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「異日常」32/37

【Sexual Dancingサイコ吸い師】

平日の朝、駅の構内を歩くのが好きじゃない。特にオフィス街の駅なんて最悪で。疲れからか憂鬱からか、表情のくすんだ大人達が全員黒っぽいスーツを身に纏い、僕の視界が悲哀に満ちたモノクロ世界になるから。
なんで色を使わないの?
電車の中になるとより顕著で。集団で葬式会場へ向かっている訳じゃあるまいし、下手したら誰か啜り泣いてるんじゃないか、もしくは自分が無意識に落涙してるんじゃないか、なんて不安を煽られる暗澹たる空気感。ずっとあの場所にいたら、自分の色彩まで奪われるんじゃないか。怖くなる。「それが労働だ」と言われたら畏敬の念を抱かざる得ないんだけど、やっぱりどうも苦手で。(でもこういう場合の「それが労働だ」って言ってくる奴は誰?思考停止人間?)
とにかく僕は、あの黒とも白ともグレーともとれる世界の住人になりたくなくて、「Sexual Dancingサイコ吸い師」なんて仕事をやっている訳だ。

と言いながらも、予定によってはやむを得ず朝の電車に乗らなければならない。今日というのがまさにその日で、今、僕は丸ノ内線のホーム内を一人鬱々と歩いている。ひらり。前を歩いていた女子高生が一枚のメモ紙を落とした。反射で気付いた僕はサッとメモ紙を拾い上げ、女子高生に声を掛ける。が、女子高生はヘッドフォンで音楽を聞いていた為、全く気付かずに歩き去ってしまった。「まぁいいか」という感情と共に湧き上がる、「中身は何が書いてあるんだろう?」
良識ある行動でないという自覚はあったが、好奇心を抑えきれず少しの間を置いてメモ紙を開いた。以下、メモの内容。

「残酷ゲーム」
~ルール~
山手線ゲームの要領で、人に対する仕打ちの中で残酷なことを言っていく。死なせたら負け。あと、残酷じゃないこと言っても。
ex.
残酷ゲームYeah!→(残酷残酷)生爪剥ぐ→(残酷残酷)四肢を削ぐ→(残酷残酷)眼球えぐる→(残酷残酷)硫酸かける→、、、みたいな。もう死んだんじゃね?ってなったら負け。

僕はそれを読み終えるが早いか「サイコ吸い機」をリュックから取り出し、電光石火でメモ紙を吸い込んだ。

すいずいすい! すいずいすい!1、2、3、4、Sexual Sexual ♪
すいずいすい! すいずいすい! 1、2、3、4、Step & Turn ♪

油断も隙もあったもんじゃない。世の中サイコに溢れてる。
職業柄、急遽Sexual Dancingサイコ吸いを披露することになったが、例の白黒世界の住人達は侮蔑の気色で僕のことを注視している。あちらもこちらを良く思っていないのだろう。わかり合いたいって気持ちもあるけど、まず聞きたい。思考を止めた人達に、僕は一体何から伝えればいい?
全員は導けないんだなあ   Sexual Dancingサイコ吸いを



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