暁の手記 その29

他人が楽しそうに楽器を吹いているところを見るとなんだが心が苦しくなる。
私もあんな風に部活を頑張ってみたかった。
今更すぎる後悔と共に関連する物を全て視界から消した。
私は先日、トランペットを購入した。元手はすぐにやらなくなったサックスを売って元手にしたのだが、まぁ綺麗で可愛いこと。
元々はホルン吹きの私だが、やっぱり木管は肌に合わないんだなということがよく分かった。
高校の時は好きだった「響けユーフォニアム」も今では地雷原と化してしまった。
上手くなりたい、と願って練習を続ける主人公たちの姿が私には眩しかった。こなすことで手一杯で上手くなりたいと思えなかったから。
ADHDのせいで集中力がすぐ切れることもあって私はそもそも基礎練が苦手だった。
先輩と先生のパワハラ、同期の軽いいじめも相まって精神を病んだ結果、私はしばらく楽器を離れる決意を、演奏家から離れることを決意した。
そして高校を卒業してから3年。色んな道を辿って、私はまたホルンと新しくトランペットに出会った。
私のホルンには名前がある。彼の名は「ビクター」と言い、名前の由来は「のべつまくなし」という人間と妖怪の出てくる舞台に出てくるキャラクターの名前を拝借したものだ。ビクターはダブルホルン(F管とB♭管の切り替えが出来る最新式のホルン)という分類にあたる。親指のレバーで切り替えを行うのだ。
彼は実は中古で買ったもので20万弱で買ったものだ。新大久保で購入したのだが、手入れを怠りがちな私でも彼は未だにいい音を出してくれる。
ビクターにはもう一つ由来がある。それは長生きしているというところも含めているのだ。
「のべつまくなし」に出てくるビクターは人に造られたフランケンシュタイン。長い期間、人間に虐待されて生きてきた彼は人間を好意的には思っていなかった。
後に相棒になるキャラクターと意気投合し、彼は生き甲斐を手にいれる。私はビクターへの思い入れが強かったのでこの名前にしたのだ。
名前をつけたのは高校の時に先輩に楽器に愛着を持てるように考えてこいと言われたので真面目に考えてきて堂々と「ビクターと言います!」と言ったのだが、周りからは変な名前と言われてしまった。でも、私はこの名前を愛している。
新しく買ったトランペットには「エース」と名前をつけることにした。名前の由来は仮面ライダーギーツに出てくる主人公「浮世英寿」から来ている。
トランペットはいわゆる花形楽器なので付けてみた。これからもっと可愛がりたいと思う。
やっぱり、音楽は楽しい。今は昔と違って上手くなりたいと思うことが出来ている。
もう一度最初からやり直そう。大丈夫。きっと出来る。

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