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今夜は一緒にお風呂に入ろう
何コイツ急にトチ狂ったこと言い出してやがんだと唖然としていたら
今日は夫婦の日だろうとあなたは微笑んだ
ああなるほどね、でもヤダ
寝室に閉じこもり布団を頭からかぶる私に
入ろうよ、入ろうよ、とあなたは甘えた声で繰り返す
「うるせぇんだよ!いい加減にしねえとシバくぞ!」
こういう時に元ヤンが出てしまう
お育ちのいいあなたをビビらせるにはこの一喝で充分で
しょんぼりしながら部屋を出て行った
いやはや便利な過去を持ったものだ
本当は最近ちょっとヤバいおなかの肉を見られたくないからだなんて
そんな女の子みたいな理由言えない
あなたのご両親に初めてご挨拶に伺ったとき
私はトップクを着て真っ黒な口紅を塗って行った
それが私にとっての正装だからだ
お父様お母様にお会いするんですもの
流儀は曲げないで行かなくちゃ
高級住宅地にそびえる豪邸の中で
ご両親は最初は目を丸くしてフリーズしてたけど
さすが上流階級の方は本音と建て前を使い分けていて
きれいなお嬢さんだこととオホホと笑った
まあそれから親族の集まりに私は出禁になったんだけど
ベッドから起き上がって浴室に向かった
背中流してあげる
腕まくり足まくりする私に
君も裸になればいいのにとしつこいので
「何度言わせんだよ!これだけでも有難いと思え!」
すると素直にごめんなさいと謝った
生まれも育ちも全く異なる二人
あなたは凶暴な野良猫を手なずけるように私を愛した
あなたの上品なオーラは私の警戒心を徐々に解いていった
愛されたことなんてなかったから
何を施されてるのかもわからなかった
でもある日の夜
誰もいない夜道で
まるでヘレンケラーが初めて水に触れたときのように
これが愛されてるってことなんだと急速に理解した
誰もいないのをいいことにその場に崩れ落ちて泣いた
あなたに会いたかった
抱き締めてキスをして大丈夫なんだよと囁いて欲しかった
それからの展開は早かった
何しろ実家出禁なので結婚式などはせず
籍だけ入れた
トップクはクローゼットの一番奥で眠っている
恐妻家っていうのかなあこういうの
でも全てを包み込んでくれるあなたによって
凶暴な野良猫は飼い猫へと変わった
たまに野良の爪が出るけどね
こんな私を選んでくれたあなたには感謝しかないけど
そんな女みたいなこと言えっこない
とりあえず背中さっぱりしたでしょう
今日はこれで許してね
たまに見せる照れた顔が可愛いんだよなあとか
抜かしてくるから
仕舞っておいたメリケンサック登場するか
なんてこれは冗談
とりあえず伝えたいことはこれからも
夜露死苦

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