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超能力者は黙さない。

特殊な能力を持つ少年少女たちのショートショートです。

1 無機物と話せる少年。


「やあ、こんにちは。」僕がそう声をかけると彼は「こんにちは、今日も学校かい?気をつけてね。」と返してくれる。相変わらず見かけによらず爽やかな透き通る声だ。彼の声を聞くまでもっと低くて物々しい喋り方をするものだと思っていた。
なにせ彼は「石」なのだ。ゴツゴツしていて触ると少しひんやりしている。僕の頭ほどもある彼を一度持ち上げようとしたことがあるが、ほんの髪の毛一本分も上がることはなかった。
僕のお喋り相手は彼だけではない。家にいる時は鉛筆や消しゴム、定規やカラフルなペンたち、そう、僕の筆箱の中でいつも賑やかに話している彼らの話に耳を傾けることが多い。
でも彼らは普段狭い筆箱の中にいるからいつも同じような話ばかりしているんだ。
話が面白いのは何といっても父の書斎にたくさん並んでいる本たちだ。彼らはたくさんのことを知ってる。僕の知らない世界の事を。
そう、僕は「モノ」とお話しをする事ができる。といっても全てのモノの声が聞こえる訳じゃない。それが何なのか「知る」ことが条件みたいだ。何と呼ばれているモノなのか、どんな特徴があるのか、どんな種類のものがあるのか、そういった事を「知る」とそのモノの声が聞こえるようになるんだ。
僕は生まれつき耳が聞こえない。そのせいでろくに言葉も喋れない。それが理由なのかどうかはわからないけれど、僕は「モノ」の声だけは聞こえる。「モノ」とだけはお話しができる。父の書斎にずっと住んでるお爺ちゃんみたいな本が教えてくれた、これは「ギフト」っていうんだって。僕にだけ与えられたプレゼントなんだって。
プレゼントと言えば今日は僕の誕生日だ。去年はとっても分厚い図鑑をもらったんだ。この世界にある色んな「モノ」について教えてくれるから、僕は新しいモノに出会う度に図鑑を開いてそのモノと友達になるんだ。それが何なのか知らないと僕は声を聞けないからね。
今朝、父と母は僕に綺麗に包装された大きな包みをくれた。父はこれは「ロボット」だと教えてくれた。早速図鑑で調べてみた。ロボットというのは生き物に似たキカイのことで、自由に動いたりするみたいだ。すごい、お話しするだけじゃなくて一緒に遊んだりもできるのかな。父と母にお礼を言わなくちゃ、僕は階段を降りて父と母のいる一階に向かった。階段を降りながら2人の話す声が聞こえた。

「プレゼント、喜んでくれて良かったわね。」
「ああ、奮発した甲斐があった。壊さないよう大切に使うように後で言っておかなくちゃな。」

ありがとう二人とも。壊さないように大切に使うよ。あれ?でも何で急に2人の声が聞こえるようになったんだろう?

2 時を止める少年


ぼくはスーパーマンだ。スーパーマンといってもマントで空を飛んだり、ピストルの弾をはねかえしたりするんじゃあない。
ぼくは時間をとめることができるんだ。
そう、あのアニメヒーロー「クロックマン」と同じことがぼくにもできるんだ。
ぼくはずっと「クロックマン」にあこがれていた。彼が持つ魔法の時計は生き物たちの時間を止めることができる。そして彼はこの時計の力を使って人助けをしたり、悪者をこらしめたりするんだ。
ぼくもあの時計が欲しいと思った。だからパパに頼んだんだ。パパに頼めば何でも買ってくれるからね。
最初はパパも困ってたみたいだけど、さすがはぼくのパパ、こないだついにこの魔法の時計を見つけて買ってきてくれたんだ。
ぼくはさっそく、この時計を付けてまちへ出かけたんだ。でもしばらく歩いて気づいたんだ。まちはあんがい平和なんだな、って。誰も悪者におそわれてないし、ギンコーゴートーだっていない。コーツージコも目の前で起きないんだ。つまらないや。
わるものを探して歩くのも疲れてきた。だれでもいいからわるいことをしてくれないかなあ。
ずいぶん歩いたからお腹も空いてきた。そんな時にホットドッグのいいにおいがしてきたから、ぼくはつい、時を止めてホットドッグをいただいてしまおうと考えたんだ。ぼくはクロックマンがするように時計を付けた腕をまっすぐ空に向かって伸ばし、魔法の言葉を大きな声で叫んだ。

「アブラカタブラ!」

本当に時間が止まったんだ。風は吹いてるし、鳥も飛んでるけどたくさんの人が歩いて、話していたのがぴたり、と止まった。誰も動かない。あんなにさわがしかったのに誰も何の声も出さないんだ。すごい、すごいぞ。この時計は本物だ!ぼくは時を止められるんだ!ぼくはホットドッグを一つ盗むと走って逃げ出した。
それからぼくはやりたいことはなんだってした。欲しいものがあればパパに頼まなくても手に入れられたし、授業中に時間を止めて先生のズボンにおしっこをひっかけてやったりもした。きらいなやつの頭の上にイモムシを乗せてやったこともあった。時間が動き出した時のやつらのあわてっぷりは見てておもしろかった。
だが何度かおや、と思うことがあった。時間を止めているはずなのにぼくがいたずらすると表情を変えたり、小さく声を出すことがあるような気がするのだ。(ぼくの気のせいなのかもしれないけれど)そして不思議なことにそうやって動いたような気がした人たちはそれ以来、学校に来なくなったり見かけなくなったりするんだ。

ー数ヶ月後ー

こないだから時計が壊れてしまってるみたいだ。何回やっても時間を止められない。早くパパに頼んで修理してもらわなきゃ。でも最近パパは「カクメイ」っていうのが起きたせいでしばらく帰ってこれないってママが言ってた。お引越しもしなきゃいけないんだって。そういえばぼくの時計が壊れたのも「カクメイ」っていうのが起きてからだ。「カクメイ」が起きてからツイてないことばかりだ。

3 絶対服従

両手の指と指の先をくっつける。右手の人差し指と左手の人差し指、右手の中指と左手の中指、右手の薬指と左手の薬指、というように。そして両掌でボールを包むような形にする。そこからまずは他の指はくっつけたままで小指だけ離し、指同士がぶつからないように10回回転させる。なるべく速く。それができたら再び小指の先同士はくっ付けて、今度は薬指を離して同じように指同士がぶつからないように10回回転させる。これを小指、薬指、中指、人差し指、そして親指の順で行う。
頭の体操というやつだ。指先の細かいちょいと複雑な運動は脳を活性化させるらしい。
もちろん俺がこの動きをやってるのはそんな脳トレのためなんかじゃあない。この俺のある「能力」を発動する為にこの動きをする必要があるんだ。その能力とは「絶対服従」というやつだ。
この動きをした後に目の前の人間に命令をすると、それがどんな命令であれ逆らえなくなるのだ。
なぜ絶対服従の能力を発動するのにこんな動きをしなくちゃいけないのかなんて俺に聞かれても困る。忍者だって術を使うのに変な手の動きをするだろう?きっとあれと同じなんだ。

今日はどの女を操り人形にしてやろうか。気の強そうな女がいい。
しばらく通りを眺めていたが中々これだという女は現れない。2、3人好みの女が通りかかったが、ビビッとくるものがない。俺は辛抱強く待った。
ようやくその女は現れた。肩にかかるくらいの長さの金髪をなびかせ、ヒールを鳴らしながら歩くその姿は神々しさすら感じる。少し吊り上がった目も、血のように紅い唇も勝気な内面を表しているようだ。
俺はすぐに女を追いかけた。すぐに能力で服従させたのでは面白くない。抵抗し憎悪の目を向けるその精神を屈服させるから面白いのだ。俺は女に追いつくと女が持っていた小さな手提げ鞄をひったくって地面に思い切り叩きつけた。女は大きく目を見開き一瞬驚いたようだったが、声をあげることもなく、鞄を拾おうとかがみこんだ。
恐怖させ、悲鳴をあげさせようとしてた俺にとって何とも面白くない期待外れの反応だった。いっそいきなり唇を奪ってやろうか、そう思い女の顔を手を伸ばした時だった。

やめた方がいい、と女は小さく呟いた。俺は思わず手を止めた。私はヤクザの女だから、と俺の顔も見ずに女は続けた。怒ってないから帰りな、そう言う女はすでに俺に背を向け歩き出していた。

強気そうな女とは思ってたが期待以上だ。ここまで肝が座ってる女は初めてだ。どうあっても俺の思い通りにしたい、俺の物にしたい。俺は女を振り返らせようとその肩に手を伸ばした。そして肩を掴みかけたその瞬間、逆に俺の肩を背後から誰かが掴んだ。邪魔しやがって、どこの正義ヅラした野郎だと振り返ると、顔に固い握り拳がめり込んでいく感覚があった。俺の意識は真っ暗になった。

鈍痛で目を覚ますと俺はどこかの薄暗い部屋のパイプ椅子に座らされているようだった。鼻血が出ている。どうやら鼻の骨は折れているようだ。歯も何本か折れているかもしれない。
目を上げると体格の良い男がソファに深く腰掛けている。なるほど、カタギの目じゃない。だが何も恐れることはない。俺には無敵の能力がある。こんなやつら俺の『絶対服従』の力でこんな目に合わせたことを後悔させてやる。幸い手を縛られたりはしていないようだ。訓練した俺は20秒あれば例の手の動きを完了させることができる。さあ、今頃後悔しても遅いぞ、まずは小指から…小指…

何か感覚がおかしい。俺は向かいに座る相手に気取られないようそっと自分の手に視線を落とした。

真っ赤に染まる自分の両手に小指が付いていないことに気がつくのと、その断面から稲妻のような激痛が全身を貫いたのはほとんど同時だった。

4 夢見る少女

「ねえねえ、最近さ、私すっごい『能力』手に入れちゃったかも」
声を潜めてそう話しかけてきたのは隣の席の少女だ。うちの学校は学年が変わるたびにクラス替えをしてるが彼女とは一年の時からもう三年連続で同じクラスだ。席が隣同士になったのは今年が初めてで、それがきっかけでよく話すようになった。休日に一緒にカラオケやカフェに行くこともたまにある。

「能力?」

「うん。『超能力』ってやつ」

「夢みたいなこといってないで早く着替えよう、次体育だよ」

「そう、夢なんだよ。よく分かったわね、あんたももしかして超能力者?」

「はあ?意味わかんないんだけど」

「だから、夢を見れるの。もちろん私自身のじゃないわ。他の人の夢」

彼女が言うには、彼女は他人の夢を覗く能力を手に入れたらしい。正確には他人の夢の世界に入れる、というものらしい。

「幽体離脱っていうんだっけ?あんな感じで眠るといつの間にか意識が身体の外に出てて、自由に動けるんだ。自分の寝顔ってあんた見たことある?なんかすっごく間抜けな顔してるのよね」

普段からお喋りな彼女だが今日はよく喋る。

「寝てる人の顔の上に光の玉みたいなのが浮いてるんだ。色は人によって違うみたい。その光の玉に触れると光がぶわーって広がって眩しくて何も見えなくなっちゃうんだ。それで気がつくとその人の夢の世界にいるって訳」

「面白そうな話だけど、私の夢は絶対に覗かないでね。なんかそういうのプライバシーを侵害されてるみたいですっごい嫌」

「んー、たしかにそうかもね、おっけー了解!」

そういうと無邪気に笑ってみせた。

遅刻癖のある彼女の遅刻が減った。理由を尋ねると例の超能力に関係があるらしい。彼女曰く、一度誰かの夢の中に入ると夢を見てる人物が目を覚まさない限り彼女もその夢から抜け出せないらしい。なんて不便なんだと私は思ったが、彼女はそれを利用して他の生徒の夢の中に入って、目覚まし代わりに使ってるらしい。ポジティブな彼女らしいことだ。

数ヶ月して、再び彼女の遅刻癖が顔を覗かせてきていた。どうやら、他人の夢というのは私が思う以上に魅力的らしく、暇さえあればどこかの誰かの夢に冒険に出かけているらしい。実際彼女の語る夢の世界は私の関心も大きく惹きつけるものだった。

また数ヶ月が経った。彼女はこの2日間、学校を休んでいる。遅刻することはあっても学校を休むことはなかっただけに心配になる。明日も休んだら学校の帰りに彼女の家に寄ってみよう、そう考えながら夕食の麻婆茄子を口に運んでいると、残業終わりであろう父が帰ってきた。着替えもせずに食卓に着くと新聞を広げてビール缶を開けた。食事中は新聞はやめて、そう言おうと広げられた新聞に目を向けた時、ある小さな見出しに目が釘付けになった。

ー悲痛な事故から10年、植物状態の被害者未だに意識回復の兆し見えずー

たしか随分前に交通事故で植物状態になった少年が、近くの病院に入院しているという話を聞いたことがあった。彼女は言っていた「夢を見ている人が目覚めないと自分自身がその夢の世界から出ることはできない」と。まさかー

私の背中に冷たい汗が一筋流れた。

5 前世の記憶を持つ少年


「記憶」が2つあることに思い至ったのは実は最近のことだ。小学生の頃、自分を高校生だと思い込んでた時期が確かにある。いや、「思い込み」なんてものじゃない。黄色い帽子とランドセルを背負って小学校に向かったはずが、いつの間にか来た事もない高校の前に立っていたことがあった。夕食の時に学校の調子はどうだと聞かれ、物理の試験の点数があまり良くなかったと真顔で答え両親を困惑させた、小学2年生の時だ。最初は妄想かと自分でさえも思っていた。しかし、妄想にしては訪れたこともない高校までの行き方を知っていたのは妙だ。
俺はそれを「前世の記憶」だと考えるようになった。なぜ「前世」なのか。それは「俺が死んだ記憶」があるからだ。記憶は断片だが肝心な部分は覚えている。俺は、というより前世の俺だが、交通事故で死んでいる。
俺は前世どういう人間だったのか、とても気になった。交通事故で死んだ人間なんてゴマンといる。名前も顔も知らない人間の素性を調べるのは不可能だと思ったが、ふと思い当たることもあった。俺はかつて無意識のうちに前世の俺が通っていた高校まで行ったことがある。しかもその高校は(これは俺が入学した後に気付いた事実だが)今の俺が通ってる高校なのだ。
これは偶然なのか、それとも何かの因果なのかもしれない。
とにかく、前世の俺は今世の俺と物理的な距離で非常に近いところで生きていたはずだ。
俺の記憶では前世の俺は今の俺とそう変わらない歳の頃に亡くなっている。おそらく高校2年生か3年生だろう。
俺の高校で交通事故で亡くなった学生がいるかどうか調べた。

しかしそんな事故の記録はなかった。
おかしい。もしかすると想像よりずっと昔、例えば4〜50年くらい前に亡くなった人なのかも。あるいは前世の俺がたまたま行ったことがあるからあの高校に辿り着いただけで、実は全然違う他校の生徒なのかも。いや、もしかするとやはり俺の妄想の産物なのか。そんな考え事をしながら歩いていると目の前の信号が赤に変わったことにも気付かなかった。

目の前に映ったのは避けようもない勢いで自分に突進してくる鉄の塊。そう、俺が前世の記憶だと思い込んでいたまさにあの場面だった。

ーそうか、あれは今世の「予知」だったのか。

自己解説

1 無機物と話せる少年
その「モノ」について知ることで無機物と話すことができる少年の話。少年の両親もロボットだった。これまでは「ロボット」というものを知らなかったが故に声を聞くことはなかったが、ロボットというものを知ったことにより、ロボットである両親の声が聞こえるようになった。

2 時を止める少年
時間を止めることができる魔法の時計を持つ少年の話。少年の父親は国の独裁者であり、その権力を利用して息子のわがままを実現していた。しかし父は革命に倒れ、同時に周囲は息子のお遊びに付き合って演技する必要もなくなった。

3 絶対服従
特殊な動きをすることで人を絶対服従させる能力を発動できる少年の話。少年はハッタリだと思っていたが女は本当に極道の妻で、少年は指を詰められたせいで二度と能力を使うことはできなかった。

4 夢見る少女
人の夢の世界に入れる少女の話。好奇心を抑えきれない少女は日毎色んな人の夢を渡り歩いていた。少女は病院で眠る植物状態の少年の夢の世界に入り込んでしまった。彼が目を覚ますことはなく、即ち彼女が現実の世界に戻ってくることも永遠にない。

5 前世の記憶を持つ少年
前世の記憶を持つ少年の話。しかし少年が「前世の記憶」と思い込んでいたのは「予知」した映像だった。少年は死の瞬間に初めて自分が今まで前世の記憶だと思っていたものが、昔から見ていた自身の未来であることに気付くのだった。

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