見出し画像

「異日常」37/37

ピンポーン ピンポーン

「パラグアイchです~。集金に来ました~。」
ドアの外からはまだ声が聞こえる。一体俺は幾ら払わないといけないのだろう。場合によっては、今後も視聴したいと思っている自分がいた。
不審を好奇が上回り、話だけでも聞いてみようと玄関の扉を開ける。ズプリ。胸を卒都婆で貫かれた。あの墓地でよく見る、梵語でストゥーパ、あの卒塔婆だ。
「ご、ご御免なさい!わ、私、アゴが卒都婆になってるんですぅぅーー!!」
驚きと怒りで爆発しそうになった。が、「パラグアイchの集金スタッフならばそれ位でないと」と俺は即座に許せてしまった。許すという行為は尊い。だから俺は極力許す。そして笑う。
にも関わらず、集金スタッフはしばらく慇懃な謝罪を続けていた。そしてその行為とは裏腹に、アゴ卒塔婆は電動で動く加工がされているらしく、ピストン運動でずっと俺の胸を突き刺し続けていた。自分の体の中を「南無阿弥陀仏」という文字が出たり入ったりしている不思議。南無阿弥IN。南無阿弥OUT。
柔らかな朝日が西から差してきた。唐紅の天道。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

ああ、今日もまた一日がはじまる。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

ふと思う。俺が昨日の朝目覚めてから今までの出来事を、的確に言語で表現出来る人間がいるだろうか。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

「おかわりとおさわりが自由の定食屋のような」と言う者もいれば、「千利休より茶葉の使用量が倍で多い万利休のような」と言う者もいるだろう。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

「乾杯!でみんな骨折してしまった飲み会のような」と言う者もいれば、「グーチョキパーで何作ろう、でブラックホールを創り出す保育士のような」と言う者もいるだろう。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

「金曜日よりのひょうきん者の陰金馬頭琴奏者のような」と言う者もいれば、「地蔵を並べて頭を叩き『ハレルヤ』を演奏する破戒僧のような」と言う者もいるだろう。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

「死化粧がマントヒヒ風だった義母のような」と言う者もいれば、「エイリアンv.s.ハンドベル奏者の退屈な試合のような」と言う者もいるだろう。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

「トイレと思って並んでいたらパンケーキの列だったMajiでNyoする5秒前爺いのような」と言う者もいれば、「あの日が急に来ない菜のお漬物のような」と言う者もいるだろう。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

「いつも映画『シャイニング』の感じで回覧板を届けにくるご近所さんのような」 と言う者もいれば、「『観阿弥・世阿弥 presnts 阿弥-1グランプリ』の優勝者のような」と言う者もいるだろう。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

「排水口を物憂げに清掃する薄毛怪人ギブミーヘアーのような」と言う者もいれば、「アリババと40人の盗賊のスーパー男色Nightのような」と言う者もいるだろう。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

「ツタンカーメンを運ぶ際、顎の髭っぽい長い部分を持つ係の人のような」と言う者もいれば、「眼球と金玉を総入れ替えして金玉睡眠するにうってつけの日のような」と言う者もいるだろう。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

「電流爆破デスカラオケにて、自分以外、全員が奄美民謡の歌い方だと気付いた時のような」と言う者もいれば、「ヴェルディのレクイエムに合わせてリズムカルに放屁する前衛集団のような」と言う者もいるだろう。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

一口に表現するのは到底不可能に思える、とにかく無茶苦茶な一日だった。それでいていつもと何ら変わりのない、平凡で、ただただ無意味な日常にも思えた。俺は憂う。こんなくだらない日常でも繰り返される、今日もまた朝が来る残酷を。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

しかしだ。こんなくだらない日常でも、終わってしまうのは寂しい。両親の死をはじめとする、全ての出来事からそれだけは学んだのだ。ごくごく僅かだが、人生には生きてて良かったと思える瞬間が幾らかあった気もするし。幸福の審判は、いつだって自分だ。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

だから訂正。俺は歓喜する。こんなくだらない日常でも繰り返される、今日もまた朝が来る幸せを。同じ血を見て、死を連想する者もいれば生を連想する者もいる。なんとなく俺は、後者であろうと決めた訳だ。せっかくなら、善いものを希求するのが人間だから。

南無阿弥IN 南無阿弥OUT

寝室から目覚まし時計の音が聞こえる。さぁ、俺のくだらなくも愛すべき日常が今日もまたはじまる。コップ一杯の狂泉の水を飲む。

「混!沌!沌!あらよっと!混!沌沌!混!よっ!混!沌!沌!あらよっと!混!沌沌!混!よっ!お囃子みたく鼓動する心臓を、幸福の葉っぱで包みました。脳に拍手、、、


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?