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観光DXの可能性〜データで興味のスイッチを押せるのか

DX推進は官公庁や地方自治体、医療分野、自動車産業など多種多様な産業で叫ばれ、テクノロジーによる革新と、デジタライゼーション活用での飛躍を目指した取組みが行われています。

観光業もDXを活用した地域活性策や観光体験で、従来型の「観光地域の魅力」の一本勝負から脱却し、データ活用やデジタル活用をした新しい観光の形を探っています。

観光におけるテクノロジー活用の可能性

観光におけるIoT、AI、DXアプローチは多くの切り口があります。例えば、王道であるVR観光、顔認証・顔決済、サイネージにチャットボットを組み合わせた「観光案内所」のデジタル化、インバウンドへの多言語対応を機械翻訳で自動化し省人化を測るアプローチは既に試みられています。

例えば...

① 茨城県では、茨城の観光名所を360度写真によるVRツアーVR動画で紹介するための特設WEBサイトが公開されています。

② 沖縄県宮古島では、2021年1月末までの実証実験として、島内を走る「宮古島ループバス」乗車でキャッシュレスと並行して「顔認証」を導入してバス利用を促しています。withコロナ時代の「非接触決済」の一環としての活用も視野に入れている点が”今”らしい取組みです。

これらの取り組みに様々な意見はあるかと思いますが、もう少しデータ分析的観点から考えると、人々がどう周遊し興味を持つかを行動データとして蓄積する広域検証も考えられます。

ただし、多くの切り口があるということは、適切に課題を選定して技術的に実現可能な形でテーマ設定するハードルが高いことの裏返しです。これまでAI導入やデータ分析をビジネスに活用する4つのポイントを挙げてきましたが、観光業データ活用でも同様です。

■ 4つのポイント
・組織ビジョンやありたい姿から、本当に解決すべき課題をリストアップ
・技術的にアプローチができそう、かつビジネス上重要な課題を選ぶ
・データでの検証を通じて有効性を確認
・有効なシステムを開発し導入

観光業が目指すべき姿と、設定するべきKPI

観光業のありたい姿とは、観光によって「持続的に地域経済が活性化すること」です。特にここ数年話題の Destination Marketing (特定の地域やエリアの観光マーケティング)では、「観光消費額」が重要なKPIとして捉えられており、2つの観点で計測されます。

・訪問客数(新規+リピート)
・ 一人あたり消費額

KPI計測を実施する上で見えてくる、よくある課題は大きく2つあります。

訪問者数が年々減少傾向で、目標数に届かない
○ 知名度が高い特定の名所だけに人が集まり、周遊が起こらない

訪問者数が年々減少傾向で、目標数に届かない

訪問客数は新規とリピートという2つの観点が重要ですが、どちらか一方に偏りがあり目標訪問者数に届かない課題を抱える地域は多いです。

例えば、新規流入は多いがリピートがなくロイヤルカスタマー化しない場合は持続的な成長が見込めませんし、リピート客ばかりで新規流入がないままでは衰退に向かってしまいます。

知名度が高い特定の名所だけに人が集まり、周遊が起こらない

来訪した顧客の消費額と、その消費の傾向も重要です。人が集まる「キラーコンテンツ」があることは観光地としての強味ですが、個別テーマはきっかけとして「地域」への注目を伸ばす方法を考える必要があります。地域の魅力を伸ばせないと、注目コンテンツの寿命がそのまま観光地の寿命になるからです。

2つの課題は相互に「持続的に地域経済が活性化する」のボトルネックになりますが、課題を解決するためにどうテクノロジーを活用すればよいのでしょうか。実現性を一旦おいておいて、「こんなのがあったらいいんじゃないか。データを使えばこんなことも可能なんじゃないか」という思考実験をしてみます。

「こんな情報が欲しかった!」をいかに予測し、与えられるか

旅行先で私が欲しいものの一つは「優秀な執事」です。自分の趣味趣向を把握してくれ、今後の予定や予算、体力の状態から最適なレコメンデーションをしてくれ、予約も取ってくれて、自分は最低限の要望を伝えれば全て「よしなに」やってくれる。夢のような世界です。

「知らなかった」から行けなかった場所は、「あなたの趣味を考えるとこの場所がおススメですよ」とレコメンドを得れば高確率で「行きたい場所」になる可能性を秘めています。趣味趣向に沿ったリコメンドは、新しい旅行の動機にもなりますし、訪問した場所での周遊のきっかけにもなります。

しかし、観光におけるレコメンデーションは非常に難しいのも事実です。なぜなら、最も重要な「人の趣味趣向」の範囲が非常に広くかつ細かいため、属性設定やレコメンデーション精度を担保することが難しいからです。

一口に「旅行が好き」と言っても、リゾートホテルでゆっくり過ごすことを好む人と、観光地をしらみつぶしに見て回りたい人、現地の食事を沢山食べたい人は観点が違います。

また、旅行先で多くの人が気になる「食」という観点ひとつでも、リーズナブルな食事なのか、雰囲気を重視しているのか、味なのか、それらの複合要素で決定するのか……と無数の判断基準が存在します。

多様性の中で属性を作るためには「膨大なデータ」が必要

ではどうすれば、観光業という人の趣味趣向と密接に結びついたレコメンデーション機能を実装していけるのでしょうか。

私たちが今、最も日常的に利用しているレコメンデーション機能は、Amazonの商品レコメンドやGoogleの予測検索機能でしょう。Amazonで買い物をした時についつい「関連する商品」や「類似する商品」から余計な買い物をした経験がある人は多いはずです(私もそのうちのひとりです)。

このように、Amazonが「痒いところに手が届く」をレコメンデーションを実現してくれるのは、プラットフォーマーとして個人の検索・閲覧・購買データを保有、分析しており、人の嗜好性を予測分類するためのデータがリッチだからです。

データ観点で考えれば「より広く多くの」観光に関する趣味趣向データを集めることが重要になります。観光業はその特性から地域単位の活動がメインになりますが、精度を考えれば、日本全体で考えた方がずっと早く正確な示唆を与えることができます。

そう考えていくと、国家戦略として観光庁やJNTOが全国の観光地とその提供価値を整理して、ユーザーの購買(訪問)データと紐づけて、趣味嗜好を予測するようなプロジェクトを作っていく……という方向性も見えてきます(実現可能性は一旦脇に置いた話ですが!)

「知らない」ことでの機会損失を防ぎ、出会いを生むために

なかなか難しい「人の趣味趣向」を反映したレコメンドですが、観光需要を創出する上で、非常に重要ではないかと考えています。

私のこれまでの経験からも「TVやSNSなどでなんとなく知っている観光地」は訪問先として選ばれやすいですが、「知らないだけで魅力的な」観光地は多くあります。「知らないだけ」の場所は、適切なタイミングで適切に情報を届けることで、「行ってみよう」と人の心のスイッチを入れられる可能性が十分にあります。

観光に対する趣味嗜好を細かく予測できるようになれば、「まだ見ぬ観光地」と出会い、訪問の需要創出が可能になります。人と地域が結びつくことで双方の経験値がグンと増える未来に繋がるでしょう。

今回は未来への期待を込めた論考になりましたが、「テクノロジーやデータは新しい出会いを加速させてくれるものである」という点は、単に消費金額を増やすというゴールだけでなく、それにつながる望ましい体験を実現するという意味で、データの本来持つ可能性として捉えていくべきなのではないかと思います。

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