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不貞は誰も幸せにしない、それでも共に生きていくための闘い

〜好きポイント〜
・奥さんの気持ち、わかる
・ひとつの愛の形を垣間見れる

〜出逢い〜
北大路公子さんが、「すべて忘れて生きていく」の中で挙げていらっしゃった本の中の1冊。

思いやりの深かった妻が、夫の<情事>のために突然神経に異常を来たした。狂気のとりことなって憑かれたように夫の過去をあばきたてる妻。ひたすら詫び、許しを求める夫。日常の平穏な刻は止まり、現実は砕け散る。狂乱の果てに妻はどこへ行くのか? ーぎりぎりまで追いつめられた夫と妻の姿を生々しく描き、夫婦の絆とは何か、愛とは何かを底の底まで見据えた凄絶な人間記録。
(新潮文庫出版「死の棘」裏表紙より引用)

これ、島尾敏雄さんの私小説です。びっくり。

もう、読んでいて辛くなる。これは不倫物語ではない。

不倫が既にばれているところからはじまり、そこから最後の610ページまで「ひたすら反省し、元の生活を取り戻したいと願いつつ、妻につられて狂いつつある夫」と「夫の不貞を許したい、でも許せない、そして狂う妻」の「今はこんなに服従しているのにミホが許してくれなければ生活は良くならない→おまえが壊しておいてよくそんなことが言えるな→もう死ぬしかない死んでやる→じゃあ一緒に死にます→やっぱり子供たちを残して死ねません一緒にがんばりましょう」の永遠ループ。

自分も苦しい。相手のことも苦しめてしまう。

ではなぜ、それでも離れないのか?

自分を大切にしてくれない人とは一緒にいるべきではないと思うけれど、「許してこれからも一緒に生きていきたい」という気持ちと、「自分を裏切り続けた夫をもう信じられない」という気持ちの狭間で、狂いながらも一緒にいることを選び続ける妻のミホさんに、とてつもない強さを感じた。

それはもちろん、夫の「更生への強い決意」があってこそだと思うけれど。

心に刺さったのはこの文。

今新しい過去づくりに熱心になっておけば、やがてそれがたまって、古い過去を身動きできぬよう取りおさえてくれるだろう。pp.470

一生を共にすると誓った相手を裏切り、不貞を働く全世界の人々に送りたい一冊ですね。

人を裏切ったり傷つけたら、それ以上の苦しみが自分に返ってくるよネ。

鬱屈した雰囲気の漂う物語の中で、二人の娘さんであるマヤちゃんが家族や近所の人に「にゃんこ」と呼ばれているのが唯一の癒しでした。

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