遠い旅路

「やっぱり、そっちは遠いわよね…」
電話口で義母がそう言った。

飛行機で飛んでいけば、たかだか小一時間程度の距離も
随分と遠くなってしまった。
今年は結局、一度も旅に出ていない。

暮れのご挨拶のお歳暮を受け取った義母からのお礼の電話は
いつもよりも少し語りが長くなっていた。

本当であれば直接会って
あまり多くは語らずとも、側に居るだけで
互いに不思議と安心し合える。
今は、それができない。

「散歩に出て歩いたりはしているのだけれどね…」
「今年になって、一度も電車に乗っていないのよ」
「すぐ隣が東京だと、なかなか出かけられなくてね…」
すぐ隣が東京でなくても、なかなか出かけられない自分もつらい。
そう。みんな、つらい。

「来年にはまた会えるといいわね」
「お互いに、元気でいましょうね」

それにしても随分と遠い旅路だ。
今はとにかく、無事に生きること。
健康であり続けること。

会いたい人に、大切な人たちに会うために。