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「異日常」12/37

酔いが醒めたはいいものの、疲れが一気に押し寄せてきて俺は微睡み夢の中。

オジギソウ。裏庭に咲いたオジギソウ。名前も見た目も愛らしい。俺のお気にのオジギソウ。視界に入ると嬉しくなるよ。だから俺はお辞儀する。なにせ貴方はオジギソウ。可愛いね。白かピンクか紫か。なんでもいい。貴方は綺麗だオジギソウ。
窓から見ていたオジギソウ。そこに一人のガキ大将。
「僕は首塚作るのねぇ!僕は首塚作るのねぇ!」
サイコな奇声を発してる。ガキのサイコは恐ろしい。なにせ常識知らぬから。
「お辞儀した首ちょん切るぞ!お辞儀した首ちょん切るぞ!」
あらあらあら。ガキの繰り出す無茶苦茶チョップ。お辞儀は比喩で首などないぞ。無惨に刈られるオジギソウ。すっかり満足ガキ大将。阿呆面さげて帰るはいいが一掃されたオジギソウ。見るも哀れなオジギソウ。俺は涙が止まらない。最悪だ。この世の終わりだやるせない。
悲しい悲しい一週間。何をするにも手につかず。いつも脳裏にオジギソウ。死にゆく貴方を助けたかった。今日も涙が止まらない。
更に泣き泣き一週間。心底貴方が好きだった。今日も想って今日も泣く。そこに来客インターホン。覗き穴には可憐な女性。
「近所の者ですぅ。最近お見かけする貴方が、日に日に憔悴していくようで。お見舞いに参りましたぁ。」
なんと優しい心遣い。お恥ずかしい。大の男がこりゃ失礼。どうぞあがって下さいまし。さぁさぁこちらへさぁこちら。
予期せぬ素敵なお客様。俺は心が癒された。淡いピンクのお召し物。謙虚な彼女はよくお辞儀。そんな彼女をしばらく見てると思い出されたオジギソウ。もしかして。もしかして。彼女は愛するオジギソウ?お伽話の世界観?俺のあまりの落ち込みように人のなりして来てくれた?
「もしかして、貴方はオジギソウですか?」
彼女は優しく微笑んだ。決定だ。間違いない。彼女は絶対オジギソウ。
「うふふふ。私はね、オジギソウ、を刈ってしまったガキの母で御座います。
母も首塚作るのねぇ!!母も首塚作るのねぇ!!」
スパァン、一閃。俺は首を斬り落とされてしまった。
「いやオジギソウじゃないんかい。」

俺は、自分のハッキリとした寝言で目を覚ました。高齢者か幼児にでも語りかけるような、穏やかで厭味のない「いやオジギソウじゃないんかい。」だった。


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