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「メディア/イアソン」感想

「赤と黒」の公演期間が終わり、早2ヶ月。
三浦宏規さんが出演するということで楽しみにしていた「メディア/イアソン」の初日を観劇してきました。

※以下ネタバレがあります

ギリシャ悲劇初心者

事前に発表されていた公式の情報が少なく、明確にわかっていたこととしては2時間ストレートプレイのギリシャ悲劇だということ。

基本ミュージカルしか観劇しておらず、ギリシャ悲劇にも一切馴染みがなかったので今回は予習してから観劇に臨んだ。

予習のために読んだ書籍

・世界文学全集1 ホメロス アポロニオス
・ギリシア悲劇全集 第3巻

地元の図書館でフライヤーに載っている訳者に絞ったら上記がヒットしたので。
(フォロワーが読んでいる本と微妙に違う気がする)

メインで読んだのは「アルゴナウティカ」が掲載されていた「世界文学全集」の方で、これは読んでおいて良かった。
しかし、序盤の方は人物説明が複雑だったのと、出版された年代も古いせいか文体も独特で読み進めていくのが結構しんどく。
半分過ぎたあたりからあまり気にせず読めるようになった。
(面白くなってきたのも半分が過ぎたあたりからだった)

「アルゴナウティカ」読了後にまとめたメモ

また観劇後に「もう少しギリシャ神話について知識を深めたい」と思い、下記の書籍を購入。

メディアとイアソンについての記述があることが購入のきっかけだったのですが、ちょっとだけ文章の癖が強いかも。
神々や英雄同士の関係性はわかりやすく説明されていた。
(まあ今回の観劇に関しては読まなくてもいいかな……という感じ)

いざ観劇

世田谷パブリックシアター

今回初めてお邪魔した世田谷パブリックシアター!

入り口も室内なのが良い

商業施設の中にあって駅からのアクセスも良くて良かった!
その分劇場自体はコンパクトな印象で、3階席までの経路は多分階段のみ。
初日は急遽チケットを追加したので3階席だったのだけれど、席が若干複雑な作りをしていて、座席によってはバーがかなり視界の邪魔になるかも。
(バーが視界に入る以外は概ね見やすい)
あと足元がだいぶ狭く、手前の座席の人に立ってもらってから座席につく光景を度々目撃した。
今回は2時間休憩なしの舞台だったので「お手洗いに行きたくなっても行けない」と思ってめちゃくちゃハラハラしたけど、結局大丈夫だった。良かった。

全体的な感想

2時間ストレートプレイということで不安だったけど、想像していたよりあっという間だった。

構成としては8割アルゴナウティカ(メディアとイアソンの出会いの冒険)、2割メデイア(悲劇部分)という感じ。
アルゴナウティカはコルキスに着いてからの話がメインに据えられており、船での冒険は結構あっさりと仕上げられている印象。
「メディア/イアソン」なんだから当たり前と言えば当たり前か。
船上の話はメディアが出てこないものね……。

基本的にはシンプルな舞台セットの中でたった5人の俳優が物語を紡いでいく。

井上芳雄さん演じるイアソン、南沢奈央さん演じるメディアは通しの役だけれど、三浦宏規さん・水野貴以さん・加茂智里さんは流れるように老若男女いろいろな役を演じ分ける。
3人に関しては人物を演じるだけでなく、大蛇のパペットを操ったり、小道具を用意したり、はたまた巨人の小道具を操ったり……。
メディアとイアソンはアイボリーのような白いお衣装を着ているのに対し、3人は統一して黒いワンピースなのは、黒子的な意味合いもあるのかなと思った。

物語の初め、幼い少女を演じていた水野さんが三浦さんに手渡された王冠を被るシーン、イアソンの叔父である王の役に切り替わったのは衝撃的かつ鳥肌がたった。

可愛らしい2人

演出はかなり独特で、舞台を見ているというよりは影絵だったり絵本を見ているような不思議な感覚。
特に閨のシーンでの黄色い照明が印象的で、舞台の情景を思い出すと一番に浮かんでくるのはあのシーンかもしれない。
コルキスでの試練のシーンもオレンジっぽい照明で、黄色〜オレンジの色合いが美しかった。

最初に水野さんが歌われていた子守唄が、最終的に金羊毛のシーンにつながって行く流れも美しかった。
もう一度観劇すると、最初のシーンのセリフや歌に感じる印象も違ってくるんだろうな。

音楽もよかった!トレーラーで若干聴ける。
特にコルキスでの試練のシーンで流れるピアノの旋律が印象的。

印象的だったシーン:コルキスでの試練

「アルゴナウティカ」を読んだ際、一番どうやって表現するのかが疑問だったシーン。
すごく綺麗に表現されていて感動した。
水野さん・加茂さんが雄牛を演じ、三浦さんは雄牛が吐く炎をフラッグで表現。
ここの三浦さんの炎捌きは、三浦さんの身体能力が遺憾無く発揮されていて見ていて気持ちよかった。
回転する際のお衣装のはためき方も相まってシルエットが美しい。
炎を演じた後の三浦さんは、その後舞台の後ろの方で太陽が登り沈む様を小道具を使って表現していて、本当に「全員野球」だなと。
(芳雄さんがパンフレットで用いていた表現)

印象的だったシーン:メディアとイアソンの閨

メディアが国に戻されそうになった際に、閨を共にするシーン。
先ほども記述した通り、黄色い照明とそれを遮るような大きな壁のセットが印象的だった。壁から覗くメディアとイアソンの姿が影絵のようで美しく、手前では他の3人が仮面をつけてリズムを取り。
仮面をつけた3人は「アルゴナウティカ」にも出てきた妖精的なモチーフなのかな?(そういう記述があった気がするけれど、若干記憶が曖昧)

曖昧な記憶

イアソン:井上芳雄さん

最初の若々しいイアソンから、物語が最後の方へ向かうにつれて、老いて本性が顕になっていく様が素晴らしかった。本性というか、彼のありのままの姿というか。
前半の金羊毛のシーンでも、一目散に金羊毛に駆け寄って大声で喜ぶ姿だったりと、後半に通づる部分も少し感じつつ。
しかし、イアソンの言い分もわからなくはなくて。ギリシャ悲劇としてかなり昔に書かれた物語だけれど、最後の方は特に現代に通じるなと感じる部分が多くあった。

物語の終盤、激情のままメディアと言い争う場面は、どんなに声を荒げていても明確に聞き取れる発音で流石の芳雄さんだった。
その後、子供達を気にしている姿を見ていたら、確かにメディアが子供達を殺すことはイアソンへの確かな復讐だったのだなと。
彼にとっての愛子であり、彼女にとっての愛子でもあり……。

終盤で髪型が変化するのも、微妙な違いだったけど老いを感じさせてきて良かった。
時々前髪を後ろに撫で付ける動作も、もし前半でしていたら違和感があったのだろうけど、老いたイアソンにはしっくりきて。不思議だ。

メディア:南沢奈央さん

美しい大人の女性のようでありながら、言動や立ち振る舞いは純粋な乙女のようで。
コルキスでの彼女はどこかアンバランスな印象を与えていたのに対して、後半の場面では年をとり苦しみもがいている様が逆に一貫しているように感じた。

イアソンという男に恋をしてしまったがために、国を捨て、弟を殺し、最後にはイアソンにまで裏切られて。
ここまで来る過程で捨ててきたものを考えると、あの様な行動に走ってしまうのも必然だったのかな。

イアソンと同じく白を基調としたお衣装だったのに、最後のシーンでは鮮血を浴びており、それがまた今までの美しい世界観から浮いていて。
今までのシーンとは違うベクトルの美しさでゾクっとした。

最後のシーンでの椅子の座り方も独特で、それがまた不安定な彼女を表しているようで良かった。

南沢さんを舞台で拝見するのは初めてだったのだけれど、お声が美しく聞き取りやすかった。
事前に見ていたインタビュー等の柔らかい印象と、今回のメディアというお役のギャップもすごい。

三浦宏規さん

観劇のきっかけの方なので若干細かいです。

・メディアとイアソンの子供
柔らかい印象の役作りで素敵だった。
最後にプレゼントを持っていく姿を見ていると、合間合間に挟まれる演技はそれよりも若干大人びているようにも感じて。
死後の世界でも時が進んでいるのだろうか?

・ヘラクレス
力強い演技で、直前の子供の演技とのギャップが良かった。
思いの外船上のシーンが少なかったため、置いていかれるのも早くて少しびっくり。
ヘラクレスを象徴するのがライオンの毛皮なのもいいな。

・アプシュルトス
想像していなかったアプローチの演技でびっくり。
メディアの弟としての可愛さしさを強調する演技かつ、アイエテスとも対照的に感じられてよかった。
竪琴はどういう演出なのだろう。(最初オルフェウスなのかと思った)
→大きな音にびっくりした時に顔を竪琴で隠したり、恥ずかしがる時に竪琴を抱きしめたり。ただアプシュルトスの性格を表すための演出で持たせているのかなと思ったりした(観劇2回目の追記)

・使者
噂に聞いていた4pにわたる長台詞がすごく良かった。
使者としての台詞はもちろんのこと、使者として他の役(イアソン等)を演じるような表現もあり。
それを黙って聞いているメディアの反応を見て、慄く戸惑う演技も良かった。
ここの三浦さん、顔の影の落ち方が不思議で。「赤と黒」観劇時にも感じたのだけれど、顔の彫りが特段深いというわけではないのに瞼に落ちる影が彫像のようで……。
それも相まってヘラクレスやアプシュルトスとはまた違った印象で素敵だった。

観劇後のメモ

水野貴以さん

お声がとても素敵だった!
子守唄も素敵だったのだけれど、他のシーンで青年を演じる際の声の使い分けも素晴らしく。
特にアルゴスの演技が印象に残った。

メディアとイアソンの子供としては末っ子ということで、三浦さん・加茂さんが演じられている兄弟に対してはとても幼い役作り。
何もわからないまま母親に殺されることになってしまって、その純粋な気持ちのまま兄である三浦さんに過去のことを尋ねているのことが残酷なようにも感じ。
彼女が兄に対して「生まれてきて嬉しい」と答えていた前半、後半ではイアソンが「産まれてこない方が良かった」というようなことを口にしていて……。
ここの台詞の対比も残酷。
難しい役どころだなと思いつつ、兄弟としての対比が素敵な演技だった。

加茂智里さん

基本的に男性の役が多かったにも関わらず、違和感がなくすごかった!

特に印象的だったのはコルキスの王であるアイエテス。
イアソンやアプシュルトスといった、あの場にいる人物よりも上位の存在として存在しなければならない役どころなのに、それも違和感なく演じていらっしゃって。
年老いているということも分かりやすく伝わってきていてすごい。

アプシュルトスの死後、彼の月桂冠を掲げている姿が影になっているシーン、残酷だけれどすごく美しかった。

今回は少なかった女性の役も、もっと見てみたいな。

総括

今までにない素敵な観劇体験だった。
私としては好みだったけれど、予習してなかったら若干ついていけなかった部分もあっただろうなとも感じて。
メディアがイアソンに恋してしまう流れがよくわかないよな〜と。
(原作では神であるヘラの行動が描かれているけれど、今回の舞台版ではカットされていた)
ヘラの存在を含めてもメディアは可哀想な女性だなと思う一方、アプシュルトスの件を考えると本質的には彼女も最初から一貫しているのかもしれない。

まだ初日しか観劇していないこともあって、咀嚼できていない部分もあり。
2回目〜を観劇後にまた追記したいです。

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