殺し屋

誰もわかってくれない
誰も助けてくれない
それを承知で生きてきたんだろう
私は誰にも知られることなく人を殺すことができる
首の後ろにあるほんの数ミリずれただけでも無効な
ある場所に針を刺せばいいだけだ
ある人が私をそういうふうに仕込んだ
レイプされて妊娠して私を産んだ母
世の中は全員敵だと教え込まれた
お前は自分の身は自分で守れるようになりなさい
私のようにならない為に
今までに何人殺しただろう
街中で声を掛けてきた男を誘惑して路地裏に連れ込み
抱きつくふりをして秘孔を刺した
崩れ落ちる男の方を振り返ることもせず
私は鼻歌を歌いながら雑踏に紛れた
足がつくことはまずない
今日も殺したよ
そう母に告げると
立派になったわねと抱き締めてくれるけど
どこか悲しげなのはなぜだろう
あなたが私を造り上げた
私はこの生き方以外に何も知らない
極々秘密裏に受注を受けることもしばしばある
こいつの息の根を止めてください
依頼人は皆蒼く燃えている
それを消して楽にしてあげるのが私の仕事だ
報酬は悪くない
お天道様の下に出てこないだけで
私のような殺し屋はかなりいるはずだ
でも一度もしくじったことがないという口コミを
どこからか聞きつけて
依頼人は途切れることなくやってくる
ある日母が首を吊っていた
カーテンレールにぶら下がって
特に驚かなかったが少し驚いたのは
母の体がカーテンレールを壊さない程軽かったことだ
私生活が外に漏れるとまずいので
庭にスコップで掘って埋めた
墓石も花も供えなかった
どこに母が眠っているかなんて
分かったところで何になる
誰もわかってくれない
誰も助けてくれない
それを承知で生きている
いつか母をレイプした男を探し出して殺すことだけが
私のささやかで穏やかな夢だ

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