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【臨床で使える】子供の間欠性外斜視・上下斜視へのプリズム眼鏡処方


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今回は『小児のプリズム療法』の第2弾です!

小児のプリズム療法の主な適応疾患として以下の4つに分類しました。

① 恒常性斜視(主に内斜視)
② 部分調節性内斜視、非調節性輻輳過多型内斜視
③ 斜位維持能力の弱い間欠性外斜視 
④ 先天性上斜筋麻痺

前回は、第1弾として、
「① 恒常性斜視」「② 部分調節性内斜視、非調節性輻輳過多型内斜視」に対するプリズム眼鏡処方の手順、小児のプリズム療法の目的、組み込みプリズムや膜プリズムの特徴(メリット・デメリット)、またそれぞれのレンズの使い分け方や組み合わせ方、さらにはプリズム処方の際のPAT(プリズム順応テスト)の手順
などについてまとめました。↓↓

今回、第2弾として取り上げるのは、
③ 間欠性外斜視」「④ 先天性上斜筋麻痺」です。

斜視の矯正には光学的矯正(屈折矯正、プリズム眼鏡)、手術、視能訓練があり、斜視のタイプや程度によって矯正方法を選択しますが、プリズム眼鏡の適応は、一般的に恒常性の斜視(前回記事参照)がメインです。 
それは、恒常性斜視の場合、斜視弱視や両眼視機能不全になるリスクが大きいからですね。

しかし、今回紹介する間欠性外斜視や先天性上斜筋麻痺は、常に斜視の状態にある「恒常性」ではなく、時々斜視になる「間欠性」の状態であることがほとんどです。
教科書でも間欠性斜視に対してのプリズム処方を詳しく言及している本は少ないと思います。

では何故、間欠性の斜視でもプリズム処方が必要になるのか??

自身の臨床経験から、その必要性と適応、そして実際の合わせ方についてまとめたいと思います。

クリニックレベルでも気軽にトライできるので、ぜひ、日々の外来診療の手助けにしていただければ幸いです。

● 今回の記事で分かることは?
・間欠性斜視に対してもプリズム眼鏡処方が必要な理由
・間欠性外斜視や先天性上斜筋麻痺(上下斜視)へのプリズム眼鏡適応の判断方法
・プリズムの処方度数の決め方
・プリズムの左右眼への振り分け方
・組み込みプリズムと膜プリズムの使い分け方
・合成プリズム処方のやり方(プリズム合成表あり)
・経過観察中の注意点
・実際のプリズム眼鏡処方例(間欠性外斜視、先天性上斜筋麻痺)
など



(小児)間欠性斜視に対するプリズム療法の目的

まず目的を明確にしておくことが非常に大切です!

① 弱視の治療・予防  
恒常性斜視よりはリスクが低くなりますが、不同視弱視など片眼性弱視(または視力左右差のある両眼性弱視)に間欠性斜視が合併している場合は、間欠性であっても弱視化あるいは弱視改善の妨げの要因になってしまうことがあるため留意を要します。
プリズムにはそれを治療・予防するための補助的役割があります。

② 両眼視機能の向上
間欠性斜視は両眼視ができている時間も多く、概ね良好な発達状態にあります。
乳幼児期に恒常性斜視や片眼の視性刺激遮断(先天性白内障など)などがなければ、両眼視の土台であるM系機構(大まかな立体視)は正常に発達します。
しかし、細かな立体視(60′′〜)を担当する両眼視細胞P系機構は、間欠性斜視であっても、斜視の頻度が高い状態が続けば、細かな立体視(60′′〜)の発達は不全気味になる可能性があります。
P系機構の発達期(感受性期)は、生後4〜6ヵ月頃から5歳頃まで(ピークは2歳頃まで)になります。
患児の年齢と斜視の頻度を考慮しながら、プリズムの適応を判断します。

 頭位異常の改善
間欠性の斜視は、頭の傾斜(head tilt)、顔の回転(face turn)、顎の上下(chin up and down)の頭位異常を呈することがあります。
複視を避けるために無意識で眼位を斜位に持ち込みやすい頭位にしています。
これは適応反応で、複視軽減、視覚(視力、両眼視機能)の発達など、目にとってはプラスの効果がありますが、長期間その頭位が続くと骨格面の発達に問題が生じる(顔面左右非対称、脊椎側弯、猫背等)可能性があります。

④ 抑制除去効果により恒常性斜視への移行を予防する
間欠性斜視の経過観察中、恒常性斜視に移行しかけている症例に対しては、適量(必要最低限)のプリズム療法を行うことで、斜位に持ち込みやすくし、加えて両中心窩の刺激による抑制除去効果や融像と輻輳機会の増加など、感覚面・運動面双方の訓練効果を発揮します。

⑤ 複視や眼精疲労の改善
間欠性斜視の患児が小学校高学年くらいになると、斜視になった際の複視の自覚や、近見作業の増加による眼精疲労を訴えることが時々あります。
間欠性の斜視があれば、斜視がない人に比べると、誰もがこのような症状を大なり小なり感じる可能性がありますが、これらの症状が日常生活で強い苦痛をもたらしていると判断できる場合にはプリズム眼鏡の適応になります。


では、これらの知識を踏まえて、間欠性外斜視や先天性上斜筋麻痺に対するプリズム眼鏡処方の方法を解説していきます。

間欠性外斜視に対するプリズム療法

プリズム適応の判断

間欠性外斜視は、特別な治療なしの自然経過でも視力や両眼視機能の予後は良好なことが多い斜視です。
ただし、下記に示すような眼位コントロール状態が悪い(斜位維持能力が弱い)間欠性外斜視では、非優位眼の弱視化や両眼視機能の発達阻害が起こり得ます。
視能訓練(抑制除去訓練や輻輳訓練等)ができるようになるのは、8〜9歳頃なので、幼少時期にはプリズムによる眼位補正が有用です。

【 間欠性外斜視の眼位のコントロールが悪くなりやすい例 】
・偏位量が非常に大きい場合(40△程度以上)
・片眼弱視が合併している場合(不同視弱視、形態覚遮断弱視等)
・上下斜視が合併している場合

◎ 間欠性外斜視へのプリズム眼鏡処方は、適応判断を慎重に行う必要があります。

自身の力でしっかり斜位に持ち込むことができ、近見での斜位維持能力が高い場合は、基本的にプリズムは必要ありません。

過剰なプリズム矯正を行うと、プリズムに頼ってしまい、自身の輻輳力を弱めてしまいます。

しかし、下記の基準に該当するような症例に対しては、適切な度数のプリズム眼鏡を処方できると、抑制除去効果や融像機会を増やすことになり、輻輳力や斜位維持能力の向上も期待できます。

要は適応判断でプラスにもマイナスにもなるということです。

【 小児間欠性外斜視プリズム眼鏡適応基準 】
斜視眼が固定し、その目の視力が弱視化傾向にある(もしくはなかなか向上しない)
近見でも斜位に持ち込みにくい(カバーテストで顕性化し、戻りにくい)※1
理解力、集中力はありそうなのに立体視(TST、TNO、Jaco等)不良が続く、または不安定
経過にて明らかに眼位コントロール状態(斜視の頻度)が悪化傾向にある ※2
(親御様の観察も参考に)
⑤ 複視や眼精疲労が顕著な場合
→小学校高学年くらいからでないと自覚困難。

どれか1つでも当てはまれば、プリズム眼鏡処方を検討しましょう!

※1 輻輳不全型(低AC/A比型)で、輻輳訓練が可能な年齢であれば、まず第一に輻輳訓練を行い、改善がみられない場合にプリズム眼鏡を検討する。
抑制のない(斜視時に複視がある)症例には効果が期待できるが、抑制がある(斜視時に複視がない)症例には効果が薄いこともある。

※2 uncover testの際の戻りの速さを参考に経過を見る。
斜位の強さは強い方から順に、
「uncover時に素早く戻る」
→斜位強い
「uncover時にゆっくり戻る」
→斜位に持ち込める
「uncover時に戻らず、瞬目を促すと戻る」
→斜位弱い
「uncover時に瞬目を促しても戻りにくい」
→ほとんど斜位に持ち込めない
の4段階で評価して、カルテに記載する。
●Bagolini red filter ladderがあれば、斜位維持能力の定量も可能。


的確な適応判断適切な処方度数が、間欠性外斜視の経過をプラスに導きます。
では次項で、実際にプリズム処方になった際の手順と処方度数の決め方を解説していきます。

実際の処方の流れ

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