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街頭インタビューはヤラセか? NHKでのロケの実例

今日はTwitterなどでよく話題になるテーマ「街頭インタビューはヤラセ?」について。

結論を言えば、街頭インタビューにおけるヤラセは、私のレベルでは一度もありません。というのも、衆人環視の街中でヤラセを行うのは大変リスキーだからです。通報されたらアウト。また、そのためにエキストラを雇っても、街頭インタビューは数の勝負なので金銭的にも管理の上でもコストが嵩んでしまいます。

用意したとしても、エキストラは実質素人と変わらないので「あの街頭インタビュー、台本・カンペ読まされたよ」と暴露されたらオシマイです。

仕込みは日常だが、ヤラセは無い

確かに、店のロケで背景代わりに家族や友人を置いておいたりする事は、許可取りの問題からよく行われています。賑やかしに使う「楽しい!」レベルの一言なら、そういう「仕込み」の人に流れで聞く事も実際あります。

しかし、街頭インタビューは、ある程度内容を語るものです。それを言わせようとしたら台本・カンペが必須です。そんなものを用意したら足が付くばかりか、結局、想定の範囲内という事で面白くならないんですよ。だからヤラセをする意味がありません。

取材で既に確かめてある「世の中の傾向」を象徴するような音声を街頭インタビューで表現する必要に迫られる事もありますが、それなら数打てば撮れるからヤラセに訴えるメリットは無いのです。

「複数の番組に同じ人が出てる!」は起こるべくして起こる“偶然”

しかし、私が「ヤラセは無いよ」と言っても、信用できないという方がいらっしゃるでしょう。

「でも、この前のNHKの街頭インタビューに出てた人、前も出てたでしょ?」とか「NHKでもTBSでも同じ人出てたぞ?エキストラじゃね?」といった反応ですね。

何故か様々な番組で被る街頭インタビュー出演者の怪

実は、この裏にはカラクリがあります。

ちょっと皆さんに考えて頂きたいんです。わざわざ好んでTVカメラの前に立ちたい奴って、どんなメンタリティの人物なのかを。

街頭インタビューに好んで映る人物は「目立ちたがり」

基本的にTVに映ることに何のメリットもありません。粗品くらい貰えることはあるかもしれませんがノーギャラ。肖像もTV局が好きに利用できます。何なら、出演承諾と引き換えに、個人情報も収集されてしまいます。

日中に映ってたらサボってるようにも見えます。本人がいてはいけないところにいたことが詳らかになるケースもあります。また、メイクが不十分な状態で映ったら隠したいはずのシミなどが永久に情報空間に漂い続けることになります。はっきり言って、映ることは物凄いリスクです。

正常な判断能力を持っていたら、TV局の街頭インタビュー取材など受けるはずが無いのです。受ける人というのは、基本的にかなり限られます。

では、どういう人が街頭インタビュー取材を受けるのか?

端的に言えば、目立ちたがり屋です。彼らは彼らで、売名や記念などの目的を持って意図的に街頭インタビュー取材を繰り返し受けています。どうすれば街頭インタビューに出演できるかを知り尽くした上で、何度もカメラの前に立っているのです。

街頭インタビューを受けるリスクはご承知の通りですから、普通はTV撮影クルーを見かけると、一般の方はみんな背を向けたり、足早に通り過ぎたりと、極力声を掛けられないようにします。

そんな時が「目立ちたがり」の出番です。

TVクルーを物欲しげに見つめている人には、私たち撮影スタッフも藁をもすがる思いで撮影依頼をしてしまう訳です。しかも、ハキハキと端的にノリ良く話してくれる人なんて稀ですから、渡りに船とばかりにオンエアでも使ってしまうのですよ。

街頭インタビューのポイントはほぼ決まっている

街頭インタビューには警察との兼ね合いもあります。実は、撮影できるポイントがほとんど決まっているのです。というより、撮影できない場所が多いのです。

警察からすれば「道路使用許可を取れ!」という事案ですが、TV局からしたら「三脚を常設するわけでもないんだから報道の自由の侵害だ!」となり、両者が真っ向から対立してしまうのです。それもあって、商業施設内でインタビュー収録を行なっているケースもよくあるんですよ。

この、警察による治安・秩序・安全な通行の維持と、TV局の知る権利に応えるための報道の自由のパワーバランスは実は地域によって異なります。例えば、東京で言えば、人混みの多い渋谷区は厳しいですが、比較的道路が広く混み合いづらい港区などはそこまで気にしていなかったりします。

と、このような制約から撮影しやすいポイントは必然的に絞り込まれてきます。場所のバリエーションが乏しいことも、様々な番組で被る可能性を高める要因になっているのです。

ちなみに、銀座の歩行者天国などは制作者目線からすると最高です。節度を守っていれば撮影の制約が少ないことはもちろん、普通の人もメイクをバッチリ決めて着飾って繰り出してくるから「目立ちたがり」になりやすい“地形効果”を備えています。だから、たとえ休日にズレ込んだとしても、歩留まりの良い銀座に行くんです。ただ、若干お金持ちの高齢層が多いので、庶民派の番組の場合には場所を変えて商店街・商業施設を狙いますね。

街頭インタビュー回答者の情報は共有されない

さらに、街頭インタビューにはもうひとつ特殊な事情があります。「月曜から夜ふかし」などは追跡取材もよく行うので個人情報をきちんとゲットして管理していますが、NHKの場合、個人情報を記載した出演承諾書まで貰うことは稀です。大体、街頭インタビューは急いで撮っていますから、口頭承諾で個人情報も特に取りません。そんなハードルを作ったらヒット率が下がりますから、取りたくないのがホンネです。特に、ニュースならまず承諾書は取らないでしょう。その辺の情報管理の意識がクソほど乏しいから。

ちなみに、台風でずぶ濡れになりながら、上着もちょっと透けたような状態になっている方が時々映り込んでいますよね?ご本人が気付いた場合、ああいった方からは頻繁にクレームが寄せられるので、資料映像も使用禁止となっているケースがよくあります。

が、街頭インタビューの使用禁止というのはほとんど見た事がありません(オンエア前に使用しないで欲しいという要望が局の代表に来ることがありますが、ほぼ100%カット済みの人だから大丈夫です)。映る人も好きで映ってますからね。

と言っても、街頭含めてインタビューの資料映像を使うようなダサい真似をするのは報道関係者しかいませんけどね(私は一部資料映像使わせてくれとニュースの人に乞われてOK出したら、報道でインタビューまで再利用されてて唖然としたことがあります)。

本題に戻りますが、通常の出演者とは異なり、街頭インタビューの出演者というのは情報が管理されていないのです。だから、「この人、前回○ヶ月前に出たよ」とか「この人は通算○回目」などの情報は現場には全くありません。

つまり、一部の特異な「目立ちたがり」が追い込まれたディレクター/記者の心のスキマにすっぽりと嵌まる。警察とトラブルを起こしたくないから、安全性が高い場所にいつも行く。「目立ちたがり」も撮影クルーの多い地域をいつも回遊する。さらに、収録してオンエアした人の情報が共有されないため、何度でも出演してしまう。これこそが、「複数の番組に同じ人が出てる」カラクリなのです。

もちろん、私が知らない範囲で、プロデューサーから「絶対このインタビュー撮ってこいよ!」と圧を掛けられた業務委託や立場の弱い職員がヤラセに訴える可能性はゼロではありません。ですが、そんなリスクとリターンの釣り合わないことをやる意味は無いのです。私だったら、その指示を録音なりスクリーンショットで残しておいて、総合リスク管理室に通報しますよ。まぁ、その総合リスク管理室もクソの役にも立たないのですが、このような事案においては当該プロデューサーは間違いなく処罰はされるでしょう。

仕込みはNHKにおいても、いくらでもある

内容の指示も伴う、言い換えれば、内心と異なることを言わせるような「ヤラセ」についてはまず無いと言えますが、その一方「仕込み」は幾らでもあります。というか、私も仕込みは幾らでもやってきました。

一般の人からすると区別が付きづらい事案かもしれませんが、「こんな話聞くんで、いついつどこどこに集まっといて貰えませんか?」といったことは当然ながらやります。

冷静に考えてください。1クルーを1日出したらコストは30万くらいはかかります。タクシー移動でカメラマンに音声収録も依頼したとしてもディレクター分と合わせて最低10万はかかります。ディレクターが単独で撮るとしてもその分ほかの作業がスタックするので、コスト的には決して少なくありません。撮影というのは、たとえNHKにおいても無視できないコストです。いや、公金のNHKだからこそコストカットが厳しく求められる、と言うべきか。

となると、空振りは出来るだけ避けたいのですよ。というより、全てにおいて空振りはあってはならないんです。無駄遣いだから。

ただし、守るべき一線はあります。それは、内心を侵害しないこと。

もちろん素人相手ですから、思っていることの言語化が上手くいかなくて、ディレクターが“助け舟”を出してリテイクしたり、スケッチブックのような小道具に書かせてみて読ませるようなことはやります。

それでも「思ってもいないことは絶対に言わせない」ことが重要です。

確かに、インタビューは聴き方次第で幾らでも制作者の思い通りに誘導して編集することができます。この点は、一般の皆さんが思っている以上に、本当にディレクターがコントロール出来ます。スキルさえあれば、本人が思っていなかったことさえ、「なるほど!言われてみればそうかも」と納得させつつ番組的に必要な方向に曲げることも容易に出来ます。

だからこそ、内心を侵害しないという一線を守ることだけは、自主規制の観点からも必要なのです。

街頭インタビューをどう見るべきか? どうあるべきか?

では、街頭インタビューを一般の皆さんはどう見れば良いのでしょうか?

これは簡単です。街頭インタビューはまともに見ないこと。あくまで、すでに取材で確認が済んでいる全体傾向(統計)を見せるための肉付けに過ぎません。

そして、NHKやTV局はどうあるべきか?

街頭インタビューで物を語らないことです。最低2人、多くても5人も映りませんよね?尺の問題で。そんなので何かを語れるわけがないんですよ。あくまで制作者の主観に過ぎないのに、一般人に代弁させるなって話です。ぶっちゃけ、街頭インタビューなんて禁止したらいいんですよ。Twitterの抜粋読み上げとかもそう。その街頭インタビューを起点にその人の物語が始まるとかで無い限り、街頭インタビューなんか使用禁止にすりゃいいと思いますね。

※今回、一時的に公開範囲を広げた関係でこの先を有料にしていますが、ほとんど記述無しです。購入=サポートとほぼ同様なのでご注意ください。また、ご購入頂いた方、注意喚起が無く申し訳無いですが、数日のうちに元の公開範囲に戻します。

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