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デジタルマーケティング予算 年間300万円前後のローカル企業での施策の優先順位 【後編】

今回も引き続き、予算の少ない中で地方の中小企業さんがデジタルマーケティングをやっていく際の勝ち筋を探っていきます。

前編では、お客さんとの接点を作りながらインパクトの最も大きいところに集中投資すること、予算の少なさをまず解消すること、そもそもデジタルマーケティングをやる必要があるのかどうかは最初に腹割って話し合うべき、ということを書きました。

なぜ書くのかというと、社会的価値の揺り戻しが必要なのではないかと思っているからです。2年間体を張ってきたのですが、このnoteが今後、地方の企業に関わる誰かのアシストになれば幸いです。


社内に必要なカタリスト(媒介者)

前編でも書きましたが、予算があまりにも少ない状況では、予算が少ないことがいつまでもネック。状況を好転させられる人材が必要です。

とはいえ、採用活動をしようにもオウンドメディアなど求職者にリーチする手段を持っていなかったり、求人メディアに投資してリーチしたとしても、そこにかけられる予算がそもそもなかったりするかもしれません。リーチするだけでなく企業文化にあった人材でかつ、入社後活躍できる人材を採用できるか、採用したあと活躍できる土壌を提供することができるか、など難しい状況があるかもしれません。

だからこそ、外部人材をうまく活用することが解決の糸口になるのではないかと思っています。いまや副業マッチングプラットフォームなど様々なものが出てきています。

外部人材の活用である程度カバーできる部分もあれば、とはいえ、会社として譲れないものや特有の文化など、特に論理ではなく感情的な部分のキャッチアップは、社内から情報の媒介をしてくれる方がいなければかなり労力を要するところもあります。

実体験でいうと、(これは反省点でもあるのですが)案件が始まる最初の打ち合わせの段階で大枠の部分は確認しても、戦術的な部分を進めていくにつれて「こういう訴求はNG」「この人は立てないといけない」「地元の人からこういう風に言われている」など、細かい部分でのこだわりが新たに見つかることもあり、その都度確認、修正をしていました。その際、窓口となるような方が形式上いたとしても、普段の仕事で手一杯だったり、やらされ仕事のような状況になってしまっていると、どうしてもコミュニケーションコストがかかってしまいます。

社内の方が新たな施策を進めて行くことに関しては、MKタクシーさんが一つの素晴らしい事例ではないでしょうか。

アカウント運用体制の見直し後にフォロワーが急増!担当者の個性を生かしたツイートで話題を集めるタクシー会社のTwitter活用術

担当者さんが社内で裁量権を持っていること、大事にされてること、ドライバーさんとのコミュニケーションを密に行っていること、楽しんで発信をしていること、などが伝わってきます。

過去に企業アカウントの「中の人」として直接コミュニケーションをとっていた時がありますが、お客さんの反応を直接感じ取れたり関係性が築かれていく感覚はやりがいがありました。商品に関してDMで感想やご意見をいただけることもあり、施策にダイレクトに反映できる貴重な声として大切にしていました。

社内の人が自らの声で運用していくことが理想だとは感じていましたが、最低限、媒介者となる方が社内にいるだけでも効果的だと思います。そこから次第に社外にある知見も活用して実行していくようになっていけば、コミュニケーションも施策の実行も円滑になるのではないかと思っています。「どのような環境を用意すれば良いのか?」に関しては、組織の形は企業によって違うので企業ごとに正解があるのだと思いますが、


✔︎ タスクではなく課題にメンバーを割り当てる
✔︎ 心理的安全性を確保する
✔︎ 主体的に動ける余白(時間的余裕)を用意する


などは共通して必要になってくるのではないでしょうか。


そこに事業戦略はあるか?

基本的にマーケティング活動は「顧客数」「平均客単価」「平均購入回数」の3つのどれかを改善していくことに収斂されていくとは思います。加えて、より上のレイヤーの視点でのディスカッションは不可欠に思います。中長期的に事業をどのように成長させていくかを産業構造の変化など外部環境の変化も鑑みながら判断したり、戦術を実行するのに必要な組織体制は何か、それは自社で現状できるのか/できないのか、できるようにするのか/他に任せるのか、など。

例えば「新しい販売チャネルを増やしたい」という一点から始まることがあれば、「なぜ販売チャネルを増やす必要性を感じたのか?」「売上が上がるまでのどのようなロジックを描いているのか?」「前提となっている外部環境の変化は本当に起こるのか?」「何年で理想の状態に到達してそれまでにどれだけの投資が必要でどれだけのリターンがどんな期間で回収できそうなのか?」「どこまでを自社がやり、どこまでを外注するのか?」「市場の選択は正しいのか?」といったように、単に「販売チャネルを増やすにはどうすればいいか?」以外にも視点を広げなければ、実現されなかったり、急な方向転換により白紙に戻る、といったことが起こってしまうかもしれません。

体験価値を向上させていく

直近のPLだけで見れば、広告を打って売上をあげて、、という数字は非常にわかりやすく、説明しやすいかもしれません。もちろん広告運用も有効な策の一つではあるとは思います。ですが、あくまでも中長期的に達成したいKPIがあった上で今必要なことをやらなければ、会社の未来に必要なことができなくなってしまうかもしれません。

例えば銀行出身の管理部長の方がいて、その方に説明することが目的化してしまったり、こうしていきたいというビジョンがあったとしても社内での合意形成ができず、目の前のことに対処していくのにいっぱいいっぱい、といった状況が考えられます。

とはいえ会社の未来を考えたときに、特にコモディティ化しているような市場であれば、ただでさえ国内人口は減少し続け、可処分所得も減り続けるのがほぼ確実に見えている状況です。全体的にジリ貧な状況で「持続的に経営するための成長の方向性をどこに定めるのか?」は考えどころではないかと思います。

まず、小売という大きな市場で根付いているプラットフォームとの関係性は考えなくてはならない要素だと思います。

プラットフォーム依存.001

プラットフォーマーとしては、そのシステム上で全ての経済活動が行われることで利益を得ます。プラットフォームに完全に依存している状況では、どんなお客さんがどこからきて購買しているのかの情報や信用を担保するレビューがプラットフォームに集約されます。そのデータを活用して広告運用に活かすのであれば、その広告費はまたプラットフォームに投資することになります。また、ルールの変更などがあればその都度合わせていかなければなりません。

とはいえ、検索エンジンからお客さんを集めるのは一定の投資が必要になります。お店に限らずあらゆる情報が集まっている中で「キーワード」をもとに集客しなければなりません。また、決済など細かい部分を自社でやらなくても良いといったプラットフォームの恩恵もあるため、少なくとも自社で購買までのフローが作れていない段階ではうまくつきあっていくというスタンスで良いのではないかと思います。

プラットフォームとの関係性も踏まえた上で、中長期の成長を考えるとすれば、「体験価値を高められるような循環を作っていく」というのが一つの方向性なのではないでしょうか。


例えば、

商品の価格を因数分解.001

このように商品の単価の中身を「知ってもらう」に使われるコスト、「届ける」に使われるコスト、「つくる」に使われるコスト、と、ものすごく単純化して分解してみます。

商品の一つ一つがどのように購買されているか、というところを起点に絵にしてみると、プラットフォーム内での広告運用のみで売上を上げることは

プラットフォーム内で閉じた小売.001

このように、特定のカテゴリーの商品を「安く買いたい」という欲求に対して、商品を提供する状況になりがちではないでしょうか。お客さんはたくさん集まっているものの、制約があり差別化がしづらいプラットフォーム内だからこそ価格の安さでの戦いになってしまい、供給側としては厳しいところがあります。プラットフォーム側の意向に変化があれば常に合わせていかなくてはなりません。

一方で、

体験価値と信用が循環する小売.001.001

お客さんが商品を使った結果「とても良かった」という声がオープンに広がっていれば、それを見たまた別の人が「あの人がオススメしてるのなら」ということで広告宣伝費をかけずとも、商品とお客さんとの出会いが生まれやすくなります。また、より低く抑えられた宣伝広告費分を、お客さんの「体験」づくりに投資して、「より良い体験の提供」「お客さんの期待値を超える」といったことに繋がれば、「安いから買いたい」ではなく「好きだから買いたい」と、商品のファンになってもらう可能性が広がります。

お客さんの「とても良かった」という声を「信用」を担保するものとして自社サイトに集めたり、SNSアカウント上に集めたり、新しい商品をつくりそこにブランド価値を反映させたり、ブランド価値を活かして他のメーカーと協業したり、、といった選択肢も広がるはずです。そのためにも、顧客体験の向上に必要な情報やインサイトを自社で自ら掴みにいくことが必要なのではないかと思います。

「誰が」オススメしているかというところで「アンバサダー」や「インフルエンサー」を活用するのも一つの方法で、そこを担っている会社さんとうまく協働するのもありかもしれません。

いずれにしても、「体験価値の創出」と「信用」がオープンに循環することで、「売上」や「利益率」へも反映され、コントローラブルな価格設定やパートナーとの共創など、新しい打ち手の幅が広がるのではないでしょうか。


Win-Loseな資本主義社会と地球

「材料」と「人の労働力」が元となって「商品」が生み出され、それを買う人との交換が起こることで、売る側はお金が増え、買う側はなんらかのベネフィットを享受します。

"人と人"、"人と会社" の関係性を見る限りWin-Winのように思えますが、商品を作るのに必要な「材料」は地球から調達していますし、商品を作る「人の労働力」も生きていくのに必要な水や食料があるからこそです。(そう考えると食の生産に携わる方々には本当に支えられてるなと思います。)

フードロスの問題などもありますが、地球から材料を調達して加工して、電気やガスを使って流通させて、でも消費されずに捨てられていく……というのは、"人と地球" の関係性で見るととてもWin-Loseな関係に思えてしまいます。

モノを世界に増やして物質的な豊かさを求める成長がある一方で、体験を増やして精神的な豊かさを求める成長もあると思いますし、それは地球とWin-Winな持続的な関係を築きやすいはずです。むしろそういったブランドを社会として応援していくことが、つくる側も買う側も幸せになっていくのではないでしょうか。

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