビジョンね」という空気。こういうモードのクライアントに対してなぜビジョンが大事なのか、どういう効果があるのかをきちんと語れるチームでありたいですね。

企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)や、中期経営計画などに書かれる“私たちが目指す未来”など、ほとんどの企業がビジョンにあたる言葉を持っているとも言えます。しかし、そのビジョンが機能しているか?という視点が重要だと思います。

国見:ビジョンとはどんなものであり、どういう効果を目指してやるものなのか、実はわかっていない人が多いのかもしれないということですね。

江畑:実際、インナーアクティベーション・チームにも、「ビジョンをどう伝えたらいいかわからない」「何年たってもビジョンが浸透しない」など、ビジョンにまつわる課題や悩みが多く寄せられてきました。そうした声に応えるためにBDSでは「“機能するビジョン”を持てているか?」を診断する『VISIONEERING Assessment』というプログラムを開発しました。

ビジョンが、単に耳あたりのいい言葉であったり、額縁に入れられ飾られるだけのものでは機能するとは言えません。進むべき方角を指し示し、戦略や戦術、組織やマーケティングに至るまで、あらゆる活動と挑戦に一貫性が生まれる、その起点となるものであるべきだと考えています。

ニューリリース『”機能する企業ビジョン"の実装に向け、企業活動・組織のあらゆる課題を可視化する 診断サービス「VISIONEERING Assessment」の提供を開始』

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VISIONEERING Assessmentでは、ビジョンの強度と、戦略・戦術までの一貫性を検証する

高橋舞9マスがそれぞれに独立するのではなく、軸を持って一貫し機能しているという企業はそう多くはないと思います。ビジョンではイノベーションを目指しているのに、評価制度ではチャレンジによる失敗を認めないものになっていたり。VISIONEERING Assessmentでは、定性的・定量的の両視点を持ちながら、企業がお持ちのビジョンを評価していきます。

高橋慶生:さきほど国見さんの言葉にもありましたが、「ビジョンとはどんなものであり、どういう効果を目指してやるものなのか」を私たちなりに定義し、ビジョンを起点にした企業の変革をサポートしていきたいと考えています。実際に、ビジョンを起点に変化を起こしてきた企業を、我々はたくさん目にしていますし。


これからは、働くひとりひとりに、ビジョンが必要な時代

江畑:今までやってきた範囲以外にも、インナーアクティベーション・チームにできることはまだまだあると考えています。これから、社員のVisioneeringも重要になっていく時代に、我々にできることは、もっとあるなと。

個人向けVisioneeringとして1 on 1や研修がどう変わっていくのか。また、会社と社員をつなぐ部分では、以前から実施している「オリジナルカタガキワークショップ」という企画がまさにピッタリですし、ビジョンのマッチングを基準にした採用活動の仕組みづくりなども考えられます。


小柴:高橋慶生さんと二人で、電通の新入社員研修ツール「フューチャーダイアリー」を制作しました。入社初日にポートレートを撮影して、それを1ページ目に入れた手帳を配布。そこから5年後、10年後の自分を見つめ、自分のビジョンに気づくきっかけを提供する2時間のワークショップを実施しました。これも、個人向けVisioneeringとして、さらに展開していくつもりです。

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高橋慶生:クライアントのキーパーソン十数人に自分のビジョンを書いてもらって、それを集めたら、その企業らしさが浮かび上がってくるかもしれません。個人のビジョンを材料にその企業のビジョンを書く、ということも新しいプロセスとして挑戦してみたいですね。

江畑:これまでの対談企画を通じて、インナーアクティベーションをもう一度違う角度から見つめ直すことができたと感じています。クリエイティブとは何か?アクティベーションとは何か?ということも改めて考えました。

国見アクティベーションであるというのは大切にすべきポイントだと思います。それで人は動くのか、企業活動全般に動きが出てくるのか、新しい事業の開発に向けた動きが出るのか、短期的な動きと長期的な動きはどうなのか…。会社と社員や社員同士、お客様との距離感が変わった今の時代で、「動かす」という目的をぶれさせないことが、より大切になってきますね。

江畑:コンサルティングともインナーコミュニケーションとも違う、インナーアクティベーションはこうあるべきという輪郭がはっきりした気がします。本日はありがとうございました。

※この記事は2020年7月3日に実施された座談会を編集したものです。

電通ビジネスデザインスクエアのインナーアクティベーションについてのお問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。
●お問い合わせメールアドレス: inneractivation@dentsu-bds.co.jp
●電通ビジネスデザインスクエア: https://dentsu-bds.com/
<この記事を書いた人>
江畑潤
株式会社電通 | 電通ビジネスデザインスクエア
インナーアクティベーション・スペシャリスト/コピーライター
「ひとの全能力発揮」を個人テーマに活動。「クリエイティビティで組織を内側から動かす」ことを目指す『インナーアクティベーション』のチームリーダーを務める。肩書きを転々としてきた経験をいかして、自分なりの仕事のつくり方を探求中。


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