小鉄
彼はいつでもチュールを持ち歩いている
いついかなる時野良猫に遭遇するかわからないからだ
撫でさせてくれないかなあちょっとだけでいいから
彼の異様な猫愛も野良の警戒心を解きほぐすことはできず
常に残念な結果に終わっていた
私の飼っている猫は小鉄という
愛称はこてったんだ
小鉄を愛でるパーティーを略して
私たちはコテパーを頻繁に催す
彼は小鉄にデレデレでその愛が伝わっているのか
彼が来ると小鉄は私に見向きもせず
ずっと彼の膝に乗りっぱなしになっている
大きな猫だから乗せてて重いでしょうと心配する私をよそに
彼らは深く睦み合う
私の手料理を食べるときも小鉄は彼に乗りっぱなしなので
彼は小鉄の上にこぼさないようにそうっと食べている
本当に愛してるんだなあ
ふかふかの毛並みを撫でる仕草の優しさも
見つめる瞳の色の暖かさも
彼が心の底から小鉄を大切に思ってるのが伝わってくる
小鉄と一緒のとき彼は小鉄のことしか見えていない
でも今は負けてあげる
私の猫にありったけの愛をあげて
黙って皿でも洗ってるからさ
そうして年月が経ち彼の小鉄への愛がますます深まる頃
小鉄は17年の生涯を終えた
亡骸を抱き締めながらひとしきり泣き喚いた後
彼に連絡するとありえない速さでバイクで飛んできた
冷たく固くなった体を抱きながら
彼は小鉄、小鉄、と何度も繰り返し呼びかけた
もうあの可愛い声でニャアとは応えてくれないのに
彼の涙を初めて見た
愛するものを失った純粋な涙だった
花を買ってくるからそばについていてあげてくれると聞くと
彼は涙声でうんと頷いた
私がいなかった約30分
彼は小鉄と何を語り合っていたのだろう
もう甘えて膝に乗ってこないことを
どれほど悲しんでいただろう
彼は火葬まで付き合ってくれた
一緒に骨を拾った
ペンダントにしておきましたよと
親切な業者さんから2つ骨の入ったカプセルをもらった
ねえまだ持ってるかな
今もチュールを持ち歩いてる?
忘れないであげてねあなたの愛した猫のことを
私のことは忘れていいから
いつか天国で3人再会したら
またコテパーをしようね
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?