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アメリカのAI戦略を理解するための3つのポイント

ようやくでてきました、トランプ政権下初のアメリカのAI戦略。

現在のところ、中身に具体性が乏しく、さらに具体的な予算が取れているわけではないので、評価が難しい側面はありますが、実際に読んでみると、AIをわかっている人間が後ろで戦略を練っているのだなということが読み取れて、いくつかの点で興味深いです。

Executive Order on Maintaining American Leadership in Artificial Intelligence - Link

ちなみに、ここでのAI(Artificial Intelligence)は、核心となるAIの手法やテクノロジーの研究開発、AIを使ったプロトタイプ・システム、AIをサポートするための仕組みやシステム、デジタル基盤、データセット、AIのスタンダード(標準)を含むとのことです。

今回のポイントとしては以下の3つかなと思います。

- AIのアプリケーションを作るために政府データへのアクセスを簡単にする
- 労働者への再トレーニング
- 市民の間にAIへの信頼を構築する

それぞれ、詳細を見てみましょう。

政府データへのアクセスを簡単にする

政府機関はデータとモデルを発見しやすいように、AIコミュニティの研究者たちのフィードバックをもとにドキュメンテーションを改善し、クオリティの高いAIのためのデータとモデルへのアクセスを改善する。

この国の政府の持つデータは幅広く、深いです。

財務省や移民局が集めているデータは世界のどの国よりも多く、深いです。例えば財務省であれば世界中のマフィア集団のデータを持っていたりします。税金や資金洗浄に関連するからです。

CIAや国土安全局は世界中で通信傍受や無人機などを使ってテロリストを含め様々な組織や個人のデータを集めています。日本やドイツのような同盟国の首相の会話ですら平気でとっています。

NASAのような様々な天体、地球観測データを集めている組織もあります。

さらに、先週のWeekly Updateでもお伝えしましたが、現在アメリカの刑務所では声紋データベースを構築中です。ちなみに、アメリカの刑務所にいる人の数は他の国と比べたら圧倒的に多いです。

こうしたデータにアメリカのビジネスがアクセスしやすいようにするというのは、精度の高いAIのアプリケーションを作るために役立ちでしょう。

こうしたアメリカが国として集めているデータこそ、顔認識、画像認識、動画認識、音声認識、といった特にパターン認識の分野におけるAIの分野では競争優位になります。

もちろん、中国もそうしたデータは現在大量に自国内で収集中なわけですが、アメリカは自国内だけでなく世界中でデータを集めているわけです。(もちろん日本からも収集してます。くわしくはエドワード・スノーデンの映画でも見てください。)

AIにおいての競争有意は、もはやアルゴリズムそのものや、テクノロジーによってもたらされるのではなく、むしろデータによってもたらされるのですから、ここにフォーカスしているのは正しいと思います。

もちろん、AIのテクノロジーに対する研究開発の重要性にも触れらていますが、そのへんはアメリカなのでGoogleやMicrosoftのような民間の企業に任せておけばいいでしょう。特に現在のようにAIのテクノロジーがオープンソースという形で開発されることにより、ある意味コモディティ化されているわけですから、問題はそれを使ったシステム、アプリケーションをどう開発、導入していくかということになります。

そのときに、どういったデータがとれるのか、とれないのか、どこまで政府がそういうデータへのアクセスを保証してくれるのかということがAIのシステムを作るには重要になります。

こうした点を踏まえ、国がデータへのアクセス環境を整えるというのは、あまりセクシーではないが、的を得ている現実的な戦略だと思います。

労働者のトレーニング

見習い制度、スキル習得プログラム、コンピューターサイエンスにより重きをおいたSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学)分野の教育を通して次世代のアメリカ人のAIの研究者とAIのユーザーを教育していくことで、政府機関で働く従業員を含むアメリカ人の従業員がAIによって可能になる機会を最大限享受できるようにする。


これまでのWeekly Updateでも何度か取り上げましたが、AIによる自動化によって多くの仕事がなくなるというのはもうすでにわかっていることです。しかし、それと同時に、AIのアプリケーションを作れる人間、または使いこなすことが出きる人間がもっと必要になります。

そこで自動化によって仕事が失くなってしまう人たちをしっかりと再トレーニングする必要が出てきます。

学校教育や職業訓練所的なトレーニングのスピードでは今のようなAIやソフトウェアの世界で起きているスピードには対応しきれないでしょうから、ビジネスが自分たちで自分たちの従業員の再トレーニングに責任を持たなくてはいけなくなります。

そこで、Apprentice(見習い制度)というものが必要だという議論はよく聞きますが、このイニシアチブでもそのことが言及されています。これは、現実的だと思います。既存の教育システムに無駄に多くの予算を割り当てるために下手に大言壮語を並べた口約束よりも、こうした現実に沿った解決方法に対して、国が何ができるかという視点で対策をしていくというのは、いいスタートだと思います。

市民の間にAIへの信頼を構築する

AIテクノロジーの持つ潜在的なメリットをアメリカ人が最大限享受するためには、AIテクノロジーに対する一般市民の信頼と自信を育み、AIアプリケーションから市民の自由、プライバシー、アメリカ人の価値観を守る必要がある。

別の記事でも触れましたが、結局どんなにいいAIでも使う側、もしくは使われる側にAIに対するしっかりとした理解がなければ、余計な心配を生むだけで、逆に使われないで忘れ去られたりすることになってしまいます。

アメリカの国としてのAIの競争優位を作るには優れたAIを作るだけではだめだということです。AIは使ってもらうことによって、さらにそこからデータを集め、そのことによってAIのクオリティがさらによくなっていくというものです。

そうであれば、一般市民に適切な教育(もしくはマーケティング)をしていくことで、AIが社会にどんどんと広まっていく仕組みを考えなくてはいけませんが、まさにこうしたことこそ、国が得意とすることでしょう。

あとがき

最後に、こちらのイニシアチブを読んでいて思うのは、やはりアメリカですから、ビジネス、特にスタートアップのような新しいビジネスが活躍しやすい環境を整えるという方向性を強く感じます。

これは、日本のAI戦略のように既存の大企業を守るための戦略とは大きく違います。国ごとのAI戦略の違いをまとめた記事を数ヶ月前に出しましたので、この辺のことを知りたい方はぜひ。

- 日本と欧米の国家レベルのAI戦略を比べてみる

中国のAI戦略のような特に大きなビジョンというものを感じるようなものではありませんが、ある意味アメリカらしい現実主義なものであると言えるのではないでしょうか。

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